116 魔法のワンドにやられた
「だから魔王軍ではなく、俺達がドーズの街を占領したんだ。何度も言わせるな」
衛兵隊長が顔をしかめる。
俺の言葉が信じられないのだろうな。
そりゃそうだろう。
一日でドーズの街が落ちたんだからな。
今じゃオーク達が街を仕切っている。
それをやったのが魔王軍なら説得力がある。
だが全く知らない奴がいきなり来て、俺がやりましたって言っても信じられないのは当然だ。
そして衛兵隊長が言葉を絞り出す。
「そんな世迷い言を信じる訳ないグワ……」
まあ、それでも良いや。
「信じなくても構わん。だが俺達の邪魔はさせんぞ?」
「我々の街の中グワ。逃げられる訳ないグワッ」
「ん? 何か勘違いしてないか。誰が逃げると言った」
「グワ?」
「ダックごとき、殲滅してくれるわ」
「ふ、ふざけたことグワ!」
「ラミ、パピ、ダイ、出番だぞ。好きなだけ暴れてやれ」
ラミが悪どい顔で前に出る。
「やっと出番が来たみたいだな。悪いが容赦はしないぞ。今日は食い放題だからな!」
そう言って、剣を振りかざして突撃した。
それにハピも続く。
「わたくしは串焼きを所望しますわ!」
そしてダイが雄叫びを上げる。
「ワオ〜〜ン」
何でも良いからやってくれ。
俺はダックの長に会いに行く。
高ランク魔物とダックじゃ、戦いにならんな。
次から次へとダックが空中を舞って、壁に叩きつけられていく。
「グワッ」
「グワッガー!」
「ガガー!」
その隙に俺は、オーク達と四人のダック部隊を率いて、奥の部屋へと進んで行く。
敵の雑魚ダックはオーク兵が処理してくれて、俺は特に何もしないで進んで行く。
そして怪しそうな部屋の前に来た。
立派な扉に衛兵が一人。
「ここは通さんグワッ」
ダックのくせに強そうだな。
それに他の衛兵よりも身なりが良い。
装備も良い物を身に着けているな。
俺は前に出て部下に言った。
「こいつは俺がやる」
そう言って小剣を抜く。
相手なダックが持つ槍は、刃の部分が片刃のグレイブという武器だ。
ダック仕様で人間のものよりもやや短く、コンパクトに出来ている。
衛兵ダックが、グレイブを一振りしてから構えをとる。
その時、ブウンと風切音が響いた。
おもしろい。
ダックでもそこまで鍛え抜いた奴もいるのか。
だがな、レベルの違いというのを教えてやるか。
「我はダックのチャンピオンで―――――グワッアアッ!!」
俺の小剣がダックを袈裟斬りした。
何だよ、一撃で終わりかよ。
期待して損したな。
何か言おうとしてたが、まあ良いか。
何故か味方のオークやダック達が、唖然としてるんだが。
まあ問題ないだろ。
そこで俺は部下のダックに指示を出す。
「そいつは使えそうだ。治療してやれ」
部下のダック達は慌ててグレイブ使いのダックに駆け寄り、ポーションでの治療を行い始めた。
さて、俺はというと、目の前の豪勢な作りの扉を開け放った。
仲は書斎の様な部屋だった。
テーブルと椅子、そして書籍棚のある部屋である。
そこには一際大きなダックが椅子に座っていた。
「侵入者とは貴様達かグワ。外にいた衛兵はどうしたグワ」
確かに俺は侵入者だ、否定はしない。
「扉の前にいた衛兵か。すまんが、武人としての違いを見せつけてやったよ」
「貴様が倒したグワか……で、何しにここへ来たグワ」
「貴様の部下達がな、あまりにも態度が無礼なのでな、ちょっと教育してやろうと思ってな。で、貴様がその無礼な奴らの親玉か?」
俺がそう言うと、そのダックは怒りをあらわに返答した。
「よそ者がいきなり来てその物言いは失礼グワ。貴様の方が無礼グワッ」
「クチバシがパクパクとスゲーな……おっと、話し合いは決裂だな。なら仕方ない。俺が貴様を教育してやろう」
俺は小剣を構える。
するとダックの親玉も椅子から立ち上がり、曲刀であるシミターを引き抜いた。
ダックにしてはかなり大きい体だ。
身長は俺とほとんど変わらない。
それに黄色い足のデカさが目立つな。
それに黄色いクチバシがやっぱスゲえ。
ダックって不思議な生き物だよな。
「お、お前、強いのかグワ?」
いきなりのダックの親玉の言葉に面食らう。
何言ってんだこいつ?
「そんなの戦ってみれば分かるだろ」
そう返して、俺は小剣を上段に構える。
するとダック。
「ま、待て、早まるなグワッ。お、お前の望みを一応聞いてやるグワッ」
おっと、こいつかなり弱いのか。
図体ばかりデカくて戦いが弱いとか、どうしようもないな。
「俺の望みはな、この地を穏便に通りたかっただけだ。貴様の部下がそれを邪魔したんだよ」
「そうか、そんなことなら話は早い。直ぐに部下に命令してやるから、まずは剣を納めろ」
そう言って親玉ダックは自分のシミターを鞘に納め、こちらに両手の平を見せて「武器は持ってないよ」アピールをしてきた。
さて、信用して良いのか分からないな。
部屋の中を観察してみたが、仕掛けなどは無いようだし。
「良いだろう。皆も武器を納めろ」
そう言って俺も小剣を鞘に納めた。
オークとダック達も武器を納める。
その途端だった。
ダックの親玉が、テーブルの引き出しから何かを取り出した。
「グワッ、グワッ、グワッ。引っ掛かったグワ」
ワンドだ。
だが魔法石が埋め込まれていない。
ダンジョン産の魔法のワンドか!
俺は小剣に手を伸ばす。
だが、俺が小剣に手をやる前に、そのワンドは俺に向かって魔法を発動した。
「ヴァルルル……」
一瞬で俺は、狼の姿となっていた。
「グワッグワッグワッ、このワンドは対象者を獣にする魔法のワンドだグワ。貴様さえ獣になれば、他は雑魚だグワ。さっきはよくも脅してくれたグワ。こうしてくれるグワッ!」
急に態度がデカくなったダック親玉。
その親玉ダックが再びシミターを腰から引き抜き、狼の姿の俺に斬り掛かって来た。
「死ねグワッ」
そこで俺は人間の姿に戻ってみた。
「何だ、普通に戻れるじゃねえか」
シミターを振り上げたまま固まる、親玉ダック。
そこへ俺は優しく質問した。
「それで、その振り上げた剣でどうするつもりだ?」
すると親玉ダックは、ゆっくりと振り上げたシミターを下ろし、小さな声でボソリとつぶやいた。
「ま、参りましたグワ……」
「そんな調子の良い話……通る訳無いだろうがっ!」
俺の怒りの拳が、親玉ダックのクチバシを下からカチ上げた。
「グワ〜〜ッ!」
親玉ダックは華麗に空中を舞った。
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