114 植物魔物に捕まった
道案内であるダック四人を先頭にして、吊り橋を渡って行く。
慎重に行かせる。
俺が吊り橋を切った時の魔人の様に、ロープ一本で地獄行きは困るからな。
ハピには上空から警戒してもらう。
順番にそして慎重にだ。
なんとか全員が無事に渡り終え、再び荒れ大陸を踏みしめた。
「ここから荒れ大陸だ。油断するなよ、常に周囲を警戒しろ」
強力な魔物がいる荒れ大陸だ。
どんな魔物がいるかも分からない。
どうしても戦闘が避けられない状況でも、敵から奇襲を仕掛けられるのと、こちらから仕掛けるのとでは大きく違う。
その為には相手より先に発見するのが、なによりも重要だ。
オーク兵十人、ダック兵四人、そして獣魔三人。
そしてたった一人だけ人間の姿の俺。
怪しすぎる一団が荒野を歩く。
俺が狼の姿で歩けば、全員が魔物の集団となって怪しまれなくて良いのだが、そうすると人間の冒険者にあったら面倒だ。
特に勇者パーティーにあったら大変だからな。
なので敢えて人間の姿で歩く。
しばらく歩くと、肉食植物の魔物を発見した。
残念ながらギルドの依頼のとは違う。
人間三人分の高さくらいだろうか。
中央付近に口の様な消化器官が見える。
複数の長い蔦があり、それがウネウネと動いている。
この魔物は標的の好みの物を見せておびき寄せ、近付いた所で蔦を伸ばして絡め取り、そのまま消化器官へ運ぶ植物系魔物だ。
荒れ大陸にしかいない魔物である。
どうやって標的の好みを知るのか、詳しくは分かってないらしいが、何らかの魔法ではないかと言われている。
ただ、知能が高い魔物には通じる訳がない。
どう見てもトラップと分かるからだ。
ゴブリンでも中々引っかからないレベル。
俗に“間抜けの罠”と呼ばれて、冗談に使われたりする。
それを全員に忠告したところ、ラミが興味を持ったらしく近付いて行く。
するとその植物魔物の蔦の先に、骨付きの焼けた肉の塊が現れた。
「おおっ、こんがり肉じゃねーか!」
ラミが蔦に手を伸ばした途端、蔦がラミの腕に絡み付いた。
言ってるそばからこれだ。
「う、うわっ、どういう事だ!」
ほんと馬鹿なのか?
すかさずハピが助けに向う。
「今助けますわっ」
すると別の蔦の先に串焼き肉が出現。
「あら、お肉ですわ……うきゃっ、どうしてですのっ!」
間抜け二名捕まる。
「ネトネトするぞこれ。ライさん、た、助けてくれ」
「蔦が変な所を弄るのですわ。ライさ〜ん!」
溜め息しか出ない。
仕方ない、消化される前に助けるか。
俺が小剣を引き抜いて近付いて行くと、蔦の先になにやら出現した。
魔法のワンドだった。
一瞬、王様が持つような笏に見えた。
何故そのような物が現れたのか……
そうか、思い出したぞ。
ターナー伯爵から奪った、パラライゼーション・ワンドか。
確かハルト達にあげたんだったな。
俺はあのワンドに未練があるのか?
するとオーク兵達が、ニヤリとするのが見えてしまった。
まさかこいつら勘違いしてないか!
「おいっ、違うからな。あれはワンドであって、王笏なんかじゃないぞ。俺が王を狙ってるとか勘違いするなよ。な、なんだその目はっ、俺は魔王じゃないからな!」
オーク達が一斉に視線を逸らした。
だがダック達がまだニヤニヤしてやがる。
こ、こいつら……
「おい、アヒル共。あの植物魔物の消化液で溶かされるのと、俺に踏み潰されるのと、どっちか好きに選ぶ権利を与えてやる。さあ、選べ!」
急にダック達が平伏し始めて、命乞いを始める。
調子の良い奴らめ。
「オーク兵、悪いが頼めるか」
俺がそう言うと、オーク兵達が「消化液、踏む、どっち?」とかダックに聞いている。
「違うから。ラミとハピを助けるんだよ!」
オーク達は慌てて植物魔物の方へ走り寄った。
どいつもこいつも使えんな!
何とか剣で切り裂いて助け出すと、ラミとハピは切り刻まれた蔦を足で踏み潰しながら言った。
「よくも騙してくれたな!」
「こうしてくれるのですわっ」
子供かっ!
そこでオーク兵が、この植物魔物は食べれると言うので、食事休憩をすることにした。
食べられるのは実の部分ということで、人間の頭ほどの大きさの赤い実を採集する。
ちょうど採集が終わる頃だった。
小高い丘の上に、いくつかの人影が見えた。
ダイに知らせるも、風向きが悪くて匂いじゃ分からないという。
人型っぽく見える。
白っぽい体色のようだ。
意外と小さい種族みたいだな。
口と足が黄色い。
クチバシ?
「ダックじゃねえか!」
十人ほどのダック族が、丘の上からこちらを見ている。
ああ、そうか。
こっちにもダックがいるからな。
しかしこっちのダック達は、人間の姿の俺に平伏している。
彼らにしたら不思議な光景だったはずだ。
そこでダック共に聞いてみた。
「あのダック共は知り合いじゃないのか?」
「荒れ大陸のダック族は別の長に仕切られているグワ。だからまだ魔王軍には所属してないグワ。荒れ大陸の支配はまだ進んでな――――」
そこまで言ったところで、俺は話を止めさせた。
「おい、ちょっと待てアヒル。今、“何”軍って言った。よく聞こえなかったから、もう一度言ってくれるか?」
「りょ、了解グワ……まだ荒れ大陸は支配が進んでないグワ……だ、だからあのダック族は……我が軍には所属してないグワ……」
「理解した。ならばダック共、奴らのとこへ行って話を付けてこい!」
途中で襲われでもしたら、たまらないからな。
事前に話し合って置けば、無駄な戦闘はなくせる。
俺達はここを通りたいだけだ。
味方ダック部隊の四人が、除々に丘の上のダックに接近して行く。
そして戦闘にはならずに、何とか無事に接触出来た様だ。
味方ダックが、こちらを指差して何かを訴えている。
しばらくすると、味方ダックが無事に戻って来た。
「どうだった?」
と俺が聞くとダック。
「長の所へ案内するって言ってるグワ」
いちいち長とか面倒くせえ、無事に通りたいだけなんだがな。
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