113 新しい獣車が迎えに来た
俺がオークから渡された手紙を読んでいると、ダイが俺の横に来て念話を送ってきた。
『どうした? 何が書いてあるんだ』
俺は溜め息をついた後、ゆっくりとした口調で言った。
「荒れ大陸に行っていた偵察部隊のひとつが、魔王城を発見したらしい」
『魔王城だと!?』
ダイが驚くのも無理はない。
いきなり魔王城とくればそうなる。
魔王の存在自体がはっきりしていなかったのに、いきなり城が発見されたんだ。
それはもう魔王が実在していた証拠だ。
それも城を築く期間があったということは、魔王はかなり前から実在していたのか。
さて、そこで俺はどういう行動を取れば良いのだろうか。
やっぱり真偽の確認は必要だよな。
だがその魔王城の場所に問題がある。
荒れ大陸だ。
強い魔物がウジャウジャいる土地。
あの地獄の裂け目に落ちた魔人のような魔物が、ゴロゴロ存在する土地だ。
行きたくねえ〜
だけど行って確認しなきゃいけない。
本物の魔王とやらを。
それが本物なら、魔王に会って色々と説明しなくちゃいけない。
俺の事、オークの事、ゴブリンやダックの事をだ。
そして友好関係を築きたい。
そもそも魔王城を見てみたいってのもある。
「仕方ない、魔王城へ行くか。ダイ、ラミとハピを起こすぞ」
『それはライに任せた』
そうくると思った。
あの寝坊助どもを起こすのは、至難の技だからな。
苦労して二人を叩き起こし、魔王城を探しに行くと告げる。
すると、ラミとハピが驚いた顔でこちらを見る。
「どういう事だ、説明くらいしてくれ」
「そうですわ、いきなり過ぎますわ」
寝ぼけて聞いてなかっただけだろうが。
「ったく、もう一度言ってやる。魔王城が見つかったと報告が入った。その確認に行くんだ。ほら、準備しろっ」
二人は仕方なさそうに、再び旅の準備を始めた。
吊り橋を渡るから馬車は使えない。
だから荷物は、出来るだけ絞らなければいけないな。
食料は現地調達を基本としよう。
それと折角荒れ大陸へ行くんだから、あっちでの依頼もこなせば一石二鳥だ。
まずは冒険者ギルドへと向かった。
依頼掲示板をながめていると、いつもより荒れ大陸での依頼が増えている気がする。
魔王情報に関する依頼が多い……
だが、まだ魔王城に関する情報は入ってない様だな。
そう簡単に、人間に見つかるような城じゃないからな。
荒れ大陸の依頼を探すと、植物系魔物の採集依頼がいくつかあった。
俺はそのひとつを受けようと、依頼の札を持って受付へと行く。
「あら、ライ君じゃない」
俺が入りたての頃から世話になってる受付のお姉さんだ。
「この依頼を受けたい。手続きを頼む」
するとお姉さんは、いつものように笑顔で言った。
「荒れ大陸へ行くの、危険よ〜。あ、でも今なら勇者パーティーが行ってるから安心かな。新しいメンバーも増えたみたいだしね」
ハルト達は、また荒れ大陸へ行ってるのか。
しかも、新しいメンバーが入っただと!
そういえば勇者達は、よくトラップに引っ掛かってたからな。
新しいメンバーってのは、きっと斥候系でレンジャーやシーフとかだろう。
「その新しいメンバーは斥候職なのか?」
するとお姉さん。
「あら、聞いてないのね。ライ君達が助け出した、エルフのルリ・ルールさんよ」
マジか、大錬金術師かよ。
ってことは、強力なポーションとか色々と作れるんだよな。
戦力アップしちまったか。
「そうか……それで勇者達は何故荒れ大陸へ行ったんだ」
「もちろん依頼のお仕事のためよ。本当は内緒なんだけどね、魔王城の情報が入ったのよ。まさかとは思うけど、一応情報を集めに行ってもらったのよ」
ピンチじゃねえか!
勇者パーティーが先に、魔王城を発見しちまう可能性がある。
そこらの人間冒険者くらいなら、魔王城なんて見つけられないとは思うが、勇者となるとそうはいかない。
奴らは神の加護があるからな。
それに新しく入ったあのエルフだが、どんなスキルを持っているか解らない。
例え加護が無いとしても、勇者パーティーに入ったほどだ。
要注意だな。
俺達も急いで荒れ大陸へ向うとするか。
相変わらず護衛オークがついて来る。
それに加えて、魔王城を発見したという偵察部隊が四人加わった。
道案内という訳だ。
だが、その四人とはダック族だ。
こいつらが本当に魔王城を発見したんだよな……
不安は残るが、冒険者ギルドにも魔王城の情報が入ったってことは、偽情報の線は薄いか。
どうもダック族は信じがたいんだよな。
それと吊り橋までは、オーク達が獣車で送ってくれるという。
それは助かる。
その送ってくれるという獣車は、街の外で待っていた。
な、なんか凄い外見なんだが。
通り過ぎる冒険者が、ジロジロ見ながら何か会話している。
「立派とは思うけどよ、ちょっと趣味悪いよな。まるで魔王専用の獣車みたいだな」
「おお、上手いこと言うな。魔王の獣車って言われると、確かにそんな気がするよ」
「あ、ヤバイ、その魔王が来たぞ」
その二人の冒険者だけではない。
通って行く冒険者が皆、同じ様な話をしている。
これに乗るの嫌なんだが。
おれが乗ったら「やっぱりな」って思われる!
獣魔達は既に乗り込んでおり、楽チンとか言いながら普通に喜んでいる。
俺も諦めて獣車の扉の前に立った。
すると、オーク兵が恭しく扉を開けてくれる。
魔王じゃねえかっ!!
走り出すと、乗り心地は貴族仕様の馬車並みだ。
立派なだけあって、乗り心地は今まで乗った中でも最強だ。
ただしこいつは馬じゃなく、巨大な黒い猪が四頭で牽く、屋根付きの獣車。
それとその装飾がイケない。
全体的に暗色で不気味に彩られ、ドクロとか骨とか狼系の足跡の文様まで車体に描かれている。
それはもう……
――――地獄行きだ。
ご丁寧にも紋章のような旗が、颯爽と風にたなびいている。
よく見るとその旗、黒い生地に白で狼の絵柄が描かれている。
悔しいが恰好良い。
それに内装もしっかりしている。
良さげな造りの屋根と、頑丈そうな扉まで付いていて、椅子はクッション入りでフカフカだ。
言いたい事は沢山あるが、今日のところは我慢して獣車に乗るとする。
そして、早々に荒れ大陸へと出発した。
吊り橋に着くと獣車とはお別れだ。
乗り心地が良すぎて、名残惜しく感じてしまうのは何故だろうか。
何だか知らない間に、何者かの罠に嵌まっていく気がしないでもない。
そして俺達は吊り橋の前に立った。
ここを渡れば荒れ大陸。
だがここまで来て、行きたくないという感情が湧いてくる。
俺は自分に鞭打って、吊り橋に向かって歩を進めた。
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