14 ゴブリンの集団を見つけた
くそ、油断した!
何時の間に出やがったんだ。
幸いな事に俺に気が付いていない。
ゴブリンの一団は、キャンプ地の方へと進んでいる。
奴らがこのまま行けば、キャンプ地を荒らされる。
俺は水から上がり、武器を構えようとして槍が無いことを思い出す。
浮草を採取するために、キャンプ地に置いてきたんだった。
となると武器はこの間の山賊から手に入れた、ショートソードしかない。
まあナイフよりましだがな。
俺はショートソードを構えたまま、水際の草の中を姿勢を低くして進む。
ゴブリンは全部で八匹いる。
ちょっと数が多いから片付けるのに時間が掛かりそうだが、一匹でも逃がす理由はない。
良く見ると、ゴブリンにしては装備が良いな。
これは角よりも戦利品で稼げそうだ。
俺がかなり接近して、さて襲い掛かろうかというところで、ゴブリンに向かって歩くミリーを見つけた。
ゴブリンに気が付いて無い訳じゃないようだ。
その証拠に剣を抜いている。
だが、ミリーの表情が普通じゃない。
怒り、そして困惑の感情が入り混じった顔をしていた。
そして俺が声を掛けるよりも早く、ミリーは叫びながらゴブリンの集団に走り込んだ。
「お前ら、その装備を返せ~!」
普通さ、例え相手がゴブリンだとしてもだよ、銅等級が一人で八匹の集団相手に突込むか?
魔物の俺じゃあるまいし。
相当怒ってるってことだな。
それなら俺も加わるとするか。
俺は立ち上り、ゴブリン集団へと走りながら言った。
「ミリー、加勢する!」
この距離ならミリーに聞こえているはずたが、俺の方を見向きもしない。
興奮して聞こえていないのかもしれない。
彼女は言葉を交わせる事が出来る、俺の数少ない知り合いの人間の一人。
死なせたくないな。
俺は自然と走る速さが増し、ミリーと並ぶ。
チラリと横目で様子を伺う。
ミリーの目から涙が零れ落ちている。
どういうことだ?
ミリーが再び叫ぶ。
「うあああっ、よくも、よくもっ!」
ミリーが前に出て剣を真横に薙ぎ払う。
それをゴブリンが盾で防ぐ。
俺の力だったら盾ごとぶっ飛ばせたんだが、ミリーは体が小さく体重も軽く、相手がゴブリンでもそこまでの威力はない。
獣人はパワーはあるが、彼女はまだ若いのだろう。
それに所詮は銅等級レベルだ。
興奮しているからかもしれないが今の剣の振りを見るに、お世辞にも剣術の腕前が良さそうには見えない。
しかしミリーは怯むどころか、果敢にも攻め続ける。
だが、多勢に無勢。
直ぐにゴブリンどもは、ミリーを取り囲もうとする。
「俺がさせる訳ねえだろ!」
俺のショートソードが、ミリーの後ろに付こうとしたゴブリン二匹の首を同時に跳ねた。
ミリーも必死に剣を振るう。
たが、なおもゴブリンはその剣を盾で止める。
そこでミリーが急に立ち止まった。
だらりと両手を下げてうつむいたように見える。
そしてミリーは大きく息を吸い込んだ。
「ヴオォォォォ~~ン!」
吠えた。
ミリーが天に向かって咆哮した。
狼系の獣人だ。
それくらいは普通なのかもしれない。
ただ、その姿は狂気に満ちていた。
牙を剥き出して眼は血走っている。
そして前屈みになったかと思うと、両の手を地面に着く。
狼の格好だ。
そして次の瞬間だった。
ミリーの肩の筋肉が盛り上がる。
そして背中と手足がみるみる盛り上がっていく。
変身だ!
ライカンスロープ!
