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153 サインさせられた


ちょい長めです











 開かないという扉に案内されたのだが、そこは何の変哲も無い小部屋だった。

 ただしその開かない扉は、部屋の出入り口の扉というには、あまりに違和感があるものだった。

 ここだと言われた場所が、家具の後ろの壁だったからだ。


 隠し扉ってやつだ。


 だけどよく家具の後ろの壁なんて気が付いたな。

 聞けば見つけたのは、敵であるリザードマンだそうだ。

 そうだろうな、オーク兵じゃ家具の後ろは見ないよな。


 壁と扉を少し調べてみたが、ドアノブさえないのだ。

 開け方なんて俺に分かるわけ無い。

 家具をスライドさせるとこの扉が出てくるってことしか分からない。

 

「分からん、俺には無理だ」


 俺は早々に投げたが、珍しくダイが必死に探っていた。

 隠し扉の周辺の匂いを何度も執拗に嗅ぎ回る。


 ラミが力技で開けようと考えているのか、剣の柄に手を掛けて扉の前に出たところで、俺はそれを制止した。


「待て、ダイが念話を送ってきた」


 その内容は。


『中に人間が何人かいるぞ』


 というものだ。

 となると扉の先は退避部屋だな。

 

「まさか、あのクソ生意気な領主の若造じゃねえだろうな」


 俺が文句を垂れるとダイがそれに返答する。


『その若造はさっき通った部屋で、死臭を撒き散らしていたから、もうこの世にはいないよ。中にいるのは三人。前に会った文官も混じっているな』


 前に会った文官と言えば……マヌのことか。


 俺はその隠し扉の前で声を張り上げてみた。


「おいっ、俺は冒険者のライだ。リザードマンはもう排除したぞ!」


 すると隠し扉の向こうで動きがあった。

 わずかながらにも、ゴソゴソと音がする。

 そして暫くすると隠し扉が開き始めた。


 中にいたのは文官のマヌと召使いの女、そして気を失っているらしき少年だ。

 かなり狭い場所で、三人も入ったら身動き出来ないだろう。

 俺は直ぐにその狭い部屋を見回したが、お宝らしきものは一切無かった。

 三人が入るために、全て外に出してしまったようだ。

 ちょっとガックリだな。


 マヌが俺を見つけるなり、これでもかってくらい感謝してきた。


「ああ、分かったから、それぐらいにして、そっちの少年の説明頼む」


 やっと落ち着いたマヌが姿勢を正して話し出す。


「失礼しました……こちら、アルス・ダース男爵様の弟君のギルス様でございます」


 弟がいたのかよ。

 そこで隠れていた意味が分かってきた。

 当主のアルスが死に、ダース家を存続させる為に、弟であるギルスをこの隠し扉に退避させたのか。

 マヌから話を聞くとやはりそうで、ダース家の人間は全て殺されてしまい、残されたダース家はギルスだけだという。


 しかしマヌによると問題もあるという。

 それは弟のギルスは現在十四歳なのだが、幼い時の病気の影響で、十歳から一度も目を覚まして無いという。

 つまり寝たきりだそうだ。


 それには同情するが、俺達にもどうにもならない。

 マヌに簡単な現状の説明をしていると、オーク兵から連絡が入る。


「リザードマン、生き残り、船、逃げる!」


 そう言えば、湖の対岸にリザードマンの街があるんだったな。


「インテリオーク、ここは任せるぞ。俺はリザードマンどもに過ちを分からせに行く」


「ははっ、お任せ下さい。ダース家とライ様、どちらにも満足のいく交渉結果にしてみせます!」


 ん?

 交渉?

 良く分からんが、俺は足早に湖へと向かった。


 




 港には敵味方の船が入り乱れるように停泊しており、遺体も散らばっていた。

 その中のひとつ、小型の漁船に乗り込んで走り出そうとして気が付いた。


 どうやったら進むんだよこれ!

 俺は船を動かした事が無い。

 獣魔達と悩んでいると、オーク兵達が来た。


「ライ様、手伝う」


 二百人程のオーク兵が俺と一緒に、対岸のリザードマンの領地へ行くそうだ。


 しかしだ。


「ライ様、動かし方、分からない」


 オーク達も分からないという。

 そうなると湖を避けて、歩いて対岸まで行くことになるのか。

 こりゃ一日掛かりだな。


「仕方ない。出発は明日にする。それまでに乗り物の用意をしておけ」


 馬車を使えれば早いからな。


 そこで街中にある、建設予定地の店に行こうとすると、伝令オークに止められた。


「ライ様、イントリーク参謀が呼んでいます」


 インテリオーク、あいつ参謀だったんだな。

 しかし何だろう。

 お宝でも見つかったのか。


 俺は領主の城へと舞い戻り、応接室に通された。

 そこには先程の三人、つまりマヌにギルスに召使いの女、そしてインテリオークと見張りのオーク兵が数人いた。

 ギルスは椅子に座らされおり、意識が無いので倒れないようにと、召使いの女に支えられている。

 その横にマヌが背筋を伸ばして立っていた。


 俺はテーブルを挟んて、その対面に座るように促される。

 上座であり、領主が座る様な立派な椅子にだ。


 何か嫌な予感がプンプンしてきたぞ。


 俺が席に着いたところで、インテリオークが話を始めた。


「全員が揃いましたので、これより調印式を始めます」


 調印式だと?

