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135/204

135 階層主だった









 扉を勢い良く開けた。


 開けた途端とたん、情景がガラリと変わった。

 暗闇の空間だったはずが、広大な墓場に変わっていた。

 慌てて周囲を見回すのだが、入って来た扉は見当たらない。

 ダイが鼻を高く上げて、周囲の匂いを嗅いでいる。

 空には星が輝き、月が明るく墓石を照らしている。


「どういうことだ。ここ何処どこなんだ」


 するとダイが念話で伝えてくる。


『恐らくここはダンジョンが作り出した異世界だと思うが、土の匂いや草の匂いもまるで本物と変わらない――――気を付けろ、何かが来るぞ』


 ダイが姿勢を引くして唸り声を上げる。


 その方向から多数の何かが、こちらに向かって歩いて来る。

 音楽らしき音も聞こえてきた。


 暗がりの中、月明かりに照らされて、その姿が徐々に見えてきた。


 綺麗な隊列を組んで歩いて来るその集団、それはスケルタル・ナイト。

 スケルトンの精鋭部隊だ。

 プレートメール・アーマーに身を包み、ロング・スピアと大きな盾を装備し、鼓笛隊の音楽に合わせて列をなして行進して来る。


 最後尾には指揮官らしき者もいるようだ。

 そのすべてがスケルトン。


 全部で数百体はいるだろうか。

 アンデッドの軍隊だ。


 スケルトンの部隊の中から、大きな骨の絵柄の旗が持ち上がる。

 軍旗みたいだ。


 するとスケルトン部隊から、ロング・スピアで盾を打ち鳴らす音が聞こえてくる。


 敵を威嚇いかくしているのだ。


「なあダイ」


『何だ、この窮地きゅうちで何か良いアイデアでも浮かんだか』


「ハウリングをやってみる」


 ダイが驚いた顔で俺を見上げる。


『アンデッドにハウリングって効くのか?』


「それを今から試す」


 そう言ってダイの耳を塞ぎ、首から上を狼に変身させた。




「ヴォオオオオ〜ッ!」




 空気が振動する。




 地面が揺さぶられる。

 

 


 そして景色がゆがんだ。




 その衝撃波がスケルトンの部隊を真正面から襲った。


 まるで音の津波が押し寄せたかの様に、次々にスケルトン部隊が砕け散り、前列から順番に煙と化していく。


 予想以上の威力だ。

 俺のハウリングはアンデッドとか関係ないな。


 そして全てが煙と化したその場所で、ただ一体だけかろうじて実体を残していた。

 一番後方にいたアンデッドの指揮官だ。


 そいつはまだ完全に煙と化していない。

 だが地面に這いつくばって動けないようだ。


 ダイが苦しそうだが、何とか自分の足で立っている。

 その頭の上からポーションを掛けてやる。

 これで大丈夫たろう。


 俺は最後の一体のアンデッドの元へ歩いて行く。


 そこに居たのはスケルトンではなくエルダー・リッチだった。

 だが身体のあちこちがくすぶっていて、煙と化すまでそう長くはないだろう。

 下半身はすでに無くなっている。


 俺はエルダー・リッチを見下ろす。


「お前が親分だな。とどめを刺させてもらうぞ」


 エルダー・リッチがわずかに顔を上げて俺を見た。


[き、貴様、何者だ?]


 おっと、会話出来るとは驚きだな。


「俺はただの冒険者だ」


[何を言うか、貴様は魔物だろう。それも言魂ことだまを使える……]


 言魂ことだまって何?


 だが煙化の進み方が早い。

 話を聞きたいんだか。


「待て、もうちょっと耐えろ。その先の話を聞かせろ。言魂ことだまって何だ!」


[ま%う……]


「え?」


 一気に煙と化してしまった。


「ああ、もう少し話を聞きたかったんだが……」

 

 そこで足元にダイがいるのに気が付いた。

 すぐさまダイが念話を送ってくる。


『今、魔王って言わなかっ―――』


「言って無い!」


『いや、確かに、まお―――』


「ダイ、まだハウリングの後遺症が残っているみたいだな。あれは“魔法まほう”と言ったんだ。俺はハッキリと聞こえたから間違いない!」


『そうか、ハウリングの威力のせいで頭がクラクラしてるからかな』


 そこでエルダー・リッチの煙化の跡に、何かが落ちているのを発見。


「おっ、ドロップ・アイテム」


 落ちていたのは短剣と指輪だ。

 二つを拾い上げ、短剣の方を鞘から少しだけ抜いてみると、刃が赤く輝いている。

 指輪は骸骨がいこつのマークが描かれている。

 二つとも呪い系の魔道具なんじゃないかと、疑りたくなるデザインだ。

 持ち帰り調べてもらうしかないな。


 そこで目の前に扉が現れた。

 押し扉だ。


 ということは出口だろうな。


「ダイ、押し扉だ。開けるけど良いか?」


『ああ、選択肢はないからな』


 俺は勢い良く扉を開けた。

 開けた途端とたん、元の暗闇に情景が変わった。

 だが炎の道しるべはもう無い。


「なあダイ、さっきのエルダー・リッチは階層主だったと思うか?」


『ああ、恐らくそうだろうな。ほら見ろ、闇の空間だったはずが、四方に壁が見える』


 目を凝らすと、確かに四方に壁がある。

 しかも今までかすみがかかったようにしか見えなかった床と天井が、ハッキリと見えるようになっている。

 階層主を倒したからだ。

 それが本当なら、再び階層主が復活するまでは、ここは単なる部屋のままだ。


 それはそれでつまらんな。


「なあダイ、腹が減らないか?」


『ペッコペコだよ』


 俺達は足早に部屋を出た。


 帰路の途中、ダイが念話を送ってきた。


『ライはライカンスロープなんだよな?』


 今更変な質問してくるな。


「そうだ。俺はライカンスロープで間違いない」


『どうやってライカンスロープになったんだ?』


 ああ、それか。


「人間だった母親がライカン病になった時に身ごもっていてな、俺を生んで死んだって聞いた」


 ダイが目を丸くして俺を見た。


『おい、まさかライは噛まれてないのに、ライカン病になってないのにライカンスロープになったのか!』


 何を興奮してるんだか。


「だから俺は母親がライカン病の時に生まれたんだって。母親の腹の中でライカン病に耐え抜いたって話だよ。それがどうかしたのか」


 ダイが立ち止まったのを見て俺も立ち止まる。

 するとダイが俺を真正面から見据える。

 恐ろしく真剣な表情だ。


 そして念話を送ってきた。


『お前は生まれた時からライカンスロープなんだな……』


「ああ、そういう事だな」


『ライ、つまりお前は、普通のライカンスロープとは違うってことだ』













引き続き「いいね」のご協力をよろしくお願い致します。




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