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136 火鍋を食べた






「普通ではないライカンスロープだって?」 


『ああ、少なくとも特殊個体と言えるな』




 ―――――特殊個体


 


 数は少なくなってしまったが、自分はごく普通のライカンスロープだと思っていた。

 だがダイの話だと、そうじゃないらしい。


『ライカンスロープというのはな、ライカンスロープに直接噛まれてライカン病を発症する。そのライカン病に打ち勝った者だけが生き残り、そしてライカンスロープになれるんだぞ』


「そんなことは知ってる。俺は人間の親が代わりにライカン病になっただけの違いだろ。そこから生まれたんだ、ライカンスロープでもおかしくないだろ」


『そうかもしれない。だがな、俺は長いこと生きているが、生まれた子供が初めからライカンスロープだったなんて話、一度も聞いた事がない』


「聞いたことがないと言われてもな。でもな、生まれ方が違うだけだろ。他は一緒だ」


 しかしダイは否定する。


『だがな、お前は俺の知ってるライカンスロープとは大分違う。俺も最初はちょっとだけ他より強い個体だなくらいにしか思ってなかったよ。だけどお前はどんどん強くなる。そしてさっきのハウリングだ。あれは俺の知っているハウリングの域を超えている。つまりライ、お前は少なくとも特殊個体だ』


「分かった、俺は特殊個体で良い。ただな、それ以上の存在じゃない」


『まあ、それでも良い。だがお前を信頼し、お前を信奉する多くの部族がいる。彼らは魔族を統一する者が現れ、いつの日にか人間にしいたげられた魔族を解放すると期待している』


「待て待て、それを俺にやれというのか!」


 そんな事をしようとしたら、ますます魔王じゃねえか。


『そんな事は言ってない。だけどな、今のオーク達を見てみろ。ライに絶対服従だろ。かつての魔王軍でもそんな統制のとれた軍団はいなかったぞ。だけど自分は魔王じゃないと言い張る指揮官の魔族軍も初めて見るけどな。ひゃっひゃっひゃっひゃっ』


 久々に変な笑いを聞いたな。


「周りが何と思おうと関係ない。俺は正直言ってハルト達勇者パーティーとは戦いたくない。それは魔王には成らないってことだ。だが俺の冒険者生活を邪魔する奴には容赦しない」


『ああ、それで良いんじゃないか。それとな……腹が減って死にそうだ』


「実は俺もだ」


 二人して笑いながら出口に向かった。




  ◇ ◇ ◇




 ダンジョンを出ると、真っ先に自分達の天幕に向かう。

 もうすっかり日は落ちて、辺りは真っ暗だ。

 野営地のあちこちには、松明たいまつの火が灯っている。


 俺達の天幕の方から、何だが良い匂いがしてきた。


 誰かが食事の準備をしてくれている様だ。


 天幕に近付くと誰かが調理していた。

 焚き火にでかい鍋を掛けて、グルグルと掻き回す者がいる。


「あっ、帰って来た。ライにダイ、お帰り〜」


 ヒマリだ。

 最初に会った時のヒマリだ。

 しっかり化粧をしている。


 そのヒマリがこっちに手を振ってきた。


 俺はそれに応えるように手を振り返す。

 だが振り返して急に恥ずかしくなった。


 俺はこんなキャラじゃないよな?


 慌てて手を引っ込める。


 近くまで行き、鍋の中身をのぞき込む。

 実に旨そうだ。

 各種野菜に魔物肉が入った、赤色のスープだ。

 ん、この匂いは……


「もしかしてワイバーンのモモ肉が入っているのか!」


 ダイも大興奮して飛び跳ねている。


 すると満面の笑顔でヒマリが言った。


「そう、ライのために私が作ったんだよ。元いた世界の鍋なの」


 ただでさえ腹が減っているというのに、ワイバーンのモモ肉入りスープときた。


 直ぐにでも食いたい。


「直ぐに準備するから待っててね」


 何かヒマリのしゃべり方も変わってきたか?


 俺達以外のメンバーも全員が戻って来ているようで、全員が集まっての食事になりそうだ。


 全員がテーブルに着いた。

 目の前にはワイバーンのモモ肉入りスープとパンが置かれている。

 一見質素に見えるが、野営地での食事なんてこんなものだ。


 ラミとハピはワイバーン肉のスープを前に、我慢するのに必死だ。


「え〜と、まずは今日の報告からだな」


 ハルトの発言だ。

 そういうのはキッチリしている。

 報告会って訳だ。


 俺も色々と報告することがあるのだが、今日は適当に話をして終わらせた。

 後で詳しく話せば良い。


「良し、じゃあ食べるか」


 やっとハルトの許可が出たところで、突然インテリオークが現れた。


「ライ殿、重要な報告があります」


 そう言ってメガネをクイッと上げる。


 そのメガネ、踏み潰してやりたい!


「ええい、何だ。言ってみろ!」


 すると怪訝けげんそうな顔をして言った。


「よろしいので?」


「報告しに来たんだから良いに決まってるだろ!」


「はい、それでは報告いたします。“翼の無い鳥連合会”が我々の配下に加わりました」

 

「は?」


 待てよ、“翼の無い鳥連合会”って言ったら、確か同盟を希望してきたんじゃなかったか?

 会長が直々に俺に会いに来たんだったな。

 それが何で配下になるんだ?


 まさか……


「おい、まさか軍を派遣したのか……」


「さすがライ殿、お察しが早い」


 こ、こいつ……


 そこでハルトが口を挟む。


「凄いな、魔物の勢力図が変わってくるな〜」


 マズい、ここでハルト達に聞かせるんじゃなかった!


 さらにボソリとつぶやく少女。


「魔王軍団」


 しまった!

 アオもいるんだった!

 無口なのにおしゃべり!


 ここは何とか誤魔化さないと!


「お、おお、そうか。“ツバッサー連合”がオーク族長の“オウドール”の配下になったか……」


 あくまでもオーク族長のオウドール配下であって、俺はその客人だ!


 あれ?

 ハルト達の視線が疑惑の目?

 

「さ、さあ、皆、何してる。食べようじゃないか。折角のヒマリ特製スープだ」


 そう言って俺はスープを口に運んだ。


「ん?……………」


 他の皆もスープを口に運ぶ。


 ラミとハピもスープを口に運びながら聞いてきた。


「ライさん、どうしたんだ?」

「どうしたのですの?」




 時間差でからさがジワジワくる。

 



 そして………




からっっ!!」


 続いてラミとハピも。


「うおっ、からいじゃねえか!」

「ヒ〜ですわっ!」


「キャン、キャン!」


 もちろんアオと片耳ルールも同じだった。

 勇者達の異世界組三人以外全員が、口から火を吹いたのだった。







引き続き「いいね」のご協力をよろしくお願い致します。




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