16 冒険者希望の魔物がいた
ハピが飛んでいる辺りに来ると、そこでは空と地上とで、熾烈な戦いが繰り広げられていた。
急降下してきたハピが魔物に鋭い爪で掴み掛かる。
魔物はそれを地面を転がって避ける。
ハピが上昇し始めると、魔物が魔法を発動させた。
魔法が使える魔物らしい。
その魔法は緑色の液体の球を飛ばすものだ。
恐らく毒の球を飛ばす魔法、ポイゾンボールの魔法だ。
しかし一般的な魔法であるファイヤーボールに比べると、その発射速度は遅い。
ハピは余裕で避けた。
「お前のヒョロヒョロ魔法なんて、当たるはず無いですわ」
そうハピが言えば、地上にいる相手の魔物も負けずに返す。
「ふっざけんじゃねえぞ。チッパイがほざいてんじゃねえ!」
言葉を話せるのか。
またも喋る魔物だ。
その魔物は下半身は蛇で、上半身は人間の女、ラミアという魔物である。
ハピと同様に人間女と魔物の半人半魔だな。
ただ、人間の顔部分は恐ろしく美人だ。
それに上半身の人間部分だけでいうならば、スタイルがエロい。
そんな二人の争いを見ていると、人間の女同士の陰湿な喧嘩に見えてしまうから不思議だ。
しまいにはハピも地上に降りてきて、「キーッ」とか叫びながらラミアの顔を両手で引っ張っている。
それに対してラミアも、「ムキー」とか言いながらハピの両ホホをつねっている。
近くで見たら子供の喧嘩にしか見えない。
「ダイ、どうする?」
『どうするも何も、放っておいた方が良いんじゃないのか。下手に手出しすると、とばっちりがきそうだからな』
俺も同意見だな。
しばらく黙って見ていると、ハピとラミアは顔見知りのようだ。
殺意が込もってないからそんな気はしていた。
「そんなんですから貴方は、ずっとボッチなんですわよ」
「お前こそなあ、そんなんだから永遠にペチャパイなんだよ」
「ぬぬぬぬ」
「むううう」
そろそろ頃合いかな、止めに入るか。
ここで時間を食うのも困る。
「はーい、そこまでにしろ。ほらハピ、下がれ」
俺が二人の間に入っていくと、なんだこいつは的な顔してくるラミア。
「ああ、割って入ってすまないな。悪いがこいつは連れていくからな。仕事が残ってるもんでな」
俺はそう言って、ハピの腕をひっ掴んで馬車に引いて行く。
だが、ハイそうですかと、すんなり見逃してくれるほど優しくはない。
「おい、待て人間―――くそ、冒険者か」
俺の首から下げた冒険者章をチラ見された。
冒険者のことは知っているらしい。
そしてラミアは、その後にハピの首輪を見て目を大きく見開く。
「……お前、獣魔にされたのか」
なんと獣魔の事も知っているらしい。
魔物にしては物知りだな。
それに対してハピが言葉を返す。
「ふん、獣魔の意味を貴方は知りませんわね」
「ふん、そんなの知ってるよ。獣魔はな、人間の奴隷だろうが」
するとハピは人差し指を左右に振って見せる。
「ちっ、ちっ、ちっ。は・ず・れ、ですわ。獣魔というのはですね、魔物がなる冒険者のことをいうのですわ」
思わずハピをガン見してしまった。
ちょっと勘違いしているような気もするが、間違っているというのもおかしい気がする。
獣魔は冒険者なのか?
冒険者に追従する魔物と言った方がしっくりくる気もする。
でも獣魔は冒険者と一緒に魔物を討伐したり薬草を採集したりと、やっていることは確かに冒険者と変わらないよな。
ああ、なんだ、それなら獣魔も冒険者も一緒だな。
「おい、ラミア、獣魔は冒険者と変わらない。魔物の姿をした冒険者みたいなもんだ。人間の姿をしていれば俺みたいな魔物でも冒険者になれるんだ。だからハピも冒険者と言っても過言ではない」
冒険者とは言い切ってないぞ。
「待て、待て、話がややこしくなってきたじゃねえか。まずこいつは人間じゃないのか?」
ラミアが俺を指さす。
俺はハピの代わりに答える。
「俺はライカンスロープだよ。ほら、どうだ?」
そう言って腕まくりをして、片腕だけ変身して見せる。
「ううっ、た、確かにそうだな。人間じゃないな。ならばそこのダイアウルフ。そいつも冒険者なのか」
「獣魔だな、首輪に札がぶら下がっているだろ。それが証拠だ。二人とも俺の仲間だ」
「人間―――違うな。ライカンスロープ、とハーピーとダイアウルフの冒険者パーティーってことなのか……信じられん。も、もしかしてだが、わ、私も冒険者になれたりするのか!」
「獣魔で登録すればなれるんじゃないのか。俺は冒険者ギルドの者じゃないからな、そこまで詳しくは知らないけどな」
「そうなのか。ふふふ、私も冒険者か……ふふふふ」
「そういうことだから、すまないが冒険者の仕事があるんで、こいつは連れて行かせてもらうからな」
そう言って再びハピの腕を引っ張って行こうとするのだが、ラミアがまだ何か言ってきた。
「まて、ライカン。私を冒険者にしてくれ!」
「は?」
「無茶ぶりですわね」
『ラミアが冒険者?』
こいつを獣魔申請するってことは、俺達と一緒の仲間になるってことだが、それが解かってないんだろうな。
ハピと仲が悪いのにそりゃあ無理ってもんだよな。
「えええっと、だな。獣魔登録したら、その登録した者と行動を一緒にしなくちゃダメなんだよ。ここまでは理解できるよな」
「ああ、もちろんだとも、お主たちと仲間だな。問題ない」
ハピの表情が険しいな。
明らかに嫌がっている。
これは無理だろ。
「さて、そこでだがな、お前とハピは仲が悪いだろ。そんなんじゃ一緒には行動出来ないんじゃないのか。一緒に行動するってことは、お互いの命を守る義務があるんだぞ。仲が悪い二人じゃ無理だろ」
するとラミアがドヤ顔で言った。
「何を言うか。私とこいつは幼馴染だぞ。小さい頃からライバル同士で育って来たんだ。なんの問題もないだろ」
まさかの幼馴染。
「ハピ、そうなのか?」
「残念ながら、そうですわね。喧嘩はしても本気では戦わないですわ。私の住んでいたお隣の部族がラミア族だったのですわ。私の唯一話が出来る魔物ですわね」
いや、さっきの戦いで毒玉の魔法を使ってたけど。
幼馴染でそれ使うか、普通。
次の投稿は明日の朝の予定です。
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