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159 門番が男達を連れて来た








 ハピが上空からのマジック・ミサイルの連続攻撃。

 弦を引くだけで矢が出現する魔道具だから、発射速度と矢数だけは圧倒的だ。

 マジック・ミサイルの本来の性能は、標的をある程度追尾する。

 だがハピが射るとどうした訳か、殆んど追尾しないから余り当たらない。

 前よりは当たるようにはなったが、それでも当たりが少ない。

 それをカバーする為に、ハピは連続射撃をやっているのだ。

 何が凄いかと言えば、その発射速度。

 もうハピは弓の弦を引くというより、弾いているだけ。

 それだけで矢が飛んで行くから、ハピは笑いが止まらない。


「ほ〜ほっほっほっ、圧倒的ですわ〜」


 不気味でしかない。


 森の方から空中のハピ目掛けて、クロスボウの応射が始まったが、地上から上空への攻撃なんて、高低差があるから射程と威力が段違い。

 よってハピの攻撃が一方的。


 襲撃者の一人がマジック・ミサイルを浴びて、木の上から落ちた。

 それでも何とか起き上がると、果敢にも再びクロスボウを構える。

 

 だが既にハピは急降下攻撃に移行していた。


 ハピが大きく翼を広げて降下速度を落とし、その鋭い鉤爪を地上に向ける。


 男が辛そうに立ち上がり上空を見上げる。


 そこで男の表情が一瞬で恐怖に染まる。


「う、うあああっ!」


 断末魔の叫び声が森に響く。


 だがその声もハピが直ぐに終わらせた。


 何かが潰れる様な音を最後に、森は何事も無かったかのように静まり返った。



 ハピが握り潰したのだ。



 すると森から男達の気配が、徐々に消えていくのだった。

 



  ◇ ◇ ◇ ◇




 その頃、襲撃者達は森の中から川原へと撤退中だった。

 灰色のフード付きマントに、灰色の革鎧を身に着け、全員がクロスボウを装備している。

 その数十三人。


 撤退しながらも襲撃者同士が会話していた。

 この部隊の隊長らしき人物で、ほほに古傷がある男だ。


「誰がやられたんだ」


「アレクセイです……」


「くそ、新米か」


「しかし何で魔物達が護衛しているんですかね。あいつら何者なんです。冒険者の護衛と聞いてましたけど」


「魔物の首に獣魔の札がぶら下がっていた。きっと魔物使いだな。それとオークとゴブリンの傭兵を雇ったんだろう。亜人の傭兵が人間に雇われることもあるからな。まあ、かなり手強いとは思うが、俺達ならやれる」


「ラミアやハーピーの獣魔なんか聞いたことないですがね……でもラミアに毒のクォレルが一本命中しています。今頃は泡を吹いて地獄へ落ちてますよ」


「お前、知らないのか。ラミア族は毒耐性があるんだよ」


「し、知りませんでした……」


 男達は森を抜けると川原に出た。

 そこには隠されるように馬が繋がれている。

 追手が来ないことを確認した後、馬の準備をしながら隊長は再び話し始める。


「良し、本部に応援を要請しておく。伝書カラスを飛ばせ」


 すると部下の一人が返答する。


「応援は間に合うでしょうか?」


「それは分からないが、せめて状況だけでも報告しておかないと金が貰えなくなる。まあ、応援が間に合わない前提で我々は動くがな。こうなったら護衛が少ない時間を狙うしかないな」


 そう言って獣道の様な細道を、器用に馬で走り抜けて行った。

 



  ◇ ◇ ◇ ◇




「完全に油断した。俺のせいだ……」


 俺は一人反省する。

 そして敵が撤退したのを確認し、休憩は中止して出発の命令を出した。


「急げ、出発する!」


 怪我人の治療は移動しながらだ。

 負傷はラミだけだが、オーク兵が一人犠牲になった。

 くそ、少しずつ削られているな。

 時間に余裕があるから、少し遠回りだがコースを変えて敵を混乱させてやる。





 俺達は休憩もせずに、何とか日暮れ前には目的の場所が見えてきた。

 そこは畑に囲まれた、少し大きめの村だった。


 しかし護衛という仕事がこれほど大変だとは思わなかった。

 商品を盗賊から守る護衛と違って、弱い個人を守るのは思った以上に難しい。

 自分達が生き残っても、護衛対象が死んでしまったら終わりだからな。

 それで何もないところで野営するよりも、人里が近い場所の方が敵も襲撃しにくいだろう。

 

 村と言ってもかなり大きい所で、村の居住地の周囲には高い柵が張ってあるし、ちゃんと見張りも立っていた。

 魔物の俺達は村に入ることも出来ないとは思うが、せめて食材の買い出しくらいはさせて欲しい。

 それと村の近くでの野営の許可が欲しい。


 まずはラミとハピ、そしてオークは離れた場所で待機してもらい、俺が馬車を操って門の所まで来た。

 馬車にはローランと俺、そして子狼のダイだけである。

 魔物が目の前にいない方が、人間との交渉はやり易いからだ。

 人間の若い娘から人気のダイは特別扱いだしな。

 

 俺が馬車から降りると二人の門番は、目玉が飛び出そうな顔で馬車を見ていた。


 しまったそっちを忘れていた!


