165 襲撃の理由を知った
ローランが口を開く。
「僕がまだ十才の頃かな。右腕の肘の辺りから鱗状のものが生えてきたのは。直ぐに母親に見つかったんだけど、二人して隠すって決めてね。必死で隠したよ。でも隠し通せる訳ないよね。侍女に見つかって悲鳴を上げられた時には、鱗は指先近くまで広がってたんだよ。そこから僕の生活は激変したんだ。母親以外の全ての人の僕を見る目が変わったんだよ。ショックだったね。薬やポーションは全く効かなくてね、手の施しようがなかったよ。そしてさ、僕の指先まで鱗で被われた頃かな、親戚が集まって話し合いにまでなったんだ。その結果どうなったと思う?」
こういうお貴族様的話は苦手だ。
俺は貧しい生活をしてきたからな。
だから質問されても首を傾げるしかない。
するとローランは話を続けた。
「会議の結果ね、命は助かったんだけど、他の貴族連中にバレないようにってさ、人里離れた小さな家に飛ばされたんだよ。一緒に付いて来てくれたのは、小さい頃から面倒を見てくれた老齢の侍女が一人だけ。そこから僕は平民並みの生活に転落したんだよ。僅かながらも生活費は送ってくれたから、なんとかギリギリの生活は出来たよ。それでしばらくすると父と兄が亡くなって、僕に継承権の話がきたんだよ。だけど叔父が反対したんだ。この鱗の腕を世間に知らせたくないってね。それで弟に継がせて叔父が摂政をすると言い出したんだ。だけど母は僕に継がせようとしてるみたいでね、こんな事態に発展してるって訳だよ。なんか僕の関係ない所で色々動いてさ、やんなっちゃうよ」
俺が「そんなこと話して良かったのか?」と聞くと、ローランは「もうどうでも良くなったよ」と返す。
さらに。
「それにさ、僕はどの道ね、長くは生きられないと思うよ。叔父の力は強大だから、どう転んでも僕を生かしておくはずがないよ」
つまり自分が後継ぎとなったら暗殺されるし、弟が継いでも邪魔な存在だから闇に葬られるということだろう。
どの道ローランはこの先、生きていくすべがないと思っている。
そこまで覚悟しているのか。
人間貴族は本当に面倒臭いな。
さて、こんな所で時間を食ってる訳にはいかない。
新手が来る前に、奴らが乗って来た馬を貰って先を急がなくてはな。
ローラン一人を馬に乗せ、ひたすら街道を前進する。
これで俺達の歩く速度は落ちない。
残りの四頭も換金出来るかもしれないから連れて行く。
これで期限までには余裕で間に合うはずだ。
そこからローランは良く喋るようになった。
特にラミとハピとは仲が良い。
ローランとの共通点として、半人半魔だからだろうか。
そんな訳ないか。
ローランに魔物の腕の話は禁句だというのに、空気読めないハピがその話題に斬り込んでいる。
「魔物の腕が手に入ったのに、何でそんなに嫌がるのか分かりませんわね。私は身体の半分は人間ですけど、魔物の部分の方が全然強いですわよ」
すると驚いたことにローランは、自分の右腕を前に出して袖を捲くった。
鱗の右腕が露わになる。
それは紛れもなく、緑色に光る魔物の手だ。
爪は鋭くリザードマンの様な形状の手をしている。
ローランはそんな腕を見せびらかす様に掲げる。
「何度見ても凄い腕だよなあ。まるで自分の腕とは思えないよ」
と自分の腕を見つめながら、そんなことをつぶやくローラン。
意外と気に入ってるんじゃないだろうか。
そのローランの魔物の様な腕に対し、目を輝かせながら話すのはラミだ。
「凄いじゃねえか。見事な鱗肌だな」
そう言いながらローランの腕に手を伸ばすラミ。
ローランは一瞬、手を引っ込めそうになるが留まった。
するとラミが「おおっ」と目を輝かせながら鱗を撫でる。
何だかローランは恥ずかしそうだが、満更でもない様な表情だ。
すかさずハピも手を出しローランの腕を撫で始めた。
「まるでスケイル・アーマーみたいですわね」
そのハピの発言に対してラミ。
「おお、確かにそうだな。私の蛇の鱗部分もこれだったらどんなに良いか」
ローランはニヤニヤしながら「そうかな」とか言ってるし。
意外とチョロいのかも。
その後、ラミの蛇の鱗部分や、ハピの羽部分をローランに触らせたりと、なんだか楽しそうに見えるのは気の所為だろうか。
その後は特に襲撃もなく山間の街道を抜けた。
そこでやっと橋の駐屯兵の交代要員と遭遇した。
獣魔達を見るなり戦闘態勢をとられたが、何とか説得するところから始め、橋での襲撃を説明した。
半信半疑の様だったが、かろうじて信じてもらえたようだ。
冒険者章とギルドの依頼表を見せたからだろう。
それと現場までついて来いとは言われなかったのは助かった。
さらに先を進み、段々とメイビの街へと近付いて来た。
ローランをメイビの街の冒険者ギルドまで連れて行って、次の護衛の者に引き渡せば俺達の仕事は終わりだ。
丘の上に立つと街が見えてきた。
そして海も見える。
港湾都市といった感じだろうか、そこそこ大きな街だな。
エルドラの街と余り変わらない大きさだが、船が行き交っているから、エルドラよりもなんだか賑わっている感じがする。
街の近くには大きな川が流れていて、その川は海へと流れ込んでいる。
港もかなり大きく大小様々な船が停泊しているのが見える。
ローランによるとメイビの街は、水上輸送で栄えた街で、街中は多国籍の人で溢れかえっているという。
そんな話を聞いていてふと考えたのだが、ローランはどこの街の領主の子なんだろうか。
まさかこの街じゃ……
「あ、そう言えば言ってなかったっけ。メイビの街はオークレイ家が領主で、僕の名前はローラン・オークレイだよ。あ、メイビの街は領都でもあるね」
やぱりそうか。
「ってことはだよ。ローランにとってこの街が最終目的地ってことか?」
「うん、そうだね。多分だけど、冒険者ギルドには辿り着けないと思う」
「何言ってる。ここまで無事に来れただろ。どんな刺客でも返り討ちにしてやる」
するとローランは悲しそうな顔で言った。
「相手が刺客や魔物なら返り討ち出来るけどさ、相手が人間の貴族だったらそれも無理だよね」
どういう事だろうか。
相手が貴族?
「相手が貴族でも攻撃してくれば反撃してやるまでだが、問題でもあるのか?」
するとローランは指を差して言った。
「あそこに見える集団、多分だけど僕の叔父さん兵士達だよ。僕を引き渡せって言ってくるんじゃないかな」
確かにこの街道の先の平坦地に、数台の馬車と兵士らしき人間達が休んでいるのが見える。
ちょっとした休憩というよりも、野営地のようになっている。
ああ、なるほど。
俺達が来るのを待っていたんだな。
まさかの連続投稿w




