151 トロオークが加わった
折角戻って来た道を再び進む事になった。
やることもなかったしそれは良いのだが、近道のオーク支配地域を通ったところで、ウェイドの街に行くには五日掛かる。
それに俺達が駆け付けたところで、数に物をいわせたリザードマンの大部隊に囲まれて、袋叩きにされるんじゃないだろうかという心配もある。
軍隊レベルだと、中には英雄クラスの個体だっているだろうしな。
少し慎重に近付いた方が良いかもしれない。
そんな事を考えながら馬車の窓から外の景色を眺めていると、オーク支配地域に入ったところで早くも、俺達の馬車に味方のオーク兵が加わり始めた。
巨大な猪に騎乗した、オークボアライダー部隊だ。
その数は十騎ほど。
さらに翌日には、オーク兵を満載した獣車も加わり出した。
そのワゴン車には、黄緑色の肌のオーク兵達が乗っている。
この周辺に暮らすオーク達だ。
なるほど、手っ取り早く現地兵を集めたか。
しかし装備は貧弱な上にバラバラときた。
槍や斧に棍棒、中には盾持ちもいるが、鎧を着ている者はいないし、当然ながら士気も高くはないだろう。
これは戦力として余り期待出来ないな。
それでもウェイドの街に近付くにつれ、その数は多くなっていく。
街の全体が見える丘の上まで来た時点で、俺達は三百人規模の部隊になっていた。
ウェイドの街を見下ろすと、港にリザードマンの軍船が何艘も停泊している。
街の正門は開け放たれていて、それは突破されたというよりも、逃走経路として開けられたようだ。
どうやら陸地の防壁側からではなく、湖の港から攻め込まれたみたいだ。
街のあちこちから煙が上がっているのを見ると、リザードマンの略奪が始まっている可能性が高い。
領主の屋敷からも煙が上がっているってことは、そちらにも既にリザードマン兵が侵入しているんだろう。
つまり予想通り街は陥落していた。
俺達は間に合わなかったってことだ。
もう日暮れが近い。
今日の所は偵察だけにして、今後どうするかは今晩決めようかと思う。
「ハピ、空から偵察を頼む。敵にバレないようにこのマントを使え」
そう言ってハピに、認識阻害の魔法のマントを渡した。
「了解しましたですわ」
ハピは元気よく翼を羽ばたかせて行く。
そして俺は居眠りするダイの頭をペシリと叩く。
「ダイ、お前は陸側から偵察だ。たまには働け」
するとダイは、言葉にならない鳴き声をモゴモゴと発して起き上がると、一旦大きくアクビをして伸びをする。
そして『仕方ない』と念話を送ってきたかと思えば、後ろ脚で地面を強く蹴った。
次の瞬間、砂埃を巻き上げて、猛スピードでこの場から走り去った。
オーク兵達も驚いている。
やっと狼王の力を取り戻してきたかな。
日暮れ前にはハピが戻り、辺りが暗くなってからダイが戻って来た。
その二人の情報によると、街中にはリザードマンばかりで荒れ放題。
至る所で略奪が行われているという。
街の住人は早い段階で逃げたみたいで、住人の遺体は少ない。
それで領主の屋敷というか城なんだが、未だそこにリザードマンが集中しているという。
「ライさん、もしかしたらまだ城の中には、兵士の生き残りがいるのかもですわ」
そんなことをハピは口にした。
確かに有り得る話ではある。
なんせ城は石造りで堅牢だ。
食糧と水があれば、立て籠もって抗戦できる造りだしな。
そこで俺はダイに質問する。
「ダイ、お前の見立てで敵は何人いると思う」
するとちょっと考えてから念話を送ってきた。
『多くても三百人ってところだな』
俺達の兵力と殆ど変わらないな。
俺はそれをハピとラミに伝えると、ラミが口を開く。
「結局どうすんだ。やっぱ奇襲を仕掛けてブチのめすのか」
ここまで来たのだ、今更何もせずに帰れないよな。
それに戦力が同じなら楽勝……いや待てよ。
周囲を見回す。
黄緑色の肌のオーク兵が、そこら辺でダラしなく寝転がっている。
こいつらがあそこにいるリザードマンの兵士と同じレベルか?
