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112 有名な錬金術師だった








 ハルトが奴隷全員を助け出したと、合図をしてきた。


 それならもうここには用事がない。

 俺はオークに目配せする。


「パプ〜、パプ〜」


 撤収の合図の角笛だ。


 奴隷達を引き連れて、俺達は村から脱出した。

 味方に負傷は無しの、作戦大成功だ。


 そして、しばらく行った所で休憩となった。


 オーク達が率先して、周囲の見張りをしてくれている。

 いつも悪いな。


 元奴隷達はリンが魔法で回復させたが、痩せ細った体は急には変わらない。

 だから体力は最悪だ。


 それにずっと体を洗っていないらしく、汚れと臭いが酷い。

 大量の水があれば体を洗えるのだが、ハルトのマジックバッグの中にも、そこまでの量の水はない。


 それと靴。

 元奴隷達は簡素な服は着てるが、足は裸足だ。

 こればっかりは、どうにもならない。

 予備の靴など無い。

 無いよりましと布を巻いてみたが、それでも歩く速度がかなり遅い。

 

 それにひとつ問題がある。


 人間もオークも全員が男なのだが、エルフだけが女なのだ。


 そりゃハルトも興奮するか。


 改めてそのエルフを見ると、右耳が欠けている。

 それが何か引っかかる。

 耳が欠けたエルフ、どっかで聞いた事あるような?


 声を掛けてみた。


「おい、エルフ。名前は何と言うんだ?」


 するとエルフ。


「ルリルール……」


 精神的に衰弱しているみたいで、元気がない。

 リンの魔法では、精神衰弱までは治らないからな。


 ルリルールか、聞いたことあるような無いような。


 するとヒマリが何かを思い出したのか、ハッとした様子を見せる。


「ねぇ、ねえ、ルリルールってさ、王都のあれじゃない。ほら、え〜と、なんて言ったかな。ポーションのお店よ」


 するとリンも何か思い出したみたいだ。


「ああ、そう言えばそうかも。王都のポーション屋さんの名前と一緒じゃん。“ルリ・ルールのポーション屋”だったよね」


 それを聞いてエルフが反応した。


「そ、それ、私のお店……」


 一番驚いたのはハルトだった。


「ってことは、このエルフがあの、大錬金術師の“片耳ルール”ってことだよ!」


 それが凄いのか俺には分からない。

 でも勇者達が三人が知っているくらいは有名って事か。

 二つ名持ちだしな。


 しかし錬金術師ねえ……


 どう見ても、そんな凄いエルフには見えないな。

 汚い貧相なエルフにしか見えない。


 まあ、どっちにしろ、エルドラの街に連れて帰るのは変わらない。


 しかし進み方が遅い。


 結局、ルリ・ルールとかいう女エルフをラミが背負う事で、少しは進む速度が上がった。


 初めは俺が背負うと言ったのだが、ヒマリに物凄く反対された。

 その理由は、女性は女性が運んだほうが良いからと。

 ふ〜ん、そういうものか。

 人間の文化は難しいな。


 それでラミがエルフのルールを背負って運んでいるのだが、どうもラミは魔物がいたら直ぐに行動に出てしまう性格なため、あっちへ行ったりこっち行ったりと落ち着きがない。


 終いにはルールが「気持ち悪いです……」と、乗り物酔いになる始末。


 次いでハピに背負わせたら、翼が邪魔なようで、背負う方も背負われる方も、両者共に居心地が悪いと言ってきた。


 そうなると後は、リンかヒマリかミリーしかいない。


 ……無理だな。


 結局はハルトと俺が交代で背負う事になった。

 リンとヒマリが反対したが、そんな事言ってられない。


 そしてやっとの事で吊り橋に到着した。


 大丈夫、壊れてはいない。


 吊り橋を渡り、再び元のロープを切った吊り橋に向かって歩く。

 留守番オークは全滅したが、もしかしたら馬車は残っているかもしれないからだ。 

 荷車は高級品なのだ。

 

