127 大型馬車に皆で乗った
夜明け前には起きて、ハルト達と共に冒険者ギルドへと向かうことにした。
玄関を出ると例の馬車が待機していた。
暗色を基本とした配色のあれである。
ただ初めて見る形だった。
オーク曰く、今までは試作馬車で今回のは量産型だそうだ。
量産する気か!?
ハルトがつぶやく。
「誰がデザインしたんだ。僕には理解の斜め上を行くデザインだよ」
同意見である。
ヒマリやリンからも。
「なんかさ〜、気味悪いんですけど〜」
「全然かわいくな〜い」
だが乗り心地は他の追随を許さない。
客車に向かい合わせで六人、御者台に三人乗れば、合わせて九人も乗れる。
俺達と勇者パーティーが全員乗ってもまだ余るのだ。
さらに荷物カートも連結していて、狩った魔物の素材も積めるという優れもの。
それでいて六頭立てだから、決して走りは遅くはないだろう。
決定的なのは全てタダということ。
誰が乗るのを拒否するものか。
俺達はその悪魔的デザインの馬車で、エルドラの街の冒険者ギルドに向かう。
敢えて魔王デザインとは言わないぞ!
御者はオーク兵に任せて、俺達はフカフカな椅子でくつろぐ。
さて、今まで何度もエルドラの街中を、この馬車の試作機で走って来たのだが、今回が一番人目を引いていた。
二度見する人間が続出。
何故ならその外見だけでなく、馬車には風車がいくつか取り付けられていて、ある一定の速度が出ると風車が音を奏でるのだ。
さらに馬車の車外の左右には、護衛兵が手で掴まって立つ所があるのだが、そこに終始オーク兵が凄い恰好で立っていたからだ。
凄い恰好とは髪を赤や青で染めて立たせた髪型にしたり、顔にはペイントを施し、スパイク付きの鎧を着たりしていた。
何でも神事の時の戦装束らしい。
その外見とは裏腹に、オーク兵達にとってはいたって真面目な恰好なのだ。
それに俺達の馬車には、護衛オーク兵が乗った獣車が付き添う。
こっちは普通の外見なので良かったがな。
とはいっても無茶苦茶目立つ。
何かこいつら段々と、遠慮がなくなってきたよな。
冒険者ギルドの真ん前に乗り付けると、冒険者達の注目を浴びて急に騒がしくなる。
そこで異様な恰好のオーク兵が、馬車の扉を開いた。
冒険者の視線が釘付けである。
どんな奴が降りてくるんだと、興味津々《きょうみしんしん》の目で見られている。
そこで気が付いた。
クソ、俺か最初に降りる席じゃねえか!
仕方なく一番に馬車から降りると、何故か冒険者達が一歩後ずさる。
続いて獣魔達が降り立ち、勇者パーティーが降り始めると、ザワザワし始めた。
きっと変な噂が立つ、間違いない。
どこからか「大魔王」って言葉が聞こえてくる。
暴れそうになった。
勘弁して欲しい。
ギルド内へと入って行くと、サッと道が出来、ギルド内がシーンと静まり返る。
何なんだよ、この雰囲気は!
勇者パーティーも、何か気まずそうに馬車から降りて来た。
もう周囲は気にせず依頼掲示板に向かう。
いつもならこの時間、依頼掲示板の前は人集りだが、今は俺達が独占だ。
俺達の周りには空間が出来てるからな。
そして俺達の見ている前でギルド職員が、恐る恐る掲示板に依頼の紙を貼っていく。
ハルトが貼られたばかりの依頼を剥がしている。
俺達もお目当ての依頼を剥がして、受付けへ申請に行く。
もちろん全てが城ダンジョンに関する依頼だ。
俺達金等級は出現魔物の調査だが、ハルト達の白金等級は階層や広さの調査までになる。
依頼の受付手続きが終わり、再び悪魔的馬車に乗り込む。
来た時と同様に、御者台には手綱を握るオーク兵とラミとハピの三人が座る。
そして六人分の客車には、勇者パーティーの四人と俺とダイが座るはずなのだが、何故か俺の席がない。
そこでやっと気が付いた。
俺達に溶け込んで、しれっと座っている奴。
「アオ、何でここにいる!」
傍若のアオだ。
そもそも何で誰も指摘しないかな。
アオがボソリと言った。
「私もダンジョン行く」
そうか、アオも金等級だからな。
「だけど定員オーバーなん―――」
そう俺が言いかけた所で、アオがスッとダイを膝にのせて言った。
「ギリ、セーフ」
「……」
まあ、戦力は多い方が良いか。
こうして勇者パーティーに加えて、傍若のアオも乗せた馬車は、アンデッドが徘徊する城ダンジョンを目指すのだった。
しかし馬車は楽で良い。
楽なのだがやることもない。
外を眺めるかしゃべっているか寝てるかだ。
アオと勇者パーティーの面々は、顔見知りらしく、あのアオが結構な言葉を交わしている。
言葉は短めだが、ちゃんと会話は成立しているな。
驚きだ。
魔道具の話で盛り上がっているようだ。
だが片耳エルフのルリ・ルールだけは、ずっと目をつぶっている。
瞑想しているという。
それって神官のリンのする事じゃないのか?
結局そんな事を考えながら、会話に入れずに馬車の中を過ごした。
久しぶりのボッチだな……
途中、行く手に魔物が出たりしたが、このメンツである。
瞬く間に殲滅した。
そしてドーズの街へ到着。
前に来た時よりも人が多いな。
門で行列が出来ている。
もちろん亜人や魔物ばかりだ。
勇者パーティーもアオもドーズの街は初めて立ち寄るらしく、馬車の窓から物珍しそうに外を眺めている。
「コボルトの集団もいるぞ。人間の俺達が入っても大丈夫なのか!」
そう言ってきたのはハルトだ。
心配になるのも当然だな。
街の外で会ったら、殺し合ってもおかしくない相手だ。
「ハルト、安心しろ。この街は種族の差別は禁止しているし、街中での戦闘も禁止になってるよ」
今は警備隊を組織して、街中での戦闘は厳しく取り締まっている。
人間だろうが魔物だろうが、この街では種族の差別は禁止している。
それを聞いて皆が驚いている。
そこでリル・ルールが質問してきた。
「ドーズの街は無法者の集まりと私は聞いていますが、いつからそんな街になったんですか。私の知っている情報では、魔物や亜人が仕切っていて、人間はお尋ね者くらいしかいないと聞いてます」
さあて、困ったな。
どう説明するか。
「ええっと、俺達は前にそれを知らずにこの街へ入ったら、もうこんな状況になってたんだよ、はは、はははは……」
そうとしか説明出来ない。
門番の一人の昆虫系亜人が、並んでいる俺達の馬車に駆け寄って来た。
「ライ様、気が付かず失礼しました。こちらからどうぞ」
そう言って、行列の横を通って前へ進むように促された。
即座にルリ・ルールの突っ込みが入る。
「ライさん、あなたは何者なんです?」
し、しまった。
こういう頭の回転が早い奴は、扱いに非常に困るよな。
「こ、ここの上層部と、し、知り合いなんだよ……」
ルリ・ルールは眉間にシワを寄せた。
怪しがられているな。
引き続き「いいね」のご協力をよろしくお願い致します。




