128 最強すぎる宿がバレた
ルリ・ルールが俺の事を怪しがっているな。
なんたってエルドラの街の領主と知り合いで客人、オーク族の客人で仲介役、それに加えてドーズの街でも上層部と知り合いとなると、これはもう普通ではない。
どう言い訳しよう。
「な、何でって思うだろうがな、お、俺は英雄の称号を持っているから、貴族扱いなんだよ。それであっちこっちと繋がりが出来たんだ」
結構良い感じの言い訳だと思う。
「ふ〜ん、そうですか……」
まだ少し怪しんでるが、何とか躱せたな。
俺達の馬車は何の検査も入街税も取られずに、ドーズの街へと入って行った。
街に入るやどこからか、オーク・ボアライダーが数騎現れて、俺達の馬車を守る様に前後に付いた。
猪の魔物に騎乗するオーク兵だ。
しまったと思ったがもう遅い。
その内の一騎が馬車の横に付いて、俺に話し掛けてきた。
「ライ殿、宿、泊まるか、食べるか」
これはマズい!
宿探しなんだが、最強亭を知られたら破滅する。
宿は自分で探すしかない!
俺が断ろうと口を開きかけた時、それより早くラミとハピが返答しやがった。
「九人で宿を頼むぜ」
「いつもの最強亭でお願いですわ」
あったく、バカ共が!
「いや、あそこは駄目だ。自分で探す」
俺が断りを入れたにも関わらず、ハルトが“最強亭”という言葉に興味を示す。
「何、最強亭って。面白そうな名前の宿じゃないか。ぜひその宿に泊まってみたいな」
俺は慌てて反対する。
「ちょっと気味悪い宿だから、他が良いと思うぞ」
するとバカ蛇とアホ鳥。
「そんなことねえけどな。ベッドはフカフカだしな」
「そうですわ。あれ以上の宿なんて存在しませんわ」
そこへアオ。
「最強亭で決まり」
他のメンバーも最強亭が良いと言い出した。
そうなるともう覆せない。
諦めて最強亭へと向かった。
到着してみると皆が喜んだ。
見るからに高級宿だからな。
それも人間の宿を真似して造ったらしいから、良さ気に見えるのだろう。
ハルトがつぶやく。
「す、凄いな……」
魔物の俺が言うのも何だが、問題はネーミングセンスなんだよな。
アオが言った。
「最強亭、最強過ぎ」
宿の店員の背中の“最強”の刺繍を見て、誰もがまた驚く。
いや、大盛り上がりだ。
そして最上級の部屋へ案内される。
前回と同じ部屋かと思ったら違った。
今回は九人と数が多いからだ。
しかし二部屋に別れるのではなく、間取りの多い部屋に案内された。
寝室が四つもある部屋だ。
食事も注文すれば持って来てくれるらしい。
外に食べに行かなくて済むから、これはラッキーだ。
しかし……
やたらに部屋数が多い。
やたらにベッドの数が多い、
やたらに壁に武器が飾られている。
まあ、良いんだけどな。
幸いだったのは、部屋の名称が“ 王の宴の間”だった事だ。
空白はあるがな。
食事は宴会室と書かれた部屋へ運ばれた。
もちろん「 王の宴の間」の中にある宴会の部屋だ。
宴会場で席に着くと、カーテンで仕切られた一画があるのに気が付いた。
食事が始まるとそのカーテンが開く。
そこは舞台になっていた。
なんと楽団付きだ。
何だ、来て良かったじゃねえかと思ってしまった。
だが演劇が始まってから騙されたと気が付いた。
演劇の内容が酷い。
一人の狼系獣人の男が、周辺の強者を倒してのし上がる話だ。
話の中には英雄になったとか、ダンジョンを攻略したとか、“荒野大陸”を統一したとか、俺の記憶に似た場面が多く出てくるのだ。
そして最後には“総統バンザイ”のセリフで終わった。
“魔王様バンザイ”じゃなくてホッとしたけどな!
だが一同は拍手喝采だった。
なぜだ!
「演劇なんて前の世界でも見たことなかったよ」
「出演の魔物が本物って凄くない?」
特に異世界から来たハルト達には新鮮だったらしい。
宴会も終わり、皆は早々に寝た。
翌朝、夜明け前にはドーズの街を出発した。
地獄の裂け目まで来ると、新しい吊り橋がほぼ完成していた。
馬車のまま渡れるという。
工事の規模も凄いが、何より完成までが早いのに驚く。
だが新しい吊り橋を渡り始めて心配になる。
今にも落ちそうだ。
思った以上に揺れが凄い。
女性陣の悲鳴を聞きながら、何とか渡り切った所でアオが声を上げた。
「何か登ってる」
アオが指差す方向を見れば、地獄の裂け目の壁を登る人型の魔物が見えた。
魔人じゃねえか!
ハピが命がけで叩き落としたあの魔人族だ。
ハルト達も気が付いた様で、大騒ぎとなった。
するとハルト。
「僕にやらせてくれないか」
「やれんのか?」
「やってやる!」
吊り橋を渡り切った所で、馬車から降りた。
そこから歩いて裂け目の縁に立つハルト。
大きく深呼吸。
そして……
「ミラクル・エクストラ・スラッシュ!」
裂け目の壁に向かって剣を叩き付けた。
物凄い轟音が響き、壁が大きく崩れる。
その崩れて出来た大岩が、魔人の頭上に迫る。
「ここまで来てまたか〜!」
そう叫びながら、魔人は大岩と一緒に落ちて行った。
まるで戦いに勝利したように喜ぶ勇者パーティー。
皆でハイタッチしている。
敢えて言わない「また登ってくるぞ」とは。
そして何事もなかったの如く、馬車は進む。
そしてグースの街にやっと着いた。
街の横の土地にはテントがズラリと並んでおり、オークの野営地が出来上がっていた。
街の中に入ると、オーク兵があちこちに配置されている。
完全にオークが支配下に置いた感じだ。
破壊された建物も、修理が進んでいるようで、街も活気を取り戻してきた気がする。
俺達はオークの野営地からテントを借りて、城ダンジョンに向かった。
城ダンジョンの直ぐ近くには、オークキャンプが作られていて、ダンジョンを管理するオーク達がいた。
俺達もその一画にテントを張って、ダンジョンに潜る為の拠点とした。
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