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115 ダックの街に入った









 仕方ない。

 この地域を事を荒立てずに通る為だ。

 俺達はこの辺を仕切っているダック族のおさに、挨拶に行くことになった。


 半刻ほど歩くと、川が流れているのが見えて来た。

川の近くでも植物が余り生えていないのを見ると、やはり荒れ大陸なんだなと思う。

 川の水は飲めるほど綺麗なのに、実に不思議なものである。

 その川は地獄の裂け目に落ちて行き、不釣り合いなほど綺麗な虹を描いている。

 道案内のダックはその川沿いに歩き出した。

 川の上流に向かう様だ。


 歩くこと半刻。

 遠くに何やら防壁みたいなのが見えてきた。

 街があるようだな。

 これから会うというダックのおさは、あの街を仕切っているってことか。

 となると結構な有力者だな。

 会って早々に「お前ら生意気だ」とか言って、拉致されたりはしないと思うが、ここは荒れ大陸、何が起こるか分からない領域だ。

 警戒は怠らない。


 門の近くまで来て、思ってた以上に大きな街だと認識した。

 街の名は『グースタウン』というそうだ。

 一瞬「?」となるが、どうでも良いか。


 まずは人通りが物凄く多い。

 それもほとんどがダック族。

 時々だが亜人が行き来するが、すべて鳥系だな。

 人型をした鳥系の亜人だ。

 俺は初めて見る種族だ。


 しかしダックが圧倒的に多い。

 言ってみればこの街は、ダック族の街だな。


 人間の街と同様に、門で入街税をとるようだ。

 俺達を案内したダック兵が、門兵に話を通して、俺達の税金は無しになった。


 そこで案内したダックの一人が、持っていた槍で荷車を指し示して言った。


「この中へ入るグワ」


 は?


 どう見てもただの荷車ではないよな。

 荷車の上には木製の箱が置かれていて、その中に入れと言う。

 その箱、木製のおりに見えるんだが。


「これはおりじゃないのか?」


 俺がそう聞くと。


「いいから乗るんだグワ!」


 強引に乗せようとする。


 暴れちゃおっかな〜


 そう思ったが、周囲には一般人がかなりいる。


 う〜ん、困ったな。


 ラミが聞いてきた。


「こいつら喰っちまっても良いよな?」


 そしてハピも。


「わたくしは焼き鳥が良いですわ」


 味方のオークらも、臨戦態勢をとる。


 そこで俺達が連れて来たダックが、慌てて仲裁に入った。


「この方は人間大陸で、全てのオーク族を束ねるグワ。手荒な真似をするなら、この街を滅ぼすグワ!」


 おお良いぞ。

 ダック如きに舐められてたまるか。

 あ、味方のダックもいるんだったか、ややこしい。

 

 相手のダックがひるんでいる。


 そこで近くにいた偉そうなダックが、騒ぎに気が付いたのか、こちらにやって来る。

 他のダックよりも、ちょっとだけ大きいな。

 恐らくこの門番達の隊長だろう、装備も他のダックよりも良さそうだ。

 その隊長ダックが、俺を指差して大声を上げた。


「騒がしいグワ。何で人間がここにいるグワ」


 指差すんじゃねえよ。


 俺達を案内して来たダックが、こちらをチラチラ見ながら説明している。

 

 説明を終えたのか、偉そうなダックが俺を見て言った。


「人間が偉そうに、何をウソなんか言ってるグワ!」


 何を説明したか知らんがな、偉そうなのはお前だろ。


 俺より先に、ラミとハピが襲い掛かりそうになったのを手で制した。


「待て、手を出すな!」


 そうだ、今ここで戦ったら駄目だ。

 落ち着け俺!


 俺は落ち着きを取り戻し、改めて話し出した。


「俺はドーズの街をべる者。名はライと言う。人間ではなく、誇り高きライカンスロープだ。この街のおさと話がしたい。会わせてもらえるか?」


 するとダック隊長。


「ライカンスロープ、グワ〜? 笑わせてくれるグワ。ママのおとぎ話の聞き過ぎグワ」


 キレそう!


 そこでダイの念話。


『ライがキレたら収集がつかないぞ。耐えろ』


 その言葉に冷静さを取り戻す。


 そうだ落ち着こう。

 ライカンスロープが実在する事を知らないのは、当たり前だったな。

 そういうことなら。

 俺は声を上げた。


「ならばそのおとぎ話を見せてやる!」


 体中の筋肉質が盛り上がり、全身から狼の毛が生えてくる。


 俺は両手を地面につき、一気に狼へと変身した。


「ヴァオ〜〜ン!」


 隊長ダックはというと、クチバシを大きく開き、目を丸くしたまま固まっている。


 周囲にいた通りがかりのダック達も、あんぐりとクチバシを開けたまま動かない。


 この周辺だけが静まり返る。

 まるで時間が止まったかのよう。


 そこへズイッと前に出るラミ。


「貴様ら、が高いんだよ、が!」


 勢いに飲まれたのか、周囲にいた者達が地面に平伏ひれふす。

 それは門番のダック兵までも、俺に平伏ひれふしていた。


 あれ?


