120 魔王城の魔物が現れた
魔王城の大きな扉が開くと、中から一際大きな魔物が現れた。
普通のオグルが人間の一人半ほどの背丈であるが、そいつは二人分ほどもある。
リングメイル鎧に身を包み左手に大きな盾を持ち、右手で巨大な戦斧を肩に担いでいる。
下あごから生えた牙が、凶悪な魔物だと強調しているかのようだ。
そして鋭い眼光でハルトを睨んだ。
ハルト達がたじろぐ。
物凄い威圧感である。
ハルトの必死の声が聞こえる。
「気を付けろ。全力でいくぞ!」
ヒマリとリンが魔法の準備を始め、片耳ルールがスタッフ・スリングにポーションを仕込んでいる。
その間、巨大な魔物はゆっくりと勇者パーティーに近づいて行く。
動きはかなり遅いようだ。
周囲のオグル兵は手を出さず、ただ彼らの戦いの場を取り囲んで行く。
逃げられない様にするためだ。
ヒマリとリンが魔法を発動させた。
同時に片耳ルールがスタッフ・スリングでポーションを投げ放つ。
そこでハルトが剣を振りかぶり走り出した。
リンの魔法はパーティー全員への防御魔法、ヒマリは氷の刃を飛ばす。
だがヒマリの氷の刃は盾で弾き返された。
その代わり、片耳ルールの放ったポーションが腹に命中。
すると真っ白な煙が発生した。
攻撃系のポーションではなかったようだ。
煙幕ポーションだ。
白い煙で視界を妨げられた魔物は、闇雲に戦斧を振り回す。
だがその煙、雲のようにハルト達の頭上あたりで留まっている。
つまり相手の魔物からはハルト達が見えない。
反対にハルト達からは魔物の下半身が丸見えということ。
そこへハルトが突っ込んで行った。
「はあああっ!」
ハルトの剣が魔物の足を捉えた。
ハルトは確かな手応えを感じていた。
鎧の隙間から突き刺した剣が、分厚い肌を引き裂いた感覚を。
ハルトは一旦剣を引き抜いて構え直す。
「どうだ、これでもう立ってはいられないだろう!」
ハルトは魔物がしゃがむか屈んだ隙に急所に一撃を入れようと、さらに剣に力を込め待ち受けた。
だが魔物は動かない。
そこでハルトはやっと気が付く。
斬ったはずの足の傷から、シューシューと泡が吹き出していたのが見えたのだ。
―――――傷が再生している
ハルトが叫んだ。
「こいつはトロルだ、下がれ!」
トロルの再生能力は、魔物の中でもかなり高い。
まともに戦ったら、結局傷付けられなかったなんて事にもなる。
しかもこのトロルはデカい。
相当な耐久力があるだろうと、ハルトは考えた。
それで一旦距離を置いたのだった。
と言ってもオグル兵に囲まれた状態では、距離を取るにも限度がある。
それでもオグル兵が何もしてこないのは、ハルト達にとってはラッキーとしか言いようがない。
「ヒマリ、あのワンドを使え!」
ハルトが叫ぶと、それにヒマリが答えた。
「任せてっ」
そしてヒマリは、バッグから魔法のワンドらしき物を取り出した。
その間、ハルトはトロルを牽制する。
そしてヒマリが叫ぶ。
「ハルト、どいて!」
ハルトが絶妙なタイミングでトロルの前からいなくなる。
そこでヒマリが魔法のワンドを発動させた。
その魔法のワンドには、通常付いているはずの魔法石がない。
つまりそれは“ダンジョン産”の魔法のワンドであることを示す。
魔法を受けたトロルは、急に動きが止まった。
そして身体全体が震えている。
パラライズである。
ヒマリが使った魔法のワンドは、ライが前に与えたダンジョン産のパラライゼーション・ワンドだったのだ。
さすがダンジョン産と言うべきか、高ランク魔物のトロルにもパラライズの魔法が効いていた。
好機とみたハルトが叫ぶ。
「今だ、一気にいくぞ!」
ヒマリとリンが、トロルに魔法を浴びせていく。
片耳ルールは、ハルトにポーションを渡した。
それを一気に飲んで剣を構えるハルト。
そして走り出し、トロルの前で跳躍。
「ハイパー・エクストラ・スラーッシュ!」
ハルトの剣が突然輝き出す。
その輝く剣を一気に振り下ろす。
剣からは斬撃が飛び、その斬撃がトロルを袈裟斬りした。
パラライズで動けないトロルは、その攻撃をまともに受ける。
すると、切り口からトロルの胴体がズレた。
袈裟斬りされた上半身は、そのまま地面に落下。
凄い威力である。
確実に勇者パーティーの力量は上がっている。
だが勝利したハルト達は、まだ喜べないでいる。
倒したトロルが煙と化して消えたからだ。
死体が残らない魔物。
それは召喚魔法で呼び出された魔物に他ならない。
つまり呼び出した者が他にいるという事だ。
それにオグル兵が未だ周囲を取り囲んだままだ。
そう、戦いはまだ終わっていなかった。
ハルト達が次の行動に迷っていると、魔王城の開けっ放しの扉から、新たな魔物が出現した。
今度の魔物は先程のトロルよりも小さい。
先程の煙幕でハッキリと確認できないのだが、人間の子供程の身長しかないようだ。
ハルトが構えた剣を下ろしてつぶやいた。
「なんだ、まだ子供じゃないか……」
確かに遠くから見たら子供に見えるかもしれない。
しかし、それは単なる子供ではなかった。
まず、歩き方が変であった。
人間や亜人の歩き方ではない。
歩くというより、滑る様に移動する。
リンが問いかける。
「何かさ、歩き方、変じゃない?」
ヒマリまでも。
「絶対人じゃないって!」
徐々にハルト達に近付いて来ると、その姿がハッキリと見えて来た。
魔法使いが着る様なフード付きのローブを纏っている。
そのフードの合間から見える顔。
それはまるで死人。
干乾びた肌に、水分を失った髪。
片耳ルールが言った。
「あれはリッチよ。いや、エルダーリッチかしら。だけど人間から変化したんじゃないわね。あれの元はハーフリングってとこかしら」
勇者パーティーの前に現れたのは、エルダーリッチだった。
引き続き「いいね」のご協力をよろしくお願い致します。
ハロウィンらしくカボチャの魔物を出そうかと思ったが、あまりに無理があった。
勇者の前に現れたのは、カボチャだった……
絵面に無理があるわ!