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冒険者になった魔物達〜気が付いたら魔王軍と呼ばれてた〜  作者: 犬尾剣聖


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160/204

160 ダイは我慢出来なかった








 入って来た男達全てが同じ様な格好をしていた。

 革鎧に灰色のフード付きマント。

 腰に吊った武器だけはそれぞれ違うが、背負ったクロスボウはお揃いだ。


 全部で十二人いる。

 襲撃してきた連中は、きっとこいつらなんだろうな。


 目つきは鋭く、厳つい顔立ちの男達。

 傭兵だろうか。

 少なくとも真当な職業ではないな。


 ローランが目で合図してきた。

 奴らが襲撃者だと教えてくれたのだ。

 やはりそうか。


 まさか堂々と真正面から来るとは思わなかった。

 

 俺はテーブルの下で腰の小剣の柄を握る。

 槍は部屋に置いてきていた。

 

 まさかこんな人目に付く所で、襲っては来ないだろう……多分。


 男達は室内に入って来ると直ぐに、何かを探すように食堂を見渡す。

 そして俺達のテーブルで視線が止まった。

 だが攻撃するような素振りは見せない。

 そのまま二階の宿ではなく食堂の方へと歩いて来て、空いているテーブルを乱暴に寄せるや、次々に音を立ててイスに腰を下ろしていく。

 店内は狭いから、俺達とは隣同士のテーブルとなる。


 緊張が走る。


 ブーツの泥の付き方から見て、全員が馬で来たようだ。

 店の店員が恐る恐る男達のテーブルに近付くと、「取り敢えずエールを持ってきてくれ」と声が掛かる。

 店員は「へいっ」と一言残して、逃げるように厨房へと入って行った。


 その中のほほに古傷がある男が、突然俺に話し掛けてきた。


「冒険者かい?」


 こいつがリーダーっぽいな。

 俺は平然を装いつつ素直に答える。


「そうだが、そっちは傭兵か」


 すると男は薄っすらと笑みを浮かべながら答えた。


「ああ、俺にはそれしか才能が無いみたいでな。ガキの頃からずっと戦いの中で生きてきたんだよ。言ってみれば俺の天職かな。腕に自信があれば稼げるぞ、どうだやってみないか?」


 驚いたことに傭兵への勧誘だ。

 仲間の男達も驚いているが、中にはまた始まったという顔をする者もいる。

 もちろん俺は丁重にお断りした。


「ふざけるな。俺は暗殺みたいな汚い仕事はしたくないんだよ」


 俺の言葉に男達の視線が鋭くなり、誰かがつぶやいた。


「言ってくれるじゃねえか……」


 一触即発とはこの状況を言うんだろうな。

 俺はさらに言葉をぶっこむ。


「その傭兵がこの村に何をしに来たんだ」


 俺の直球の質問に、古傷の男はちょっとおどけて見せる。


「ふははは、いきなり鋭い質問をしてくるねえ」


 男達の手が徐々に剣の柄に伸びる。

 明らかに殺気立っている。


 そして古傷の男がなおも話を続けた。


「でもよ、傭兵がここへ来たんだからよお、そういう事をしに来たんだろうよ」


 男がその言葉を発した途端、テーブル下のダイが古傷の男に襲い掛かった。


 古傷の男は咄嗟とっさに腕の革鎧部分で、ダイの牙を受ける。


 俺は同時に男達に向かって、テーブルをひっくり返し、ローランを俺の後ろに引き寄せる。


 しかしさすがは傭兵、数々の修羅場を潜り抜けてきた猛者なんだろう。

 俺達の先制攻撃は難なくいなされてしまった。


 古傷の男がダイを払い除けながら怒鳴る。


「逃がすなよ!」


 男達がマントをひるがえし、一斉に剣を抜いた。


 マズい状況だ。


 周りの客達も驚いて剣に手を掛けるのだが、戦闘に参加するつもりは無いようで、店員と一緒に早々に外に避難して行く。


 その内に村の兵士が来るだろう。  

 そうすれば事態は収まるはず……だよな?


 だが、それを待ってはくれそうにない。


 男達が一斉に襲い掛かって来た。


 普通、そうなるよな!


