表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
168/204

168 条約文書を作成した






 メイビの街中を俺達の隊列が行く。


 メイビの街は海が近いため、ずっと潮の匂いがしている。

 建物の壁は何らかの理由で、白い土壁造りになっていた。

 それで街中の建物は全て真っ白。

 初めて見たらその景観に圧倒される、そんな街だった。


 水上輸送が栄えている街とあって、各地方から来た多種多様な人種が通りを行き交っている。

 ただし獣人はいるが亜人や魔物はいない。


 俺はもっぱら海産物料理に興味が湧く。

 通りには露店が多数出ていて、土地柄か魚介類を売っている店が多い。

 ダイもずっと鼻をクンカクンカさせている。


 多種多様な人種や物も多いこの街なのだが、どうやら俺達が乗るこの馬車は珍しいらしい。

 というか凄く目立っている。

 通りを行き交う誰もが二度見するんだが。


 馬車に取り付けた風車は速度を出さなければ鳴らないし、戦装束いくさしょうぞくのオーク兵も居ないから、それほど目立っているとは思えないのだがな。

 確かに十人以上の武装した獣人兵がいるが、要人護衛では良くあることだし。

 そこで思い出す。

 初めてこの馬車を見た時の自分の気持ちを。


「そうか、忘れてたな……慣れって怖いよな」


 思わずつぶやいていた。


 冒険者ギルドが見えてきた。

 その近くには十人程の兵士が見える。

 装備からして伯爵の部下だ。

 やはり居たか。


 だがこっちには伯爵本人がいる。

 人質としては最高の人材だ。


 俺達が冒険者ギルド前に馬車を乗り付けると、ギルド内に待機していたのか、新たに兵士が十人ほど出て来た。

 ただし伯爵の兵士とは明らかに違う装備だ。

 それを見てローマンが教えてくれた。


「あれはこの街の衛兵だよ。だから今は僕の母上の部下になるかな」


 なんだかややこしいな。


 冒険者ギルド前には伯爵の兵士とローラン母の兵士、そして味方の獣人兵が対峙した。

 お互いに剣の柄に手を掛けたまま、にらみ合いが続く。


 そこで俺は馬車の扉を勢いよく開ける。

 もちろんそこにいる全員が注目する。


 俺がゆっくりと馬車から降りると、それに合わせたように翼をひるがえし、空からハピが舞い降りた。


 急な来訪者に視線がハピに集中した。

 街の真ん中に突然高ランク魔物が飛来したのだ。

 当然周囲の者は大慌てだ。


 そこでハピは周囲を見まわし口を開く。


「ライさんが通りますわよ、道を開けるのですわ!」



「魔物がしゃべった!」

「何で街中に魔物がいるんだ」

「おい見ろ、獣魔の札を下げてるぞ!」


 騒ぎがさらに大きくなるが、獣魔だと知れると手出し出来なくなり、場が膠着こうちゃくしてしまった。


 その隙に俺はローランを連れて、こっそり冒険者ギルドの中へと入って行った。

 冒険者は皆、外の騒ぎの野次馬に出て行き、ギルド内はガランとしていた。


 誰も並んでいない受付に行き依頼表を出すと、ギルド員が血相を変えて奥へと行ってしまった。

 どういうことだよ、失礼な奴だ。


 しかし直ぐに奥から老人が出て来て、ギルド長を名乗った。

 俺とローランはそのギルド長に連れられ、こっそりと奥の部屋へと案内される。

 案内された部屋の中には貴族風の女性がイスに座って待っていた。

 護衛らしき兵士二人が、その女性の両サイドで目を光らせ立っている。


 直ぐにローランが反応した。


「母上!」


 すると貴族風の女性。


「ローラン、良くぞ遠い道のりをここまで無事に来れましたね……」


 見た感じだと敵対はしていない様に思える。

 