革の鎧が裂け、服が破れ、その下からは狼の毛が生えてくる。
まさかミリーが俺と同じライカンスロープだったとは。
それなら話は早い、俺も変身だ。
ゴブリン達がビビッて後ずさる。
そこへ変身途中ながらもミリーが襲い掛かった。
ミリーの鋭利な牙が、ゴブリンの肩口の肉を引き裂く。
肉を咥えたまま地面に着地すると、咥えた肉片を地面にペッと吐き出し、殺気だった目で他のゴブリン達を見まわす。
ミリーは次の標的を見据えると、即座に獲物に襲い掛かる。
こうなると俺の出番が無くなる。
久しぶりに同族と一緒に戦えると思ったんだが、相手がゴブリンだと力不足だ。
変身したミリーを見るに、かなり若いライカンスロープだ。
人間の年齢も若いが、ライカンスロープに変化した時期も最近じゃないだろうか。
ミリーの戦い方は雑なのだ。
若い証拠だ。
それでもライカンスロープの能力は、このくらいの数のゴブリン程度であれば圧倒する。
最後に残った三匹が逃走しようと走りだす。
しかしミリーが逃がすはずもない。
後ろから逃げるゴブリンに襲い掛かり、瞬く間に首の肉を喰い千切った。
ミリーがゴブリン八匹を全滅させるのに、それほどの時間は掛からなかった。
肩で息をするミリーが、徐々に人間の姿に戻っていく。
人間の姿に戻ると裸なのは俺と一緒だ。
そう言えば変身した俺も裸だ。
素っ裸の男女が二人だけ。
周囲にはゴブリンの惨殺屍体が多数。
どう見ても常軌を逸している様に見えるよな。
そこへ現れたダイとハピ。
「お二人はこれから何をなさりたいのですか。いえ、もしかして終わった後ですの?」
『ライ、俺のミリーに何をした、正直に吐けっ!』
そもそも集合が早すぎだろ。
もう依頼の採集が終わったのか。
ちょっと早いぞ。
しかしダイとハピに、この場の説明は色々面倒臭いな。
俺は自分の荷物を拾い、バックの中から予備の服を取り出す。
男物しかないんだよな……いや、これならいけるか。
「ミリー、お前に合うサイズが無いがこれならいけるだろ」
そう言って俺はマントをミリーに投げ渡す。
ダイとハピは取りあえず無視。
「あ、ありがとう……」
ミリーはマントを身体に巻いて、何とか人前でも大丈夫そうな感じにはなった。
俺も予備の服に着替えながら、ここでやっとハピとダイにはここまでの流れを説明した。
しかし俺がライカンスロープでもミリーは驚かないんだな。
さて、次はミリーの番だよな。
「さてミリー、話を聞かせてもらっても良いよな?」
俺が説明を促すと、ミリーは観念した様子でポツポツと話を始めた。
まずはミリーがライカンスロープになった経緯からだ。
俺が思った通りライカンスロープになってから余り経っていないらしい。
ライカン病の発症は半年ほど前だと言う。
もちろんライカンスロープに噛まれたからだ。
ただ、ミリーを噛んだライカンスロープはその場で殺されたそうだ。
殺した人物と言うのはミリーの育ての親で、かつて剣聖と言われた獣人族の長だそうだ。
だがその元剣聖も傷を負っており、しばらくしてライカン病に倒れたらしい。
ミリーもライカン病を発症したのだが、一か月ほどで元気を取り戻した。
しかしそれはライカンスロープの変化に耐え切ったってこと。
つまりミリーは、ライカンスロープになってしまったのだ。
ライカンスロープは一万人に一人とか、十万人に一人などと言われる位に適正者が少ないと聞いている。
だから噛まれても、多数がライカン病で命を落として終わる。
それに耐えきった者こそが、その選ばれた者なんだと聞いている。
ミリーもその選ばれた者だったんだろう。
選ばれた者だけがライカンスロープになれる。
これはあくまでも、ライカンスロープ側の勝手な解釈だけどな。
だけどライカンスロープになると、何故かそれが当たり前のように感じるから不思議。
人間の方が良かったなどとは決して思わない。
これは呪いの類らしいが、詳しくは俺も知らない。
その後、ミリーは人族社会から離れるべきか悩んだそうだ。
しかし結局は魔物としては暮らせず、自分の事を誰も知らない土地でやり直そうと思ったらしい。 俺と同じだな。
そこで流れ着いたのがエルドラの街。
そして選んだ職業が冒険者だった。
冒険者はミリーに合っていたらしい。
着実に依頼をこなしていき、人族の友人も沢山出来た。
仲の良い獣人の友達も出来て、その仲間四人でパーティーを組むまでになった。
それが彼女の所属していた『桃色の月』だ。
ミリーは冒険者パーティーの桃色の月のメンバーとして、毎日が充実していたという。
冒険者になってからは、一度もライカンスロープの姿に変身したことはなかった。
これだったらライカンスロープだという事を隠しても、人間の中で暮らしていけるとミリーは確信した。
そんなとき今日の事件だ。
キャンプ地を襲って来たゴブリンの一団が身に着けていた武器や装備。
これは桃色の月のメンバーの物だったそうだ。
しかも、ゴブリン達が腰に吊るしていたもの。
それはメンバーの身体のパーツだったらしい。
つまり、ミリーが留守番している内に、パーティーは全滅してしまったってこと。
それに怒り狂ってミリーは我慢できずに変身してしまった訳だ。
ミリーがつぶやく。
「まさか、まさか、仲間が……大切な仲間、助けて、あげられなかったよ……」
再び目から涙がこぼれ落ちる。
誰も掛けてあげる言葉が見つからない。
ただ独りぼっちになった瞬間の寂しさは俺も知っている。
だから俺が掛けられる言葉は決まっている。
「ミリー、俺達の仲間にならないか。なあに安心しろ。俺達は強いから死なない」
次回投稿は明日の朝になりそうです。
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