117 領地をもらった
俺のアッパーカットは親玉ダックを吹っ飛ばし、そのまま壁に激突させた。
そしてクチバシを壁に引きずりながら血の跡を描き、そのまま床に倒れる親玉ダック。
床に転がった魔法のワンドはもちろん回収だ。
そこそこの金になるはずだ。
そこへ部下のオーク兵達が群がって、親玉ダックを俺の前で強引に跪かせた。
「我々、逆らう、こうだ!」
オーク兵達が親玉ダックに、言い聞かせてくれている。
ここまでやれば、さすがに逆らわないだろう。
俺はオーク兵に「後は任せる」と言って、部屋を出た。
ラミとハピとも合流したんだが、二人はオーク達が心配だから残ると言ってきた。
だがそう言ったラミとハピ、口の回りに何か付いている。
甘い匂いのする物……
あ、こいつら、屋敷の食料庫を見つけやがったな。
まあ、たまには好きにさせてやるか。
部下のオークとダックも、二人がいれば安心だしな。
「分かった、そっちは頼んだぞ」
そう言って別れた。
だけど今日は色々と疲れたな。
今日のところは、この街の宿に泊まるとするか。
俺はダイと街の宿屋を目指した。
適当に宿を決めて一泊。
面白い事に、ダックサイズの部屋は宿泊料金が安く、それ以上のサイズになると値段が高くなる。
むろん俺は人間サイズで値段が高い。
仕方が無いな。
でも人間の街とは違い、この街もダイは問題なく宿屋に泊まれたのは良い。
翌朝、部下達を迎えに屋敷に向かった。
すると昨日まで敵対していた衛兵ダックが、入り口の所で整列して俺達を待っていた。
部下のダックとラミもいる。
何があったのかと思ったら、部下のダックが俺の前に出て来て言った。
「この街はライ樣の支配下となりましたグワ」
は?
動揺する俺とは裏腹に、ラミは自慢げだ。
ダイは『なるようになったな』と念話を送ってくる。
「えっと、どういう事か説明頼む」
「この街の長であるグース様が、全権をライ様に差し出すと言ったグワ」
「全権って何の事だ?」
「このグース様の領地の全ての権利グワ」
領地があるのか?
訳が分からぬまま、俺は屋敷の中へと入って行く。
あの親玉ダックは、街と同じ名前だったらしい。
そのグースの部屋に到着する。
昨日俺が暴れた部屋だ。
部屋の中にはそのグースが、立って待っていた。
ハピやオーク兵達もいる。
グースがかしこまって俺の前に出た。
「ライ樣、お待ぢじていまじだグワ」
確かにグースなんだが、俺が与えた傷以上の負傷をしているよな。
顔中がえらく腫れているとか。
拷問でもあったかの様なグースの顔、そして衛兵ダックの変わりよう。
ああ、そういうことか。
近くにいたオーク兵が俺を椅子へと促す。
しかし白い布が被せられていて、椅子のデザインが良く見えない。
かろうじて椅子とわかるレベル。
「この椅子に座れと?」
そう言ってオーク達を睨んだ。
するとスッと視線を逸らしやがる。
後ろめたい気持ちがあるからに決まっている。
するとハピが説明を始めた。
「ライさん、グースの街の職人を総動員して徹夜で作らせた、最高傑作の椅子ですわ」
嫌な予感はするのだが、一応は見てみるか。
俺は被せられていた布を一気に払い除けた。
確かにそこには椅子があった。
全体的に暗色を基本にした配色で、ドクロのオブジェが散りばめられたデザイン。
そしていくつも伸びた真っ赤なラインが、まるで血管のよう。
敢えて表現するなら……
「魔王の椅子じゃねえかっ!」
何してくれてんの。
そういうの、全然いらないから。
「ハピ、努力は認めよう。だけど悪いが普通の椅子を頼む」
・
・
・
俺は新しい椅子に座り、ちょっと落ち着いた所で話を始めた。
「グースとか言ったな。貴様の支配地域はどの程度なんだ」
するとグースは俺の前に跪き、一枚の地図を差し出した。
「こぢらに詳じく、描いてありまずグワ」
俺は地図を受け取って広げてみた。
この街の他にも街が二つ描かれている。
三つも街を支配してたのかよ!
そう考えるとおかしい。
軍隊がいるはずだ。
「おい、ダック部隊はいないのか」
俺が質問するとグース。
「我が部隊は今、オグル族と戦闘じでますグワ」
話を聞くと、最近になってオグルの部族が、ダックの支配地域を脅かすようになったとか。
オグルはダックほど数が多くはないが、個体が強力なため、グースの部隊の全兵力で当たっているという。
それでも苦戦しているらしい。
それと……
「そのオグル族グワ、我が領内に城を築き始めたグワ」
まさか!
俺がオークを見ると、黙って頷き返した。
それってつまり、俺達が探していた“魔王城”ってことか!
そこで俺は椅子から立上がり言った。
「オークの族長のオルドールに至急連絡しろ。我が軍団をこの地に集めろと!」
慌ててオーク兵の一人が、部屋から出て行く。
しかしこれで魔王城の場所は判明した。
となると魔王は、オグル族だったって事か。
遂に魔王軍として勢力拡大に動き出したか。
これは俺が部隊を率いて行って、魔王軍に我が軍団を差し出さなくてはいけないな。
急に活気付くオーク達。
かなり嬉しそうだ。
「俺達、強い、見せる」とか言って喜んでいるな。
そうか、やっぱり魔王の配下で活躍出来るのは、魔物にとっては嬉しいことなんだな。
そういえばオークの全部隊に命令出すのとか、初めてだったよな俺。
しかしそんな急に部隊は集められないだろう。
それに地獄の裂け目を渡るのに時間が掛かる。
そうなると、せいぜい千名くらいだろう。
オルドールに伝書カラスを送って二週間ほど経つと、早くも第一陣の部隊が到着した。
その数、兵士だけで二千名。
来るの早すぎるだろ。
この数、この短期間で、地獄の裂け目を渡ったのかよ。
まるで用意していたみたいじゃないか。
しかも第一陣ときた。
オーク部隊が千五百名。
ゴブリンとダックで五百名だ。
その他に、補給や設備部隊で千名が向かっているという。
総勢で三千名じゃねえか!
絶対に準備してたよな。
それにドーズの街を落とした時より増えているんだが。
さすがにグースの街には入り切らず、街の外で野営場を築き始めた。
現在、グースは生かしているが、仮初の領主で常に我が配下のオークが監視している。
俺はグースに敵対するオグルの数を聞いてみた。
「はい、今は五百名ほどでございますグワ」
とっくに顔の腫れは引いているはずなのだが、代わりに違う箇所が腫れていたり、新たな青あざ出来ていたりと、生傷が絶えないな。
まあ、そこは突っ込まないけど。
しかしオグルは五百名程度か。そうなると俺達の部隊が加われば、オグル魔王軍は大きく膨れ上がるな。
そうだ、グースのダック部隊の数を聞いてなかったな。
「千名まで減りましたグワ」
二倍の数でも、ダックじゃオグルには勝てないだろうがな。
その敵対していたグース部隊を俺達が制圧して、堂々とオグル魔王軍の前に参じれば、魔王はきっと喜んで友好を約束してくれるはずだ。
それには勇者よりも早く、オグル魔王軍に接触しなくてはいけない。
ハルト達と戦闘になったら収集がつかなくやる。
「良し、グース部隊は全軍後退させろ。我が軍団は魔王城を目指す。直ぐに出発の準備をさせろ」
俺は高らかに声を上げた。
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