132 新たな冒険者が現れた
まずはハルト達の回復が最優先だ。
その間、ダンジョン入り口近くに救護所を設ける。
これはオーク達がやってくれる。
俺達もさすがにスケルタル・ドラゴンに勝てるとは思っていない。
その部屋にはしばらく近付かないことにした。
翌日にはハルト達も回復し、情報交換をして話し合った結果、まずは階層ごとの地図を作成することにした。
急ぐことはない。
じっくり安全に進めれば良い。
上層へ行くあの暗闇は後回しだ。
そして一週間が過ぎた。
ダンジョン入り口には天幕がいくつも張られ、救護所や食事が出来る施設、宿泊出来る施設まで出来ていた。
さらに数週間が過ぎた頃には、オーク兵相手にいくつも屋台が出店していたり、数多くの露店まで出現していた。
そして、ダンジョンの存在を知った多くの亜人がやって来た。
始めはオーク兵がダンジョンには寄せ付けなかったのだが、人間社会のように開放したほうが良いと判断し、一般開放したところ、さながら亜人冒険者みたいなのが多数誕生した流れだ。
ダンジョン周辺には、ダンジョン探索者のテントがいくつも張られ、すごい賑わいになっている。
ハルト達と「亜人冒険者ギルドでも創るか」などと言って笑っていた。
その頃になると、このダンジョンの全貌が分かってきた。
下は三階層まであり、危険な場所は階層ごとに一箇所ある。
階層主のいる場所だ。
一階層の主はグールで、二階層はスケルタル・ドラゴンで、三階層はそれらしい場所だけ把握。
さすがに危険過ぎるから、三階層だけは階層主の部屋には誰も入っていない。
そして上層なのだが、まだあの暗闇空間からは、誰も抜けることが出来ていない。
だから今の所は後回しになっている。
そんなある日の夕暮れ時だ。
人間が現れたとオーク兵から報告が入った。
俺達はハルト達と天幕に集まり、大きな鍋で煮込んだスープを前に、食事をしようとしていた時だった。
遂に来たかと思った。
俺やハルト以外の冒険者が来ても、全然おかしくはないからだ。
新しくダンジョンが出来たとなれば、エルドラの街以外にその情報が流れるのも早いはず。
その内、高ランク冒険者が来るだろうとは、予想はしていた。
だからその時の対応は決まっていた。
敵対しないこと。
すでに勇者が入っていると伝えること。
敵対しないのは言うまでもない。
オーク族と人間の冒険者が戦いだすと、大変なことになる。
オーク族はエルドラの領主との関わりも深いから、下手したら政治問題にも成りかねない。
人間は魔物の領地を基本的には認めて無いが、エルドラの領主のレンドン子爵は鉱山の取り決めで、オーク族の領地を暗黙的に認めている。
だからトラブルになったら政治問題になると、ハルトが言っていた。
だけど勇者が出て行けば、大抵の人間は一歩引く。
しかし、そう思い通りに事が進むほど、冒険者というのは聞き分けの良い者ばかりではない。
今回、現れた冒険者がそれだ。
「人間、オーク、戦う、なりそう」
オーク伝令兵がそんな事を報告してきたのだ。
現れた人間とオーク兵が険悪な雰囲気らしい。
するとハルト。
「きっと冒険者だろ。僕が話をつけに行くよ」
なら俺も行くか。
オーク兵や亜人達の統制もある。
「ハルト、俺も付いて行く」
ハルトと俺が立ち上がると、獣魔達も慌てて立ち上がる。
そこで俺は獣魔達を制止した。
「お前達は先に食べててくれ。魔物がいるとまた話がややこしくなる」
ハルトも勇者パーティー三人は残す判断だ。
取り敢えず、俺とハルトの男二人で行くことにした。
オーク伝令兵の案内で現場に行くと、オーク兵に囲まれた人間が三人いた。
一瞬ヤバイ雰囲気かと思ったのだが、そんなことはなかった。
少なくとも、お互いに武器は抜いていない。
オーク兵の間から、その人間達を垣間見たのだが、彼らに見覚えはない。
ハルトも知らないという。
剣士に魔法使いにレンジャーといった風貌の男三人。
三人とも三十代前半くらい。
ここまで来たということは、かなりの腕だ。
少なくとも金等級冒険者に匹敵する。
装備も充実しているし、使い込まれた感が見て取れる。
一目で素人ではないと分かる。
佇まい、視線、指の動き、只者ではない。
見た目は冒険者っぽいのだが、冒険者章を身に着けてないのが気に掛かる。
オーク兵の間を縫って中心に出ると、レンジャーの男が、こっちに視線を送り口を開く。
「何だ、おれたち以外にも人間がいるんじゃねえか」
ハルトが直ぐに名を名乗る。
「僕は勇者ハルトだ」
男達は怪訝そうにハルトと俺を見る。
こんな若造が勇者とは思わなかったのだろう。
それに一般的に知られている勇者パーティーは、男一人に女二人だからな。
最近はそれに錬金術師が一人加わったが。
今は男二人だし。
「こんな若造が勇者だと?」
するとハルトが、首に掛けている勇者メダルを見せる。
勇者の称号を示すメダルだ。
「僕は勇者だけど彼は違う。彼は英雄だよ」
冒険者三人が顔をしかめ、俺達二人をジロジロ見る。
ハルトめ、余計な事を……
そこで俺は彼らに質問した。
「ここへは何をしに来たんだ」
するとレンジャーが答える。
「ダンジョンに潜りにさ」
まあ、そうか。
真っ当な答えだ。
俺は噺を続ける。
「それは良いのだがな、ここにはルールがある。そのルールは守ってもらいたい」
そう俺が口を挟むと、剣士の男が前に出て来た。
「はあ? 何を勝手な事を言ってんだ、てめえ。お前らのルールに、何で俺達が従う必要があんだよ」
そこでハルト。
「ここは人間の領地じゃない。魔物や亜人の支配する土地なんだ。だからこの土地では彼らのルールに従ってもらいたい」
そんな言い方しても、こいつらが素直に聞いてくれるとは思えない。
案の定、剣士の男が薄笑いを浮かべながら返す。
「俺達が従うと思うか?」
やっぱりか。
すると周囲を取り囲んでいたオーク兵が、次々に武器を構えだす。
それに合わせて男達三人も、武器に手を掛けた。
勇者と対峙して、さらにこれだけの数のオーク兵に囲まれているにも関わらず、全く動じない彼らの自信に、何か得体の知れないものを感じる。
俺もハルトも次の言葉が出てこない。
正に一触即発の危機だ。
冒険者とオーク族の、この地での戦闘は避けたい。
だけど、成るようにしか成らないか。
そこへ女の声が響いた。
「お前達、いつまでかかってるんだい!」
皆が一斉に声のする方を見た。
そこには大トカゲに跨る、長い赤髪の女がいた。
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