156 護衛少年を引き取った
無事にエルドラの街に戻り、その足で依頼探しで冒険者ギルドに立ち寄ったところ、直ぐにギルド員に捕まった。
「ライさん、ずっと待ってたんですよ。あなたへの指名依頼がきてるんですよ」
話を聞くと護衛の依頼だそうだが、護衛対象がよくある隊商とかではなく、個人の護衛だと聞かされた。
ある人物を指定の場所まで無事に届ける仕事。
俺達向きの仕事じゃないと断ろうとしたのだが、護衛対象の人物の情報を聞いてしばし悩んだ。
「護衛対象の人物っていうのが、ここだけの話ですけど特殊個体の人間なんですよ」
そこまではギルド員が教えてくれた。
特殊個体の人間なんて聞いたことがない。
獣魔達三人は特殊個体だし、当の俺だって特殊個体らしいが、俺達は人間じゃなくて魔物だ。
「その人間って、どんな風に特殊なんだ」
「それは依頼を受けた時にお話しをします」
そうだろうな。
ならばあとは条件だ。
「襲撃を受ける可能性はあるのか」
俺の質問は核心部分を突いた様で、ギルド員が言葉に詰まる。
「そ、それは、何と言うか……」
「その様子だと、可能性が高いってことだな」
ギルド員は「はぁ」とため息をつくや、諦めた様に書類を片付けながらつぶやいた。
「そうなるとこの指名依頼は、やっぱりキャンセルしますよねえ」
「いや、受ける」
暴力で解決出来る依頼なら、俺達でもやれるからな。
むしろ得意分野だ。
「へ? 何を言ってんですか」
「だから、この指名依頼を受ける」
「確実に襲われますよ。それにまだ金額とか細かい条件も説明してないですけど」
「報奨金はいくらだ」
「金貨五枚です」
「その依頼受けた!」
最後は何故かいつもの流れになった。
それで詳しい説明を聞いたが、まずは特殊個体の人間だが、右手が鱗状に被われているらしい。
年齢は十六歳で男。
俺の人間の姿と同い年くらいってことか。
その人間をメイビの街の冒険者ギルドに連れて行き、次の護衛冒険者に無事に引き渡すという依頼だ。
しかしよくその歳まで、特殊個体を隠し通せたと思う。
人間社会の場合は通常、見つかった時点で処分される。
それは「魔物が憑依した」という理由でだ。
人間社会では、ちょっと外見が異なる人間の子が生まれてくれば、それだけでやれ「祟り」だとか「呪われてる」とかで忌み嫌われる。
そうなると最早人間扱いではなくなり、容易くその生命を刈り取る。
人間の恐ろしい一面だ。
多分その人間が産まれた後、親が必死で隠し通したんだろうな。
その辺りは魔物も人間も一緒なんだが。
さて、獣魔達に説明しながら、一旦自宅に戻るか。
依頼は三日後からだし、今日は自宅のベッドでゆっくり休みたい。
自宅に戻ると何だか様子が変だった。
敷地内に仮設の救護所が出来ていて、多くの負傷兵がいる。
どう見ても戦闘があった後だ。
護衛オークが負傷兵に何があったか聞いている。
その会話を聞くと、俺が留守の時に襲撃があったらしい。
赤い目をした人間が五人、真夜中に襲って来たという。
バンパイヤだ。
遂に人間の領内にある、俺の自宅にまで襲撃して来たか。
これはこっちも対策を練らないといけない。
俺達も人間達みたいに、バンパイヤ・ハンター部隊を創設するか。
そうだな、獣人族でメンバー揃えれば、人間社会でも行動出来る。
よし、オウドールに伝書を送ろう。
三日後、依頼のため冒険者ギルドへと向かった。
冒険者ギルドで護衛対象を受け取り、俺達はそのままメイビの街へ行く。
邪魔する奴らはぶっ飛ばす。
実に簡単な仕事だ。
俺達は冒険者ギルドの裏口で、ギルド員と一緒に到着を待った。
昼には到着すると聞いていたが、その昼時はもう過ぎている。
待ちくたびれているラミがダルそうに言った。
「ライさん、きっと途中で襲撃されててよお、全滅してんだよ。待っても来ないと思うぜ」
こうも遅いとそれも有り得るな。
ギルド員はずっとソワソワしっぱなしだ。
そこでハピが提案する。
「わたくしが飛んで見て来ましょうか」
それは良い考えだ。
ハピならひとっ飛びで遠くまで確認出来る。
「そうだな、ハピ、頼めるか」
「ガッテンですわ。少年連れですわね」
そしてハピが探しに行って半刻が経つが、ハピが戻ってこない。
どこまで探しに行ってんだか。
そして一刻が経とうとしたところで、さずかに何か有ったんじゃなかろうかとなった。
ラミが心配そうに聞いてきた。
「ライさん、探しに行かなくていいのか」
「そうだな。護衛オークに探しに行かせるか」
俺が護衛オークに指示を出そうとした時だ。
「ライさ〜ん、遅くなりましたですわ〜!」
空からハピの声が聞こえた。
声のする方を見ると、空高くで羽ばたくハピがいた。
ただ、その手には人間を抱えている。
俺は思わずつぶやいた。
「護衛の冒険者すっぽかして、少年だけ連れて来やがったな」
ハピが俺達の前に舞い降りてきた。
しかし様子がおかしい。
ハピの腰部分に矢みたいのが刺さっている。
それで察しが付いた。
少年の護衛グループが襲撃を受けていて、それをハピが助けて連れて来たか。
「ハピ、尻に矢が刺さってるぞ」
俺の言葉にハピは慌てて自分の尻を弄りだす。
「え、え、ライさん、拔いて下さいですわっ」
「分かったから、こっちに尻を向けろ」
その間、ギルド員は直ぐに少年に怪我がないか調べている。
それを横目で見ながらハピに質問する。
「ハピ、護衛冒険者はどうなってる?」
「五人のパーティーみたいでしたけど、既に二人は負傷していましたわ。多分ですけど囲まれてましたから、全滅もあり得ますわね――――痛っ、ライさん、もっと優しくお願いですわ」
「中々抜けないもんだな――――で、襲撃者は何人だ」
「十数人くらいでしたわ。凄く戦い慣れていましたわよ。それに全員がクロスボウを持っていましたわね――――痛だだだだっですわ!」
全員が飛び道具を持ってるとは厄介だ。
俺はギルド員に視線をもっていく。
するとギルド員はあからさまに視線を逸らした。
「襲撃者の情報を教えてもらおうか」
するとギルド員は怯えるように返答してきた。
「そ、それが守秘義務で、お話し出来ないのです……」
そこでダイが念話を送ってきた。
『この依頼は辞めた方が良さそうだぞ。何か厄介事が絡んでいる気がする』
そう言われても、既に護衛対象者を受け取ってしまっているのだ。
依頼は始まっているということだ。
それに襲って来たら撃退すれば良いだけの話。
簡単な仕事じゃないか、問題ない。
そんなお気軽な考えで、俺達は護衛依頼を始めるのだった。