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154/204

154 敵の街に到達した








 その日の夕方までに、街の全ての安全を確保出来た。

 もう敵はいないことが確認出来たのだ。

 しかしそれで住民が帰って来るはずもなく、街は閑散としていた。

 俺は一旦部隊を集合させ、明日の侵攻の説明をしようとして気が付いた。


 そうだ、ダック兵がいるじゃないか!

 目の前でグワッグワッうるさい彼らを見て思い出したのだ。

 ダック族も水辺の種族。


「おい、ダック兵。船を扱える者はいるか」

 

 するとそこにいる全員が、多少なりとも操船出来る事が判明。

 「泳ぎなら船より得意グワ」と言ってきたが、そこはどうでも良い。


 そういうことなら、水上輸送部隊と陸上輸送部隊とに分けて移動出来る。

 オーク兵は陸上から、それ以外はダックの誘導で水上から進ませることにする。

 良し、明日は水陸の両方面から攻めるか。



 陸上部隊は時間が掛かるから夜の内に出発させ、時間を開けて水上部隊も夜明け前には出発した。

 街には負傷兵に加えて補給部隊の百名、ノロオーク部隊とオーク兵百名を残す。 

 これで五百名近くの守備隊となる。

 捕虜の見張りもあるから少し多めに残したのだ。

 ノロオークばかりで不安だが、百名のオーク兵がいるから何とかしてくれることだろう。


 俺達は次々に船へと乗り込んでいく。

 一艘いっそうだけリザードマンが乗って来た帆船があり、俺達はそれに乗り込んだ。

 四十人ほどが乗っても余裕がある船だ。

 それ以外は自分達で漕ぐ船だ。


 俺達の船は先行して湖に出た。

 広げた帆に風を受けて、夜の湖上を疾走して行く。

 風が清々しい。

 夜の湖面に月が写り込み、まるで月が二つあるようだ。


 しかし帆のない船との間隔は、グングンと開いていった。

 帆の無い船はパドルとかいう棒に板を張り付けたような道具を使うのだが、使い方に慣れていない兵士が殆んど。

 そんな漕ぎ手の船が中々真直ぐに進まずにいて、教えているダック兵がかなりイライラしている。


 そして俺達の帆船は一足先に、湖の対岸近くまでたどり着いた。


 しかし、やけに静かに感じる。

 構わずもうちょっと接近してみるか。


 それでも反応が無い。


 リザードマンが岸辺で迎え討って来るかと予想したのだが、かなり近付いても攻撃されない。

 港はもう目の前である。

 港といっても倉庫らしき掘っ建て小屋や、漁船があるくらいのみすぼらしいもの。

 桟橋がある人間側の港とは大違いだな。


 反応がないので、このまま船底ギリギリの浅瀬まで進む。


 まだ気が付かれてないのか?

 それとも上陸寸前で一斉攻撃を狙っているのか?


 考えてもしょうがない。

 俺は覚悟を決めて上陸を開始した。


 船を岸に乗り上げ、全員が下船し武器を構える。


 しかしだ。

 矢はおろか石礫いしつぶてさえ飛んでこない。

 そこでやっと確信した。


 この港には誰もいないんだと。


 どこか他で戦力を集中させるために、ここの兵は撤退させたのだろう。

 