見れば普通のオーク兵に比べて腹がタプタプだし腕も細い。
どう見ても有能そうには見えないんだが。
これから巻き起こるだろう戦闘に不安が過ぎる。
まあ、こっちには最終兵器ハピとラミがいるからな。
何とかなるだろう……多分。
「明日の夜明け前に奇襲を仕掛ける。今日は早く寝ておけ。ラミ、黄緑色のオークの指揮官にも伝えてくれ」
俺はそう告げた。
翌朝、まだ辺りが暗い内から行動を開始した。
オークボアライダー以外は徒歩で接近だ。
俺の護衛で付いてきたオーク兵達は、馬車の見張りで残るように命令した。
街に近付いた所でオークボアライダーに偵察させるが、特に変わった様子はなかった。
敵は見張りも立てていないようだ。
俺達は正門へと近付く。
奴らは人間が応援に来るとしても、この領地の立地的にはまだ時間が掛かると考えているのだろう。
敵は油断しているというか、略奪に夢中なんだろうな。
俺達はさらに接近し、正門の目の前まで来た。
そこでやっと敵兵を発見。
一人のリザードマンが正門から少し入った所で、酒の小樽を片手に酔い潰れて座り込んでいる。
スケールメイルアーマーに槍と、装備がかなり良い。
こちらの戦力を考えるとちょっと不安になるが、もう後戻りは出来ない。
俺の命令でオークボアライダーの一人が、近くまで行ってそいつを槍で一突きにした。
こうやって見ると、既存のオーク兵って実は頼もしい奴らだったのかもと思ってしまう。
そして俺達部隊は街中へとゆっくりとした速度で侵入して行く。
街中からは、リザードマンの声が聞こえてくる。
酒を飲んで騒ぐ声だ。
かなりの人数がいる。
これは遅かれ早かれ、敵に気付かれるのは確実だな。
だったら真っ先に、生き残りが居るかも知れない城へ急ぐか。
俺は歩く速度を上げた。
しかし、後ろの奴らがその速度に付いて来られない。
あっと言う間に、黄緑色のオーク兵と俺達との距離が開く。
ノロ過ぎだろ!
ノロオークめ!
もう面倒臭くなってきた。
「付いて来れる者だけ来い!」
俺はそう言って走り出す。
しかし案の定、付いてこれるのは獣魔とオークボアライダーだけだった。
その後直ぐに敵に発見された。
と言っても俺達ではなく、黄緑色のオーク、ノロオークがだ。
足音に気が付いたリザードマン数人が、建物の中から通りに出て来たのだ。
直ぐにノロオークとの戦闘が始まる。
しかし俺達はそれを放っておいて、城への道を急ぐ。
飛び出して来たリザードマンは数人、ノロオークは三百人いる。
いくらなんでも大丈夫だろう。
そう思ったのだが、周囲の建物から次々に敵が現れた。
遂には俺達の行く手の道にまで敵が出て来やがった。
そして周囲を良く見れば、俺達のいる通りの前後を挟まれた感じだ。
リザードマン兵が騒ぎながら、次々に槍をこちらに向ける。
ふと街の外に目を移せば、山々の間から見えるの空が、少し明るくなってきた頃合いだ。
朝飯前の運動には、丁度良さげな時間だな。
「オーク隊、前方の敵を蹴散らせ!」
俺の命令で十騎のオークボアライダーが、リザードマンの集団に突撃した。
今回は大丈夫、抜けは無い!
前回、149話を飛ばして投稿してたので、読んで無い方はそちらからどうぞ。