 聞いてないんだが。


「ちょっと待て。何の調印式だ?」


 流れに任せるとろくな事が無い。

 今回はちゃんと説明を聞くからな。


「はい、このダース領地に関してです」


「初めから解り易く説明しろ」

  

 もうインテリオークのその手にはのらない。


「かしこまりました」


 そう言って、眼鏡をクイッと上げると、インテリオークは説明を始めた。


「このダース領ですが、先程まではリザードマンに占領されてました。つまりリザードマンの領地でしたよね?」


 そう言われると確かにそうだ。

 そのまま返答する。


「まあ、そういうことになるな」


「そこへ我々の部隊が来て、リザードマンからこの領地を占領しました。ここまでの話で間違いはありますか?」


「いや、その通りだ。間違いは無い」


 そこでインテリオークの眼鏡がキラリと光る。


「それでは、現在のこの領地は誰が所有しているのでしょう」


「えっと、俺達ってことか?」


 ポロリと言った俺の言葉に、インテリオークが眼鏡をクイッとして叫んだ。


「その通りですっ!」


 しまった、ハメられた!


 そのインテリオークの姿や、まるで大戦で勝ち誇った様だ。


 あ〜、こいつをぶっ飛ばしたい。

 しかし俺は直ぐに言いつくろう。


「待て待て、それはマズい。人間の領地を魔物が奪ったとなると、他領の人間が必死になって攻めてくるぞ」


「そうです。それでこの調印式で元領主家のダース様に出てもらう訳です」


 何を言いたいか分からないぞ。


「どうする気だ」


「はい。ダース家の唯一の生き残り、ギルス・ダース様に新たな当主となって頂きました。それで我々との条約を結びます。条約を結ぶ事によって彼らは我々の庇護下ひごかに入り、敵対勢力であるリザードマンの恐怖に怯えることが無くなるのです。それに一番は街の復興資金ですかね。我々が全面的にバックアップ致します」


 物凄く良い手なんだろうが、ここは人間の領地だった所だ。

 バレたら大変な事になる。


 俺が考えていると、マヌが口を開いた。


「ライ様。我々がダース家を存続させるには、最早これしか道はないのです。この街の姿を見て下さい。我々だけではとても復興など無理です。どうか、どうかお願い致します」


 確かに住民が居なくなり、荒らされた街を復興となると、この貧乏男爵家の資金力では到底賄えないだろうな。

 それくらいは俺でも判断できる。

 う〜ん、それにダース家側もそう願うなら問題無いか。


「了解した。だがあくまでも裏取引だ。公にする訳にはいかない。その辺は大丈夫なんだよな」


 インテリオークは「もちろんですとも」と返答した。 


 良く考えてみると、財布を握られた領主であるばかりでなく、恐らく発言する権利も貰えない。

 これって属国だよな。

 いや、インテリオーク流に言えば「ダース領は我々の“配下”となった」か。


 そして俺は調印文書にサインしようとして、ハッとしてペンから手を離した。


「危ない、俺がサインする必要ないだろ」


 そう、裏取引だからインテリオークがサインすれば良いのだ。

 それを告げるとインテリオーク。


「何を言っているのです。この文書は表向きは人間様式の公文書です。この文書がないと怪しまれるのです。だから人間のライ殿しかサイン出来ません」


「い〜や、待て。公文書では貴族のサインしか通用しないことくらい俺も知っているぞ」


 危ない、危ない、いつものように丸め込まれるところだった。


 しかしインテリオークは微笑みながら言った。


「ライ殿は英雄の称号をお持ちのはずでは?」


 し、しまった、忘れてた。

 英雄の称号の持ち主は、貴族扱いとなるんだった。


「さ、さすがインテリオーク。ちょっと確認しただけだ……」


 俺は震える手で、調印書にサインをするのだった。


 サインして思ったのだが、俺がサインしたら、何かあった時は俺が責められるじゃねえか?

 しかし今更だよな。


 こうして俺はダース領主の後ろ盾という、厄介な立場となるのだった。










期待を裏切らない、予想通りの展開ですなw





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