 到着してみると、荷車を牽引していた馬も(ボア)も全滅していた。

 しかし荷車は俺達のも、オークのも残っていた。


 そして元奴隷達は、かなり衰弱している。

 やれる事というと、荷車に乗せて行くという方法。


「なあ、皆、聞いてくれるか?」


 俺は提案をした。

 荷車に元奴隷達を乗せ、それを引っ張るという提案だ。


 反対するものはいない。


「じゃあ、ラミ。荷車を引っ張ってくれ」


 ラミが「は?」という顔をする。


「いや、だからこいつを牽引するんだよ」


「ちょっと何言ってるか解らない」


 何故かハルト達がその言葉で笑う。


 俺は真剣な表情でラミを見る。


「良く聞け。このメンバーの中で一番力があるのは誰だ?」


「わ、私か!」


「そうだ、ラミ。お前は誰よりも力があるんだ。ラミほど力のある魔物はいないだろ。だからこの重要な任務はラミにしか出来ない。どうだラミ、やってくれるか?」


 ラミが目を輝かせながら返答した。


「当たり前だ、やってやるぜ!」


 ヘビの尻尾の先端を震わせながら、ラミは荷車を引っ張り出した。


 やる気になったらしい。

 基本、魔物の思考は単純だ。


 オーク達は荷車を諦めたようで、置いて行くという。






 そして、やっとの思いでエルドラの街まで戻って来た。


 そこからがまた忙しかった。

 ギルドに報告やなんやで、大変な目にあった。


 解放した奴隷達だが、そっちはハルトに処置は任せた。

 魔狼討伐の報酬は、俺達に全額譲るという。

 まあ、俺が倒したんだからそこは遠慮なく貰っとく。


 さて、それでは魔人はどうなったかというと。

 まずは討伐依頼はなかったから、褒奨金は出ないらしい。

 そもそも倒した証拠もない。


 だから報奨は無しだ。

 期待した俺が馬鹿だった……


 だが魔人は魔王軍を探していたようなので、それは魔王情報としてギルドが買ってくれた。

 魔人が魔王軍を探していたということは、魔王はいるという証拠のひとつでもある。

 これは今以上に気を付けなくてはいけないな。

 オーク達の荒れ大陸への偵察は、さらに増やした方が良さそうだ。


「ハピ、ギルドから魔人情報の謝礼が出たぞ。ハピが倒したんだから、全額お前にやる。受け取れ」


 俺はハピに硬貨を投げ渡した。


「やったですわ―――って小銀貨一枚ですの!」


 所詮はその程度の価値の情報だって事だ。


 この後ハルト達はどうするのか聞いてみると、資金が底を突いてきたらしく、依頼をこなして金を稼ぎながら魔王情報を探すんだと。

 それでハルトがこう言っていた。


「でも君たちの二つ名が“魔王軍”ってのは紛らわしいな。本物の魔王が出てきたらもっとややこしくなると思うよ。かと言って二つ名は、自分で変えられるもんでもないしな。まあライ達も有名になったってことだよ」


 そういえば魔人が俺達の事を“魔王軍”って呼んでたからな。

 それで俺が魔王と呼ばれるのは二つ名だからとか、非常に都合が良い解釈をハルトはして下さっているんだが―――


 笑えねえ!


 周囲の人間共も“魔王”とか“魔王軍”とか、普通にコソコソ話をしてやがるし。

 これは傍若のアオが、ギルド内で俺を“魔王”と呼んだせいだがな。

 こうなると勘違いしていてくれた方が好都合で、もはや否定できないじゃねえか。

 しばらく魔王って言われるのかよ、泣けてくる。


 ミリーはどうするのか聞いてみると。


「え? 私は他の街へ行ってみるつもりだよ。もうちょっと魔王と一緒にいても面白そうだけど、危険っぽいしね。私まだ死にたくないから」


 こ、こいつまで俺を堂々と魔王呼ばわり……

 

 さらにハルト達ともお別れだ。


「それじゃあ、僕達は宿を探すんで。また一緒に冒険出来たら良いな。またな、魔王軍!」


 そしてリンとヒマリ。


「元気でね、魔王軍」

「またねライ。今度会った時は魔王討伐しちゃうぞっ♡」


 こいつら全員、滅ぼしてやろうか!



 

 勇者達とミリーと別れ、俺達は一旦自宅に帰ることにした。


 久しぶりに戻る自宅ってのは良いものだな。

 ちょっと帰ってないだけで、自宅近くの景観までが懐かしく思う。

 

 そして俺達はしばらくエルドラの街で、そつなく依頼をこなしつつ生活していた。


 そんなある日の事だ。

 陽が昇るにはまだ早い時間だった。

 自宅の玄関の扉を叩く音が、室内に響く。


 誰かと思えば、またしてもオークの伝令兵だ。

 嫌な予感がするんだが。


「ライ様、伝言、持って来た」


 そう言って渡された手紙を開けてみると『魔王城を発見』の文字があった。


 悪い予感が的中だ。



 






引き続き「いいね」のご協力をよろしくお願い致します。






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