131 スケルタル・ドラゴンがいた
お待たせしました。
これならいける、と思った俺は皆に声を掛けた。
「残るは一体だけだ。取り囲め!」
そこで、うずくまるラミが目に入った。
アオがポーションをラミに飲ませている。
レイスに身体を通り抜けられたからのようだ。
「アオ、すまない、助かる!」
「ん」
ダイが念話を送ってきた。
『レイスが身体通り抜けるのは、精神攻撃のためだ!』
レイスによる攻撃というのは、こういう攻撃なのか。
盾まですり抜けてくるから厄介だな。
避けるしかないか。
「皆、レイスは身体をすり抜けて精神攻撃してくる。防ぐには避けるしかない!」
そこへハピの弓矢が放たれる。
マジック・ミサイルだ。
連続で放ったにも関わらず、その魔法の矢は全て躱された。
思った以上にすばしっこい。
だがマジック・ミサイルというのは、本来必中の魔法なんだがな。
「何で当たらないのですの!」
悔しがるハピにレイスが迫る。
俺は咄嗟にアオの聖銀の短剣を奪い、ハピに迫るレイスに投げ放った。
短剣はレイスの頭に突き刺さる。
「良し!」
レイスの動きが止まったが、短剣が刺さったまま、俺の方に振り向いた。
「マジか!」
慌てて俺は槍を構えるのだが、レイスは不気味な悲鳴を上げて煙と化した。
そしてその場に聖銀の短剣が、音をたてて落ちた。
短剣を拾い上げてアオに渡す。
「済まなかったな。緊急だったんでな」
するとアオは口を尖らせて「ぶ〜」と唸った。
子供か!
ラミはアオのポーションで回復したようで、もう立ち上がって剣をグルグル回している。
聞けばアオはレイス対策で、レイスの麻痺に対するポーションを買っていたそうだ。
そんな事、考えもしなかった俺達は、まだまだだな……
こういうところが、魔物と人間の違いなのかもしれない。
さて、問題はこの後だ。
この暗闇の中を探ってみるか、あるいは早々に諦めて他のルートをあたるかだ。
皆に意見を聞くと、アオは探ってみたいと言い、獣魔達はどっちでも良いらしい。
だったら少しだけ探ってみて、何もなさそうなら切り上げる、ってことで探索を再開した。
だが暗闇が続くだけの空間で、探索と言ってもどの方向へ行けば良いかも分からない。
入り口が明るいから、それが確認出来る範囲での移動は絶対だ。
入り口を見失ったら最後だからな。
そろそろ入り口の明かりが見えなくなりそうという所で、アオが床に火を着けたカンテラを置いて言った。
「目印」
おお、確かにそれなら見失わないよな。
「アオ、流石だな」
そう言うとアオが頭を出してきた。
撫でろってことか?
アオの頭をナデナデしてやる。
すると。
「あら、わたくしもですわ」
ハピが頭を出し。
「んじゃ、私も頼むぜ」
とラミが頭を出す。
そうなると……
「クウ〜ン」
こいつだけは、何か腹立つ。
獣魔三人の頭を順番に引っ叩く。
特にダイには力がこもった。
「ほら、先を急ぐぞ!」
そう言って先を急がせる。
そこでダイが念話でボソリと伝えてきた。
『俺にだけ冷たい……』
もちろんスルーだ。
しばらく行くとアオが置いたカンテラの灯りも霞んできた。
そこで今度はラミのカンテラを置いた。
するとダイが念話でボソリと言った。
『匂いで追えるのになあ』
思わずダイを睨んでしまった。
もっと早く言え!
だが今更カンテラは意味が無いなどとは言えない。
そしてハピのカンテラも置き、最後には俺のカンテラも置く状況になった。
しかし俺のカンテラを置くと、明かりは魔道具であるライト魔法のワンドしかなくなる。
「う〜ん、今日のところは一旦引き返すか」
反対する者は誰もいない。
夜にはハルト達と集まって、報告会の約束だからな。
来た通路をそのまま戻り、城ダンジョンを何事もなく出た。
ダンジョン入り口前で休んでいると、程なくして勇者パーティーも戻って来た。
俺は声を掛けようと立ち上がり、手を挙げて口を開く。
「ハルト、遅かった……」
言い掛けて、その姿に一瞬言葉が詰まる。
ハルトは頭から血を流し、着けている防具は傷だらけ。
片足もやや引きずるように歩く。
ヒマリとリンは大きな怪我は無いようだが、その足取りは重い。
これはかなりの強敵が出たんだろう。
ラミが直ぐにかけ寄り、ハルトに肩を貸す。
ハピはリンに近付いて肩を貸した。
これは俺がヒマリに肩を貸す流れだよな。
俺がヒマリに近付いて行くと、背の低い何かがすぐ横を通り抜けた。
「ん、肩貸す」
アオが出て来たよ。
アオがヒマリに肩を貸すのは良いが、アオの身長が低すぎて違和感が有り有りだ。
取り敢えず三人を座らせる。
傷はポーションで治療済みのようだ。
あとは体力の回復だ。
オーク兵を呼んで、水と綺麗な布を持って来させる。
これはダンジョン入り口には、応急所を設けるべきだな。
落ち着いた所で、ハルトに何があったか聞いてみた。
するとその答えに言葉を失う。
「スケルタル・ドラゴンがいたんだよ……」
普通のスケルトンが人型なら、スケルタル・ドラゴンはドラゴン型だ。
強敵なんてもんじゃない。
アンデッドになっても、ドラゴンは圧倒的な強さがある。
「まさか、挑んだのか?」
「ああ、そうだ。でも、仕方なかった。逃げられなかったんだよ」
「部屋に入ったら扉が閉まったとかか?」
前に潜ったダンジョンの部屋がそうだった。
二人ほど部屋に入ると扉が閉まり、魔物が湧き出るトラップ部屋だ。
しかしハルトは首を横に振る。
「それが、そうじゃなかったんだよ。今度のは扉を開けると、床全体が抜けるんだよ。それで落下した空間に、あいつが湧いて出て来たんだ。どうしようもなかった。ゲートの魔法がなければ死んでたよ」
「ゲート?」
「ああ、ヒマリが新しく覚えた魔法だよ。転移魔法って言ったら分かるかな。座標はまだ一箇所しか設定出来ないみたいだけど、その場所へ転移出来るんだ」
凄い魔法だな。
「それでそのスケルタル・ドラゴンはどこで出くわしたんだ」
「それが二階層目なんだよ」
ダンジョン入り口の階層の直ぐ下の階層ってことだ。
一回層下たってだけで、いきなりスケルタル・ドラゴンかよ……
このダンジョン、ヤバくないか。
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