126 神官と聖印の力を見た
連絡してから半刻ほどでハルト達は来た。
途中までオーク兵が迎えに行ったのが良かったようだ。
「もう〜、遅いって〜」
到着したハルト達に対しての、ヒマリの第一声だ。
この時間帯で連絡して半刻で到着なら、かなり早いと思うぞ。
歩いたら一刻の距離だ。
到着するなり、リンとヒマリがヒソヒソ話。
所々に聞こえるその会話。
「ええ〜、もう……だったじゃん。惜しかった……ね〜。でも……ひと押しだよ〜」
「バンパイヤ……、それがなければ……」
意味不明な会話である。
ハルトが俺の所へ来た。
「意外と早い再会だね」
そう言って白い歯をキラリとさせた。
ハルトの話だとリンは神官だから、アンデッドに対してはかなり有効な魔法やスキルがあるらしい。
それに最近になってリンが新しい魔法を覚えて、それがアンデッドにかなり有効らしい。
城ダンジョンを見てから、新たに魔道具も買ったそうだ。
城ダンジョン攻略する気満々だな。
これは俺達も急いで動かないと駄目だな。
一応俺達もアンデッド用の対策はしてあるが、予算の都合であまり金をつぎ込めなかった。
まずはダイ達を探さないとだな。
「ハルト、知ってるとは思うが、バンパイヤにとって夜は活動期だ。最も力を発揮出来る時間帯でもある。十分に気を付けてくれ」
「ああ、分かってる。だけどな、こっちにはアンチ・アンデッドのリンがいるからな!」
リンが自信ありげに胸を張る。
何故かヒマリも隣りで胸を張る。
過信は良くないぞ。
今までそれで失敗してきたんだぞ?
分かってるか?
取り敢えず外に出て、オーク兵の案内でダイ達の向かった方へ行ってみた。
ヒマリがライトの魔法で、空中に灯りの球体を作る。
俺が魔道具屋で買った魔道具のライトよりも、格段に明るい。
それにちゃんと指定した位置に出現させている。
俺がやると、どうも思った位置に出せない。
敷地内を出て森の中へと進む。
しばらく歩いた所で、争いの音が聞こえてきた。
戦闘音だな。
「誰かが戦っている……あっちだ!」
そう言って俺は一人で走り出した。
「僕には感じないが―――ってライ!」
ハルトも慌てて走り出すと、他のメンバーも一緒に走り出した。
そして見えてきた。
ラミ、ハピ、ダイが戦っている。
相手は剣士風の人間の男が二人。
だが目が赤い、ってことはバンパイヤだ!
既に死体が数体転がっている。
恐らくバンパイヤのエサとなった人間、つまりはバンパイヤの僕だろう。
真っ先に獣魔達に屠られたんだろうな。
獣魔達は押され気味だが、何とか持ち堪えている。
ラミとハピ相手に押してるとか、かなりの強者だ。
バンパイヤの上位種だろう。
だが前に倒したバッハシュタインとかいう、ライカン・ハンターのバンパイヤほどではない。
まあ、あのレベルのバンパイヤは、そうそう居るわけではない。
そこでハルト達が追い付いて来て、その戦いを見てリンが言った。
「あの程度のバンパイヤなら、そうね〜、多分一撃かな」
恐ろしい程の自信である。
そこまで言うなら、お手並み拝見といきましょうか。
リンが銀色に輝く聖印を取り出した。
その聖印が新しく買った魔道具のようだ。
それを前に突き出し叫んだ。
「ホーリー・ターン・アンデッド!」
その途端、二人のバンパイヤの全身から煙が出始めた。
苦悶の表情で苦しみだすバンパイヤ二人。
体が燃えているのだ。
どうやら聖印から、太陽と同程度の威力の光を放っているようだ。
スゲ〜、神官魔法の威力!
堪らず二人のバンパイヤは逃走を始めた。
そこへハルトが走り寄り、魔剣をバンパイヤの一人に叩き込む。
短く「グッ」と呻き声を上げたところで、首が宙を舞った。
生首が地面にゴロンと転がるや、激しく燃えて灰となって消えていく。
だがもう一人のバンパイヤは、すでに居なくなっていた。
「リン、凄いじゃないかその呪文。ホーリー・ターン・アンデッドとかいうのか、あれなら城ダンジョンへ行けば無双出来るぞ」
俺が褒めるとリンは誇らしげだ。
「まっ、私に掛かればこんなもんかな〜って、本当は魔道具の聖印のおかげなんだけどね〜」
あの聖印は、ターン・アンデッド系の魔法を増幅させる魔道具なんだそうだ。
ホーリー・ターン・アンデッドはターン・アンデッドの上位魔法だそうで、それを聖印でさらに増幅させているからかなり強力な魔法となる。
おかげで獣魔達は、軽傷程度で済んだ。
軽傷だったら明日にでも回復しているだろう。
魔物の治癒力の凄さだ。
ハルトに城ダンジョンへ行くのか聞いてみたら、そのつもりで準備していると言う。
まずいなあ。
さっきのターン・アンデッドを見せられたら、折角の城ダンジョンが速攻で攻略されそうで恐い。
取り敢えず夜も遅い時間だし、ハルト達を自宅に招く事にした。
そして家の敷地内に入った最初のハルトの感想。
「まるで要塞だよね」
そう思うのが普通だよな。
壁で囲われている上に、物見櫓まであるんだからな。
そして木造のちゃんとした兵舎まである。
オーク兵十人制限ルールは、どこへいったんだか。
オーク兵が巡回する中、ハルト達を家の中へと招き入れた。
「ハルト、リン、ルリ、遠慮してないで、入ってよ」
何かヒマリが勝手に仕切ってるんだが。
ここさ、俺の家なんだけど。
獣魔達はもう寝るらしく、納屋へと行ってしまった。
部屋の中には勇者パーティーと俺だけだ。
そこでハルトがある情報を教えてくれた。
「実は何だけど、城ダンジョンの情報をギルドに持っていった帰りにさ、聞こえちゃったんだよ。城ダンジョンの調査依頼を明日の朝出すって話」
そうか、やはりギルドが動くか。
新しいダンジョンが見つかったんだ。
そりゃあ情報が欲しいに決まってる。
それに場所が場所だけに、依頼対象ランクも高いはずだ。
恐らく金か白金以上だろう。
もしかしたら指名依頼が掛かるかもしれない。
これはウカウカしていられない。
明日の朝、冒険者ギルドへ行ってみるか。
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