124 支店があった
地獄の裂け目に来ると、凄い数の工兵が橋を建設していた。
ダックやゴブリン、そしてオーク兵達だ。
早い話がオウドールの兵隊だ。
確かに吊り橋は不便だからな。
話を聞くと、ここだけではなく、数カ所で橋を建設しているという。
完成したらかなり便利になるな。
俺達はそれを横目で見ながら、古い方の吊り橋を渡り先を急いだ。
そしてドーズの街で一泊。
お気に入りの「バルテク」の店に立ち寄る。
音楽を聴きながら食事が出来る店だ。
俺達が店に行くと、またしても楽団の真ん前にいた客のテーブルを退かし、スペースを確保すると新しいテーブルとイスをそこに置き、ウェイターが来てパッとテーブルクロスを掛ける。
手慣れたものである。
「お待たせ致しました。お席のご用意が出来ました」
周囲の客達は驚きと羨望の眼差しで俺達を見ている。
そこで俺達が席に着くと演奏が再開した。
もちろん黙っていても料理が運ばれてくる。
俺達当事者としては気分が良い。
しかし、俺達を知らない奴が見たらそうは思わない。
「おいっ、なんで彼奴等ばかり優遇してんだよ!」
こっちを指差して文句を言ってくる奴がいた。
当然の言い分である。
俺もそんな事されたら怒るし。
ここは俺が直接行くか。
何かご馳走すれば、穏便に収まるだろう。
そう思って立ち上がろうとすると、店のガードマンのダークオーク数人が、その亜人の男達を抱えて店の裏へと行く姿が見えた。
「おい、店員、あの男はどうしたんだ」
聞けば、急に具合が悪くなったとかで、運び出されたそうだ。
それは大変だな。
そこでダイが念話を送ってきた。
『血の臭いがしてきたぞ』
そういう事か……
うん、聞かなかったことにしよう。
食事が終わり、店を出て行こうとしたところで、支配人に声を掛けられた。
「ライ様、本日はありがとうございました。この後のご予定は?」
「いや、宿を探すんだが、どうかしたか」
「はい、それならば良い宿がありますので、ご案内しましょう」
それは良かった。
探す手間が省けた。
そして案内されるがままに獣車に乗って行くと、如何にも高級そうな宿の前で止まった。
どこかで見たことある造りの宿。
店の看板には「最強亭弐番館」の文字が……
このドーズの街にも造ったのかよ。オーク領にあった高級宿の二番館。
店の店員の服の背中には、やはり「最強」の文字の刺繍があった。
ってことは……
案内されたこの宿で一番の部屋、それは「 王の間」と書いてあった。
オーク領の宿で「魔王の間」はよせと言ったからか、魔の部分が不自然な空白になっている。
もしかしていつでも、魔の字を書き込めるようにしてるんじゃないだろうな。
インテリオークならやりそうだよな……
内装はオーク領の宿と余り変わらない。
文句のひとつも言いたいが、今日のところは大人しく寝てしまった。
翌朝、宿を出ると目の前に馬車が待っていた。
暗色を基本とした配色……以下略。
◯王専用のような馬車だ。
ここまで出て来なかったから油断していた。
だが長旅で我々は疲れているのだ。
悩んだ挙げ句、観念して乗り込んだ。
この展開にも段々と慣らされてきた気がする。
エルドラの街へ向うのだが、街道が整備されている。
魔物の街と人間の街を繋ぐ街道だ。そんな事をやる奴は決まっているか。
オーク達だろうな。
まあ、良いか。
おかげで早く着きそうだ。
獣魔達も疲れていたんだろう。
直ぐに眠ってしまった。
そして何事もなく、エルドラの街に到着した。
早速ギルドに行って、依頼完了の手続きをしなくてはいけない。
期限がギリギリだ。
手続き完了で何とか依頼達成した。
まだ時間もあるしと、次の依頼を探していたら声が掛かった。
「ライ〜、偶然〜!」
手を振りながら突進して来たのはヒマリだった。
服装がいつもの魔法使い仕様とは違うな。
私服みたいだ。
しかし私服でギルドに?
本当に偶然なんだろうか、疑問が頭を過ぎる。
そこで思い出す。
ギルドに伝言という言葉。
「お、おお、ヒマリじゃないか。い、今、伝言を残そうとしてた所だ」
するとヒマリ。
「ここ依頼掲示板だけど」
「……」
言葉に詰まる。
ヒマリの表情が怖いんだが。
こういう時は話題を変えるんだったか。
「ヒ、ヒマリは何してたんだ」
一瞬、気まずい空気が流れる。
「きょ、今日はね、非番の日なの〜。ライもたまにはさ〜、休みを取ったら〜」
ヒマリが俺の腕を執拗に掴むのだが、それはもうノーとは言わせない圧だ。
仕方ない。
獣魔達には自宅で休むように伝えると、不思議そうな顔して獣魔達は自宅へと戻って行った。
「非番になった。ちょっと早いが食事でも行くか?」
「え〜、いいの、いいの〜?」
そう言わせてるのは、お前の圧だろ。
「あ、ああ、も、もちろんだ」
するとヒマリは嬉しそうに俺の腕を引っ張って行く。
思った以上に力がありやがる。
さすが加護持ちだ。
「出来たばかりのお店がある〜んだ。ね、行ってみようよ」
それは絶対に行くって意味だろ?
「ああ、案内してくれ」
俺に拒否権などないな。
「うん、こっちこっち~」
俺は腕をグイグイと引っ張られて、新しく出来たというレストランへ行った。
店の名前は「バルテク・エルドラ支店」と書いてある。
聞いた事有り有りの名前だ。
っていうか、ドーズの街のバルテクの店と造りが同じだ。
店の前には行列が出来ていた。
まだ夕食には早い時間だというのにだ。
「ああ〜ん、混んでる〜」
ヒマリがボヤく。
五十人は並んでいる。
これは無理だな。
「ヒマリ、諦めて……」
と、俺が言いかけたところで声が掛かった。
「あ、ライ様。もしかして当店をご利用っすか?」
行列を整理していた強面の獣人の店員だった。
初めて見る顔だな。
「ああ、食事をと思ってな」
するとその獣人。
「だったらこちらへどうぞ、席はありますんで」
そう言ってその獣人は、俺達を行列の先頭へと案内する。
そしてそのまま並ばずに、入り口から堂々と入って行った。
行列で並ぶ人間達の視線が痛い……
その後の流れは、ドーズの街とやり方は同じ……ではなかった。
一箇所、予約席と書かれたテーブルがあった。
楽団の真ん前の席だ。
俺とヒマリはその予約席に案内された。
「ねえ、ねえ、どういうことなの?」
ヒマリが聞いてくるが、どう説明すれば良いのか。
「オーナーと知り合いなんだよ。それで店員が俺の顔を覚えていたみたいだ。それに俺はこの街じゃ客人待遇だからな。まあ、ラッキーだったってことだ」
嘘は言ってない。
知り合いという名の配下だがな。
そして例によって注文する前から、ワインと料理が運ばれて来る。
どれも最高級品だ。
ヒマリがワインの銘柄を見て、目を丸くしている。
「ねえ、ねえ、これって、金貨五枚はするワインだよ」
マジか、たかがワインのくせにな。
俺は酒に興味はあまり無いから、余計に驚く。
俺は金貨五枚のワインより、金貨五枚のスープを飲みたい派だ。
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