15 ミリーが泣いた
俺達のグループに入るという突然の提案に、ミリーが驚いた顔を俺に向ける。
そのまま俺をジッと見つめるミリー。
獣耳だけがピクピクと動いている。
何か言いたげに口を開けたり閉じたりするが、最後はグッと口を閉じて下を見てしまった。
「悪い話じゃないと思うが?」
俺が言葉を続けてみたが、まだ返答に困っている。
俺はさらに言葉を続ける。
「こいつらは見ての通り魔物だ。でも今は冒険者の仲間として一緒に行動している。もちろん俺の正体をこいつらは知っている。だから、正体を隠すことなんて必要ない。いつものミリーのままで良いんだよ。だから、どうだ、仲間になってくれないか」
ミリーが顔を上げ、涙を拭う。
そして強引に笑顔を作る。
「ありがとね、ライ。そんな事を魔物から言われるとは思わなかったよ。それも同族からなんてね。でもさ、ちょっと時間をもらえるかな。心の整理がまだ出来て無いんだよね。あ、でももう私達って友達だよね?」
「ああ、もちろんだとも」
ダイも「ワオーン」と返答し、ハピも「魔物友達が出来ましたわ」と喜んでいた。
その後、ミリーのパーティーメンバーの遺品を回収し、エルドラの街へと向かった。
帰る途中に俺がライカンスロープで驚かないのかと聞いたら、不思議な顔をされた。
「ライカンスロープってそこら中に沢山いるけど、姿を現さないものだと思ってたから、別に身近にいてもおかしくないでしょ」
と返された。
ライカンスロープが絶滅に瀕している事も知らない様だ。
エルドラの街へと無事に到着。
そこでミリーのパーティーの桃色の月は、解散となった。
終始、泣かない様にしていたミリーだったが、冒険者ギルドを出たところで、街の中央広場の大樹へと走り寄った。
そして大樹の根元にしゃがみこんで泣き出した。
恥も外聞も捨てるほどの大号泣だった。
通行人も「また冒険者か」といった目で見るだけで素通りして行く。
俺達は友達だと言ったばかりにも関わらず、誰も声を掛ける事も出来なかった。
ただミリーを見守る事しか出来なかった。
俺達魔物に出来る事はそれだけだ。
そんな人間みたいな能力を持っていない。
むしろ、ああやって泣けるミリーは人間っぽいと思う。
真夜中になる頃、いつもより月が少し明るく街並みを照らしている。
月明かりに照らせれたミリーが、すっくと起き上がる。
今までずっと泣いていたのだ。
だけど、吹っ切れたみたいだな。
そして、ミリーは俺達の方に振り向いて言った。
「ちょっと走りたい気分なんだけど」
「は?」
それって俺に付き合えという事だよな?
確かに月が輝く夜は走り回りたくはなる。
これは全員で走り回るか。
こうして、俺達は朝まで森や野を走り回った。
その日宿に戻って寝たのは朝、目が覚めたのは昼頃だった。
俺達の安宿とは違い、ミリーはまともな宿に泊まっている。
ちなみにまだ仲間になるか返答は無い。
まあ、ゆっくりと待つよ。
起きたのが昼だからと言って、冒険者の仕事は休まない。
金を稼がないと、人間社会では生きていけないからな。
冒険者ギルドに出向き、いつもの様に依頼を探す。
しかし、この時間帯に出てくる依頼などほとんど無い。
それか分かっていても、たまたま、もしかして、に期待して依頼掲示板を探す。
その中でひとつ、気になる依頼を発見した。
“バルバルの卵の採取”という依頼だ。
そもそもバルバルってなんだよって話だ。
ダイに聞いてもハピに聞いても知らないという。
鉄等級でも受けられらんだから、それほど強い魔物である筈がない。
昼時とあって受付けは空いている。
俺は人気のある、いつものお姉さんの受付けへと、依頼の申込みと説明を聞きに行った。
「あら、ライく~ん。久しぶりじゃないの。ちやんとご飯食べてる。危ない場所へは行ってない?」
やっぱり子供扱いだった。
で、バルバルとは飛べない鳥の魔物らしい。
ニワトリの二倍の大きさで、卵も二倍だそうだ。
魔物としての強さで言うと、ゴブリン以下。
なんだ弱いなと言うなかれ、触れただけで麻痺する麻痺毒持ちなのだ。
だがそれ以外の攻撃は皆無だという。
だから鉄等級の依頼扱いだ。
卵は高級食材で貴族から人気がある為、この依頼は良くあるらしい。
肉も食えるが、あまり美味しくはないらしいから買取はない。
卵一個に付き小銀貨一枚。
数に制限なし。
この数に制限なしが良い。
百個採れば金貨一枚になる!
「ーーーという訳だ。バルバルの卵を千個採取して、俺達の家を買うぞ!」
「ワオーン」
「やってやりますわ」
この時の俺は、卵がそんなに取れないという知識はない。
だから本気で千個とるつもりだった。
その生息地なんだが、ちょっと遠い。
今からだと採取場所に到着する時間は夜になる。
そうなると、戻って来るのは朝だ。
危険な時間帯である。
魔物の俺達の時間帯ではあるが、同時にバンパイヤの活動時間帯でもある。
厄介なのはバンパイヤは俺達の想像以上に数が多い。
正確な人数までは分からないが、その配属者も入れると圧倒的な人数になる。
注意は常に必要だ。
俺達はバルバルの生息地へと向かった。
馬車の扱いは大分慣れたとはいえ、常に俺が扱わなければいけないのがちょっと辛い。
狼のダイは無理だし、ハピもやったことが無いというし。
結局俺が御者席に座って、手綱を持つことになる。
ミリーが居てくれたらと思う。
途中、二人は腹が空いたと言い出した。
冒険者たる者、万が一のための保存食は持ち歩いてはいるが、不味いし値段も高い。
だから誰も食おうとはしない。
こういう時はいつも決まっている。
ハピが上空から獲物を探し、ダイが確保に向かう。
ダイとハピが念話で繋がれば楽になるのだが、ダイの念話は未だ俺にしか使えない。
さらにライカンスロープのミリーにも使えないとなると、理由は全く分からない。
ハピが上空偵察をしている間は、束の間の休憩となる。
気持ち良さげに空を飛ぶハピを見ながら、ひたすらボーっとする。
ハピが何かを見付けたらしい。
低空まで降りてきて、同じ所で旋回を始めた。
獲物を見付けた時の行動だ。
小物なのだろうか、ハピは戻って来ない。
自ら仕留めるようだ。
突然の急降下。
そして上昇。
これを何度も繰り返す。
「ダイ、ハピが獲物を見付けたみたいだな。さっきから急降下と上昇を繰り返しているよ。どうする、行ってみるか?」
日なたで寝そべるダイが、伸びをしながら起き上がる。
『ん~、さすがに腹が減り過ぎた。行ってみようか』
俺も腹が減ってきたな。
そこでハピのいる方へと、馬車を走らせた。
次の投稿は早朝の予定です。
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