171 本拠地を見つけた
いつもなら獣魔達がいる馬車の中だが、今は俺とヒマリの二人だけ。
二人だけだと会話に困るよな……
沈黙の時間が続く中、ガタゴトと馬車の音が鳴り続ける。
き、気まずい。
何かしゃべらないと。
「ハルト達は三人でバンパイヤ討伐やってるんだよな。ヒマリがいなくて困ってるんじゃないのか」
良し、まずは口火を切れた。
するとヒマリ。
「今はハルトとリンの二人だけだよ」
は?
どういうことだろうか。
「えっと、大錬金術師のルリ・ルールはどうした」
「ちょっと前にパーティーを抜けたの」
「何で?」
「私達ってさ、加護持ちでしょ。だから成長が普通の人よりも早いみたいなの。それでね、ルリちゃん、私達に付いて来れなくなっちゃったみたいなでね。それでさ、自分から抜けるって言ってきてね……」
なるほどね、有り得そうな話だ。
こいつらあっと言う間に強くなっていったからな。
それに異世界人ばかりのパーティーで、話に付いていくのも大変だろうし。
「何となく俺にも分かるかな。でもそれは仕方が無いとは思うよ」
そんな会話の最中だった。
突然馬車が止まった。
何かと思って窓から顔を覗かせると、前から歩いてくる人間の男女が見えた。
男はかなりの怪我をしているようで、女の肩を借りて何とか歩けている。
俺が馬車から降りると、ヒマリも直ぐに降り立った。
そしてヒマリは目を細めて何か詠唱した。
遠目の魔法の様だ。
そしてヒマリは「はっ」として様子で、直ぐに走り出す。
「ハルト、リン!」
何と、ハルトとリンの二人なのか!
ボロボロの姿じゃねえか。
俺もヒマリの後から走り出す。
そしてヒマリをぶっ千切って、ハルトとリンの元へたどり着く。
ボロボロだが、確かにハルトとリンの二人だった。
「ったく、酷い怪我じゃないかっ。ポーションは?!」
するとハルトに肩を貸すリンが顔を上げてポツリと言った。
「駄目よ、あいつにはかなわないから……」
そう言って崩れる様に倒れ込んだ。
慌てて俺は二人を支える。
ハルトの傷を診ると、どうやら治癒魔法は施された後らしい。
それでもこの有様ということは、瀕死の重傷だったということか。
相手がバンパイヤなら、昼間の今は安全時間帯。
追い付いたヒマリがリンを抱える様に道の端に運んでくれたので、俺はハルトに肩を貸す。
ハルトの意識は朦朧としていて、少し安静にさせた方が良さそうだ。
その間にも獣人兵達が毛布なども持って来てくれた。
さらに周囲の警戒もしてくれている。
しっかり訓練はされている様で安心した。
ハルトは横になると直ぐに眠ってしまう。
リンは何とか意識は保っている様だから、俺はリンに少し話を聞くことにした。
「なあ、リン、疲れているところ済まないが、事情を説明してくれるか」
そこでやっと俺の存在に意識を持ってこれたようだ。
グッタリとした感じで木に寄り掛かり、うつむいたまま腰を下ろしていたリンだが、突然俺を見て話し出した。
「あ、ライ……あれ、私、どうしてここに……」
記憶が曖昧になっているらしい。
かなり過酷な戦いだったんだろう。
ヒマリがいなかったとはいえ、加護持ちであるハルトとリンは相当強くなっているはずだ。
それが二人して瀕死の重傷とか、かなりレベルの高いバンパイヤが出てきたか、多数のバンパイヤを相手にしたからだろう。
「リン、バンパイヤと戦ったんだよな」
「あ、そうそう。どうしても倒せない一体がいてね……結局倒せなかったのよ……でもハルトが最後に必殺の一撃を喰らわしてやったの。あ、ハルトはどこ。そう、ハルトが重傷なの!」
突然思い出したのか、リンは慌てて周囲を見回し始めた。
ヒマリがそれをなだめる。
「リン、ハルトはほら、あそこで寝てるから安心して。もう大丈夫だから……」
そう言ってヒマリが優しく抱きしめると、落ち着いたのかリンは身体の力を抜いていく。
この状態だと二人からは、詳しい話を聞け無さそうだ。
ヒマリはリンをゆっくりと横にならせ、毛布を掛けた。
するとしばらくして、リンから寝息が聞こえ出した。
こうなったらヒマリから出来るだけ情報を聞くしかないのだが、元の情報は冒険者ギルドからもたらさらたものだ。
勝手に情報を広めるのは、ギルドから禁じられている。
そう簡単に教えてくれるはずがない。
「え、良いよ。誰にも言っちゃ駄目だからね。えっとね――――」
いとも簡単に話し出すヒマリ。
ある金持ち商人が怪しい、という情報から始まったらしい。
昼は姿を見せず、陽が沈んでから行動するという。
そこで近隣の街にバンパイヤ・ハンターの潜入員が入り込み、色々と情報を集めをした。
対象の相手はかなりの金持ち商人らしく、常に多くの護衛を引き連れていた。
それも複数の隊商を組んで、全て夜に行動する怪しさだ。
使用人や警備の者は昼間でも行動している者もいるが、ある決まった者達だけが夜に行動するという。
確かに怪しいよな。
っていうかバンパイヤだろうな、そいつら。
恐らく使用人や護衛は全て、彼のエサになっていると思う。
一度バンパイヤのエサになると、定期的に血を吸われないと生きていけなくなる。
つまりバンパイヤ奴隷となる。
厄介なのはエサとなった者の判別方法は、その禁断症状を見て判断するしかないってことだ。
普通に生活をしていたら、全く分からない。
ただ時々だが首筋に、バンパイヤが血を吸った牙の跡がある場合があり、それでエサかどうか判断するベテランのバンパイヤ・ハンターもいるという。
それでハルト達はその情報を元に、街での情報を調べたのかと思いきや、そんなことはなかった。
「夜に待ち伏せしてね、直接その商人の隊商を襲ったのよ。でもね、時々失敗もしたかな」
そんな事を言うヒマリ。
何と大胆な行動というか何というか。
頭悪いんじゃないの?
人間というより魔物に近い行動パターンなんだけど。
しかしそれが正解だったのか、やはり隊商にはバンパイヤが潜んでいたらしい。
後始末や情報統制は、バンパイヤ・ハンターがしてくれたそうだ。
それを何度か繰り返し、最後には敵の本拠地らしい屋敷を見つけた。
もちろん突撃したそうだ。
バンパイヤは複数いたが、対バンパイヤ装備で挑んだのが効果を発揮し、雑魚バンパイヤは一掃したという。
しかし親玉的なバンパイヤと、その部下二人がかなり強かったらしい。
徐々に押されて劣勢となったハルト達は、一旦は撤退して屋敷を見張りながらバンパイヤ・ハンターに応援を頼んだ。
バンパイヤ・ハンターの応援は近隣の街に待機していたらしく、直ぐに十人ほどが駆けつけてくれたそうだ。
さらにもう十五人がこちらに向かっているという。
しかしハルト達はその先発の十人のバンパイヤ・ハンターとだけで屋敷へ突撃し、取り巻きのバンパイヤ達も全て排除し、残すところ親玉の商人だけとなった。
しかし、そこからが上手くいかなかった。
スランプに陥り全然書けませんでしたが、急に復活してスイスイ書けるようになりました。
しばらくは一日置きくらいで投稿する予定です。
よろしくお願いします。