 俺達は周囲を警戒しながら、後続の船の上陸を待った。

 帆の無い船で来た者たちは、慣れない筋肉を使ったとかで、身体のあちこちが痛いと騒いでいる。


 捕虜からの情報で、港から森に入って道なりに行くと街があるそうだ。

 その街がリザードマンの拠点である。


 予定では陸上部隊を待って森へ侵入するはずだったのだが、陸上部隊がまだ来ない。

 それなら先に森の様子を見ておくか。


 まだ陽は昇ってないのでハピの鳥目は使えないから、偵察は鼻の利くダイとラミに任せた。

 街をグルっと回って来いと伝える。

 するとラミは意気揚々《いきようよう》と、ダイはブツブツ文句を言いながら走り出した。


 ダイとラミが偵察から戻った頃、山の稜線りょうせんが明るくなり始めた。

 それが湖面にも反射している。

 もうすぐ朝がくる。


 そして偵察結果はというと、リザードマンの街の防備は薄いというもの。

 この情報で味方の士気は上がる。


 そして陸上部隊もこのタイミングで港に到着した。

 こうして総勢七百名近い魔物部隊が、敵側の岸辺に集合した。


 陸上部隊のオーク兵は移動中に暇を持て余したとかで、全員が戦化粧を施していた。

 髪の毛を色で染めて針の様に立たせ、顔や見える肌にはペイント。

 古より伝わるオーク族が戦に赴く時の装束だ。


 そしてここからは徒歩で森の中を行軍する。

 俺だけ馬車だがな。


 朝靄の森の中を戦装束いくさしょうぞくのオーク兵が進む様は、ちょっと恐ろしげでもある。

 その雰囲気をダック兵がぶち壊す……


「恥ずかしい奴らグワ」

「死化粧グワ?」

「世紀末じゃないグワ」


 頼むから黙っててくれ。





 街が見えてきた。


 街の周囲は、人間の背の倍くらいの高さがある丸太柵で囲まれている。

 もちろん正門の扉は閉じている。

 ただ、その正門の両側には二つのやぐらが建っており、そのやぐらの上からリザードマンが投げ槍を構えているのが見えた。


 街の規模からみてもここに残っている兵士は農民兵、いや漁師兵といった方が良いか。

 普段は漁師をやっているが、緊急時には兵士となる者達だ。

 相手としては大したことはない。

 オーク族の様な戦闘民族とは違い、職業兵士以外は雑魚だ。


 先兵としてゴブリン隊が正門へ近付いたところ、投げ槍と激しい石礫いしつぶてが降ってきた。

 あのやぐらは邪魔だな。

 さてどうするか。


 既に夜は明け辺りは明るい。

 ハピの出番である。

 空から偵察してもらう。


 結果はすぐに出た。

 門は正門の他にもう一つ、反対側にも門がある。

 それから造りは全て木造。


 ならばやることは一つ、火攻めだ。


 部隊を二つに分けて、裏門にラミとダイを配置し、俺は正門を担当することにした。

 ハピは空中からの攻撃と監視だ。


 直ぐに配置を終えて攻撃準備完了だ。


 そして角笛の音が響き渡る。


 その合図を聞いた味方兵達が、一斉に丸太柵や門に火を放った。

 火が着いてしまえば後は待つだけだ。

 時間が経てば火の勢いは徐々に、街の姿をあらわわにしてくれる。


 正門のやぐらにいた兵士は、火の勢いと共に退避した様で、姿が見えなくなった。


 しかし頑丈に出来ている。

 燃え尽きるのには、かなりの時間が掛かりそうだな。


 するとハピが突然舞い降りて来て言った。


「もう、じれったいですわっ。ライさん、ちょっと火の勢いを増しますわ」


 何をするのか見ていると、ハピは火の近くまで行き、翼をバサバサと羽ばたかせた。

 そう言えば前に“強風”という名の魔法が使えると言ってたな。

 威力が微妙過ぎて一度見ただけだった。

 攻撃魔法としては使えなかったのだ。

 だが、目の前で巻き起こる光景は、この時の為にあるのではと思える程。


 ハピが翼を羽ばたかせる都度に、炎が渦を巻いて立ち昇り勢いを増していく。


「初めてこの魔法が役に立ったですわ」


 ハピが嬉しそうだな。


 その内、正門とやぐらが崩れ始め、街中が所々見えてきた。


 見えてきた街並みは実に質素なものだった。

 人間の街とは大違いである。

 それに木造の建物ばかりで、街中に火を放つと壊滅するだろう。

 気をつけないと。


 それと正門の向う側には、兵士が待ち受けているようには見えない。

 見える人影は、逃げるリザードマン達だ。

 恐らく女や子供に老人など、戦えない者達だろう。


 俺は馬車の御者の横に座り込んで声を上げた。


「突撃せよ!」


 暗色を基調とした配色の馬車は、門に向かって走り出した。









ハピの魔法「強風」ですが、第11話で紹介しています。

ここへきてやっと回収w



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