 そういうんじゃないんだが。

 ラミ、やり過ぎじゃないか?

 

 しかし一人だけ立ったまま、唖然あぜんとする奴がいた。


 隊長ダックだ。


 するとハピが前へと歩み出る。


「命知らずの馬鹿がここにいましたですわ」


 そう言うやハピは翼を羽ばたかせ、未だに驚きを隠せない隊長ダックの真上へと飛び上がる。

 そして両足の鉤爪かぎづめをキラリと光らせ、その頭へと突き立てた。


「グワッ、痛いグワッ」


 ハピはそのまま空高くまで昇り、そこから隊長ダックを地面に叩き落とした。


 隊長ダックは、退化した小さな羽をパタパタと必死に動かすが……


 ズシンッと音を立てて地面に落下した。


 ヒクヒクしている、ってことはまだ生きている。

 危ない、危ない、殺しちゃマズいからな。


 俺は人間の姿に戻ると、案内したダック兵達に言った。

 

「おい、そこのダック兵。そいつを治療院に運んでやれ」


 俺の言葉に、慌てて街のダック兵が「ガーガー」言いながら動き出した


「待て、案内役を残していけ」


 全員で治療院へ行ってしまったら、俺達をこの街のおさに案内するダック兵がいなくなるからな。


 まあ、取り敢えずこの場は収まった……はず。


 俺達は一人のダックの案内役を先頭に、再びおさの所へと足を進めた。


 街中をダックに連れられて歩く。

 人間の姿が珍しいのか、ジロジロ見られる。


 街の造りは人間と一緒だが、この街は至る所に水路や池がある。

 歩きながらそれを見ていると、どの池でもダックの子供達が水遊びをしている。

 なんとものどかな風景だな。


 近くの川から街中へと、水を引いているみたいだ。

 それで街中に水路を張り巡らせ、あちこちに池を造っているようだ。

 池が多いとか、ダックらしい街並みだな。

 それに水車小屋も多い。


 ダイが水路の水を飲みながら念話を送ってきた。


『水が旨いな』


 きっと水が綺麗なんだろう。

 荒れ大陸にしては珍しいな。


 それで人間の街との違いはというと、住人がダックばかりなのと、池と水路が多いってことに加えて、建物がダックの大きさに合わせて小さい。。

 ダックは人間の身長の半分位しかない。

 だから建物の造りも小さいのだ。

 他種族も利用する事があるから少し大きめに造ってはいるというが、俺が建物に入るには腰をかがめないと入れないだろう。


 しかし規模的には、かなり大きい街である。

 結構な距離を歩いているが、まだ目的の所へ到着しない。

 実は木のおりの獣車に乗った方が、早くついた気がする。

 

 そしてやっと見えて来た、ちょっと大きめな建物。

 その建物だけが塀で囲われている。


 しかし、普通だな。


 木製造りの建物で、人間の男爵くらいの規模の屋敷だろうか。

 街の規模に比べると、小さいとも思える。


 さて、どんな奴がおさなのか、見てみるか。


 門を通り、塀の中へと案内された。

 門の中には詰め所があり、衛兵が立っている。

 すると案内のダックが衛兵へと近付き、ヒソヒソと話しを始めた。


 そして「ちょっと待つグワ」と言い残し、一人の衛兵がどこかへ行ってしまった。


 しばらくして現れたのは、二十人程の衛兵だった。

 仲間を連れて来やがったのだ。


「この者達を捕えるグワッ」


 いきなりである。

 きっと案内ダックが、門でのやり取りを話したんだろう。


 衛兵は中々良く訓練されているようで、綺麗な隊列を組んだ。


「大人しく武器を捨てるグワッ」


 直ぐにオーク達が武器を構えた。

 俺の部下のダックは武器を構えつつも、必死に説得を試みている。


 だがな、もう信用出来ない。

 いきなり仲間の衛兵を呼んで来る奴らだ。


 俺は我慢出来ずに言ってやった。


「最近ドーズの街がどうなったか知ってるよな?」


 すると衛兵隊長が前に出て来た。


「魔王軍によって街が占領されたと聞いたグワ。それがどうしたグワ」


 くそ、ダックの情報統制作戦で、魔王軍ってことになってたな。

 説明が面倒臭いな。


「あ、ああ、ちょっと違うな。それは魔王軍じゃない。それは俺の配下の者達だ。つまり、その配下の代表が俺って訳だ」


「グワッ、グワッ、グワッ。笑わせるグワ。貴様が魔王のはずないグワ」


 だから魔王軍じゃないって言ってるだろうが!









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