 そこで俺は言葉を挟む。


「俺は冒険者のライ。護衛依頼を受けた者だ。ローランを受け渡す相手は貴方で間違いないか」


 するとローラン母。


「はい、依頼は私が出しました。ローランの母のベルタと言います。この都度は危険な依頼を受けて下さいまして、本当にありがとうございました。無事にローランは引き取ります」


「そうか。だがな、まだこの依頼を終わらせる訳にはいかなくてな」


 ローランの母のベルタ夫人が、不思議そうな顔で聞き返す。


「どういうことでしょうか?」


「実は馬車の中に捕縛した伯爵がいる」


 ローラン母と護衛の三人が驚いた表情で俺を見た。

 言葉を返せないようなので、俺は話を勝手に続ける。


「この場で伯爵とローラン、そしてベルタ夫人の三人で、領主の引継ぎをしてもらいたい。もちろんちゃんと書類に残す事が前提だ。それに加えて伯爵が今後ローランに悪さをしない事、それと俺達に手出しない事を書類に記して文書に残してもらう。その辺の仕切りは得意な者が部下にいるから任せて欲しい。何か問題あるか」


 そこでベルタ夫人の護衛の一人が代わりに答えた。


「何を言うか。領主の引継ぎはちゃんと正式な儀式があるんだぞ。そんなことも知らないのか」


 そう言われるのは想定済み。


「そう言うならば外を見てみろ。この混乱する中を移動でもしてみろ。直ぐに毒矢が飛んでくるぞ。あ、それが狙いか?」


 護衛の兵士が眉間にシワを寄せて返答した。


「な、何だとっ。無礼な!」


 あれ、もしかしてこいつ、伯爵の息が掛かった奴か?


「このギルド内で終わらせれば、直ぐに解決するんじゃないのか。それとも身内の血なまぐさい争いを領民に見てもらいたいのか、それとも調印されるとマズい者でもいるのか?」


「貴様っ――――ベルタ様、こんな冒険者風情の言う事など、お耳を傾けてはいけません!」


 しかしベルタ夫人は護衛の男を制した。


「少し黙りなさい」


「し、失礼しました……」


 静かになった所でベルタ夫人は話を進めた。


「良い提案です。それでは直ぐにでも始めましょう」


「良い判断だ。ベルタ夫人、貴方はローランの味方のようで安心した」


 するとベルタ夫人は笑顔で答えた。


「ライ様、貴方がローランの護衛で幸運でした。それにローランは良い友が出来たみたいですね」


 するとローランは一度俺を見た後、ベルタ夫人に言葉を返す。


「ありがとうございます、母上」


 ん?

 どういうことだろうか。

 獣魔達ではなく俺なのか?





 その後、駆け足で準備が整えられ、会議室に俺達は集まった。


 ローラン側とベルタ夫人、そして伯爵がテーブルの両側に座っている。

 見届人として、この街の冒険者ギルドのギルド長がいる。

 そして仲介人として俺達が立つ。

 俺とインテリオークだ。


 ローランは右腕を隠そうともせずに、袖をまくってリザードマンの様な腕を露わにしている。


 そしてインテリオークによると文書の内容には、伯爵は今後一切オークレイ家の後継ぎ問題には関われないこと、などが事細かに書かれているという。

 それに俺にも手出し出来ないなど、別に文書を作成した。

 文書の内容は多岐にわたり書かれていて、俺達の分もローランのも、どちらも一冊の本くらいの厚さがあった。

 これは目を通す気も無くなるな。


 俺は文書には一切目を通していないのだが、ひとつだけ疑問が湧いたので、インテリオークに聞いてみた。


「もし伯爵が約束を破ったらどうなるんだ?」


 すると眼鏡をクイッと上げてニヤリとするインテリオーク。


「我が魔物オウドール混成軍団が、全力で叩き潰します。文書にもしっかりそう書かれています。ただしそれに気が付くには、文書全部を読み解く必要があります」


 こいつ、やってくれたな!

 

 







ストックが少なくなりました。再び不定期投稿となります。

m(_ _)m




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