 俺は少し慌てながら冒険者章に加えて英雄の称号を見せる。

 

「こりゃ何だ?」


 英雄の称号を知らないらしい……


 何とか説明したところ、村の代表者の住まいに案内してくれた。

 決して立派とは言えない家に案内され、そこで村の代表者に面会出来た。

 村の代表は村長ではなく、代官と呼ばれる貴族だ。

 騎士爵の中年男性で、従士と召使いは一人ずつみたいだ。

 他の兵士は全て農民兵で、農民と村の防衛を兼業していた。


 交渉には大分時間が掛かったが、正門の外の空き地ならという条件で野営の許可が下りた。


 代官は英雄の称号を知っていて、珍しそうに眺めていたが、何をして得たのか等は一切聞かれなかった。

 その辺りに興味は無いようだ。

 だが俺の身分証としての力は発揮したってことだ。


 さらに俺とローラン、そして子狼のダイならば、村の中での宿泊許可も下りた。

 そこで俺達は代官に礼を伝えて、代官宅を後にした。


 俺は村の中を眺めながら考える。

 人里の中で襲撃してくるだろうか。

 

 悩んでいると無口だったローランが口を開く。


「ちゃんとしたベッドの上で寝たいんだけど」


 夕べは襲撃でろくに寝ていないからな。


 そこで思い付いたのが、村の中ではお互いの住人は全て顔見知りである。

 知らない奴が入ってきたら門番なら分かるはず。

 それで二箇所ある出入り口の門番に賄賂わいろを渡して、見たことない怪しい奴らが村に入ったら、真っ先に教えてくれるように頼んだ。 

 代官には護衛依頼で来たことは伝えてあるから、何かあっても最低限の安全は確保出来る。

 ダイもいるしな。


 ラミとハピには食事を渡し、俺達は村の中に一軒だけある、小さな宿泊施設に向かった。


 村に唯一の宿泊施設だが思ったより大きく、部屋数もこんな村にしては多い方だろう。

 良くある一階が食堂で二階が宿泊所の造り。

 この辺は冒険者も来るらしく、俺達以外の客も何人かいた。


 一階の食堂で俺とローランは、壁際のテーブルに陣取った。

 足元にはダイが目立たない様に丸くなり、目だけをキョロキョロ動かし、時折運ばれていく料理があると、急に鼻を高く持ち上げていた。


 今ここにいる連中は、俺達よりも先に入った客達だけだ。

 だから襲撃者の可能性は薄いだろう。

 こいつら以外が来たら、それは要注意人物となる。

 それでも最低、今いる人物の人相は覚えておく。


 商人とその護衛の冒険者みたいな六人グループ、そして三人の冒険者風グループの二つだ。

 どちらのグループも、楽しそうに酒を飲みながら食事をしている。

 

 俺達も食事を注文する。

 食事メニューは一種類しかないから、注文は早い。

 それ以外は酒のツマミが数種類あるだけの、本当に田舎の食堂だ。


 一種類しかない割に結構待たされて、やっと出てきた食事はパンに加えて野菜と豆のスープのみ。

 質素な食事だが、携帯食よりはずっと良い。

 少なくても温かいってだけで格段に違う。


 意外にもローランは文句のひとつも言わずに、その質素で薄味の食事をとっていた。

 

 ダイの分も注文して、こっそりテーブル下で渡したのだが、直ぐに『不味い!』と感情のこもった念話が送られてきた。

 俺も同意見だ。

 だけど良く考えると、俺達はかなり贅沢ぜいたくな食生活をしてきたと思う。

 ローランを見習わなければな。


 そして俺達の食事が終わる頃、村の門が閉まる鐘の合図が聞こえてきた。


 これでもう村の部外者は、ここにいる連中だけだ。

 そこで食堂の扉が突然開いた。


 賄賂わいろを握らせた裏門の門番だった。

 直ぐに俺の所に来て耳打ちする。


「十二人の団体が入った」


 それだけ言うと、門番は店から出て行く。


 そして門番とすれ違う様にして、入り口から灰色マントをまとった男達がドカドカと入って来た。


 










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