 俺は上手くテーブルやイスを使って、敵を翻弄ほんろうするが、防御するのとローランを守るので手一杯だ。

 あっと言う間に部屋の隅に追いやられた。

 男達は戦い慣れているだけあって、連携しての攻撃が止まらない。

 俺はとても攻撃には転じられないのだ。


 だがダイが素早い動きで果敢に攻める。


 部屋中を走り回り、何人かの男達を惹き付けてくれる。

 まるで子犬とたわむれる男達だ。


 その途中ダイが俺の眼の前の男の足首に噛み付いた。


「痛っ!」


 その瞬間男は後ろを振り返る。


 俺はそれを見逃さない。


 小剣を突き出した。


 鎧のない所だ。


 その時手首を捻る。


「グフュッ」


 男は変な声を上げて、開いた喉元から鮮血を吹き出す。


 普通の治療じゃ治しにくい傷口にした。

 これで直ぐに処置しないと奴は死ぬ。


 古傷の男が舌打ちして怒鳴る。


「誰かセルゲイを!」


 これで治療の為に何人かが後退した。


 だが男達の次の反応は早かった。


 古傷の男が再び叫ぶ。


「えげつない事しやがる。イゴール頼む!」


 その声に後方にいた男が、何かつぶやきながら前に出た。


 マズい、魔法か!


 そう思った時には遅かった。


 イゴールと呼ばれた男が両手を前にかざす。


 同時に俺は吹っ飛ばされて、壁に背中を叩きつけられる。

 

「ぐっ」


 腹の中から血がこみ上げてきた。

 

 やられた、風使いはこいつか。


 だが俺は人間じゃない。

 これくらいじゃくたばらない。


 俺を倒して安心したのか、奴らの連携が止まっている。


 俺は血を床に吐き出し立ち上がると、風使いに接近する。


 そこへ古傷の男が叫びながら邪魔に入る。


「貴様、不死身か!」


 古傷の男が俺に剣を振るう。


 連携無しの個人攻撃なら、人間の剣筋くらいは楽勝なんだよ。


 俺は古傷の男の剣を小剣で受け流し、風使いのアゴに蹴りを叩き込む。


「げはっ!」


 血の付いた“歯”が幾つも空中を舞い、一気に後方へと吹っ飛ぶ風使い。


 それを見た古傷の男が叫ぶ。


「気を付けろ、こいつ身体強化魔法を使うぞ!」


 そうじゃないんだよね。

 俺、魔物だからさ。

 勝手に勘違いしてくれて助かるよ。


 剣を構え直す古傷の男に向かって言ってやった。


「さて、そろそろ兵士が駆け付ける頃だと思うが、貴様らはどうするんだ?」


 すると古傷の男。


「中々やってくれたな……引くぞ、急げ!」


 そう言って負傷者を連れて店を出て行く。


 かなり危なかった。

 退散してくれて助かったくらいだ。


 俺は倒れた椅子を立て、ローランに座るように促す。


「大丈夫か、怪我はないか」


 いつも隠している右手があらわになっていた。

 右手がうろこで被われている。

 まるでリザードマンの手だ。


 ローランは右手に気が付き、慌ててマントで隠しながらイスに座る。


「あ、ああ。大丈夫。だけど、あんた、強いんだな……」


 ちょっと震えているが怪我はないみたいだ。

 ダイはお座りの恰好で、口の周りの返り血を前脚で丁寧にぬぐっている。


 そこでやっと兵士が食堂内へと駆け付けた。


「なんだこの有り様は……」


 そうなるよな。






 俺は詰め所で半刻ほど質問攻めにあったが、あらかじめ護衛の依頼書を見せていたので、なんとか無事に解放された。


 しかし村からは追放されてしまった上に、罰金を払わされた。

 銀貨五枚……

 さらに食堂から金貨一枚の請求が……

 死者が出てたら、罰金じゃ済まなかったかもしれないと言われた。


 実は危なかったのか!


 灰色の男達はと言うと、裏門を突破して馬で逃走したそうだ。


 俺達は仕方なく、暗くなった空を見ながら正門へと向かうのだった。





 







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