179 緊急連絡に驚いた
野営地を出ると街道は左右に分かれる。
昨夜の話し合いの結果によっては、俺達と勇者達はここで別れていた。
だが話は上手くまとまったので、エルドラの我が家へと向う。
今俺はインテリオークと二人だけで馬車に乗っている。
会合があると言って、勇者達とは別の馬車で行動しているからだ。
ドクロの飾りなどない普通の馬車でな。
何か物足りなく感じてしまうのは何故!
「それで、勇者達を追い出して何の話なんだ」
そう俺が切り出すと、インテリオークは一枚の大きな地図を広げて言った
「先日ですが、魔王城ダンジョンからこの地図がドロップしたのです」
ダンジョンのドロップ品となると、魔道具に違いない。
「これは……荒れ大陸の地図じゃねえかっ」
思わず大声になる。
荒れ大陸の地方の小さい地図は存在するが、全体地図など存在するはずが無いからだ。
全体地図を作るには、全ての種族の支配地域に入らなければならず、魔物が支配する荒れ大陸では不可能に近い。
それにこんなに細かく描かれた地図など見たことない。
インテリオークは言葉を続ける。
「そうです。しかもこれを見て下さい。街や小さな村まで記載されています」
グースの街や魔王ダンジョンまで詳細に記載されている。
そしてインテリオークが、地図の端の方を指差して言った。
「この街を見て下さい」
かなり大きな街が記載されている。
海に面した大都市と言っても良い。
そこで気が付いた。
「おい、これって港か」
そう、港湾設備まで持った大都市。
「そのようです。大きさから見ても、数十隻は軍船があるでしょう」
「種族はわからないのか」
「残念ながら特定は出来ていませんが、港があるとなると魔物ではなく、亜人種の可能性が高いかと思われます。それと寒い地方ですので、寒さに強い種族と予想します。そうですね、例えばコボルト族とかですか」
コボルトか。
有り得そうだな。
それに魔王がいる可能性があるんだよな。
「最優先でその周辺を調べ上げろ。特に魔王情報だ」
「了解しました」
「それと過去に魔王が出現した時の状況を知りたいんだ。どうやって魔王と判定できたかとかな。魔物の歴史で調べてくれ。ハルトにも人間の歴史文献で調べてもらうつもりだ。王都の資料室に入れるのは勇者くらいだからな」
「分かりました。各種族の族長にも調べさせます」
「あ、それとこの地図は魔道具なんだよな?」
するとインテリオークは残念そうに答えた。
「それが鑑定の結果、使い切りの魔道具だったらしく、これは使用済みです。どうやら元々は白紙の地図で現れ、地図の場所を指定すると地図が完成する魔道具だったようです」
「発見者が指定してしまったのか。もったいない。別の未開の大陸を指定するとか、ダンジョンを指定すればかなり有用だったのにな」
そんな話をしている間にも、エルドラの街へと到着した。
直ぐに冒険者ギルドに報告に行くハルト達。
俺はハルトにバンパイヤ関係の証拠や集めた資料を渡して、全ての報告を彼らに任せた。
もちろん牙もだ。
それとハルトには先ほどの話にあるとおり、王都に行った時には魔王について資料で調べるようにお願いした。
ここでハルト達とは一旦別れ、俺達は自宅へと向かった。
そして久しぶりに会う獣魔達を見て驚いた。
「ラミ、ハピ、何でそんなに太ってんだよ」
確実に喰う寝るの繰り返しだったと思われる姿。
家に専属のコックやメイドがいるから、何もせずにぐうたらしていやがったか。
ダイは全然変わってないのにな。
明日にでも、少し運動させに出掛けるか。
そこへ獣人の使用人が俺を呼びに来た。
「ライ様、お客様がお見えになりましたが、いかがなされますか。服装から見てお貴族様のようですが」
帰宅した早々これか。
また面倒臭い案件だろうな。
でも追い返す訳にもいかない。
「分かった、今行く」
ちゃんとした服装に着替え直し、俺は玄関に向かった。
玄関前で待っていると、門の方から馬車がやって来る。
間違いなく貴族仕様の馬車だ。
馬車が止まると、中から人間の中年男が降り立った。
それほど高い地位では無さそうな身なりだったが、一応護衛も二人いる。
だがオーク兵がそこら辺にいるからか、護衛二人は落ち着かない様子だ。
その中年男は俺の前に来ると、自己紹介を始めた。
何でも伯爵に仕える貴族らしく、使者としてここまで来たという。
「で、俺に何の用だ」
前置きが長いので、打ち切ってやった。
「え〜、はい。私の主様がライ様にお会いしたいと……」
話の途中だったが、ハッキリと言ってやった。
「だが断わる!」
「は?」
ここまでハッキリと言われるとは思って無かったようだ。
だいたい、そういう貴族のちょっかいは、エルドラの領主のレンドン子爵が止めてくれる約束なんだがな。
こいつ、レンドン子爵を通してないな。
「おい、俺に会うにはレンドン子爵を通す決まりになってるんだがな。レンドン子爵からは何の連絡も無いぞ」
「我が主は、そのレンドン子爵が属する派閥の長ですので、わざわざ通す義理もないのです」
うわっ、最悪のパターンきた。
「だが断わるっ」
使者が少し慌てだす。
「いや、あの、相手は伯爵様ですよ。ライ様の身分で断わるとか、それはどうかと思いますが」
やっぱり身分かよ。
「ならば代わりにオーク族長とその側近を行かせる。それで文句ないな」
「族長とは、まさか、オーク・キング……」
使者の顔が青ざめた。
「そうだ。オークの王が行くなら文句無いだろ、どうだ?」
「た、確かにそうですが、亜人とはいえ、魔物が伯爵領内にですか……」
「何だ、足りなければ、他の魔物種族の族長達も連れて行かせるぞ。そうだな、魔人族とかどうだ?」
「いえっ、オーク・キング様で十分でございます!」
良し、面倒臭い回避!
「俺がオーク族長に連絡しとくから、大人しく領地で待ってろ。ああ、それからオーク族長は気性が荒いから怒らせるなよ」
こうして何とか、伯爵の使者は追っ払った。
一応レンドン子爵にもこの事は伝えておく。
翌日の朝、伝書カラスが来た。
送り主は意外なことに、魔王ダンジョンを管理している、管理責任者からだった。
このパターンは初めてだ。
いつもならインテリオークを通すんだが。
そして手紙を見て、その内容に目を疑った。
【城ダンジョン内で魔物として、バンパイヤが現れた。それが前に見た悪逆のゾエに似ているとの情報有り】
俺はしばらくの間、放心した。