11 仲間が増えた
夜中の街道は寂しい。
人間は昼間に行動するものだから、街道の人通りは皆無だし、時々見かけるのは魔物だ。
しかし現れた魔物は全てバンパイヤの二人が片付けてくれる。
何か偉くなった気分だな。
初めのうちは遠巻きにしていたバンパイヤの二人だったが、魔物が現れる度に走り寄ってくるのが面倒臭くなったようで、今じゃ馬車の前後を早足で堂々と歩いている。
馬車の速度に合わせて歩くのも大変だな、お二人さん。
せいぜい俺達の護衛を頑張ってくれ。
気を抜いていたら、右の林の中に野良ゴブリンを発見した。
だが俺は特に慌てることなく、声を上げるだけだ。
「おい、バンパイヤ、ゴブリンがいるぞ!」
すると「チッ」と舌打ちしながら走って来る女バンパイヤ。
ああ、なんて気分が良いんだろうか。
あの天敵のバンパイヤが召使いみたいになってるよ。
バンパイヤの女が野良ゴブリンを瞬殺して、直ぐに馬車の後方に定位置に戻ろうとする。
「おいおい、角だろ、角、ゴブリンは角が討伐証明になるんだよっ」
そう言ってみたが「ふざけるな!」と怒られてしまった。
しょうがないか、角は諦めよう。
エルドラの街が近づいた辺りで、周囲が明るくなってきた。
時期に陽の出だ。
するとバンパイヤの二人はフードを被り始める。
やはり日光には弱い様だ。
グイドもフードを被る。
街道は冒険者や商人の通る姿が、ちらほら見かけられるようになった。
こうなればバンパイヤの二人も、そう簡単には俺達に手が出せないはずだ。
馬車は遂にエルドラの街中へと入って行く。
馬車の中に魔物のハピがいて門の所でちょっと騒ぎにはなったが、俺の説明に加えてハピ本人が言葉をしゃべれるので、門兵に説明すると何とか信じてくれて門を通過。
その間に門兵の男達は、ずっとハピの人間部分の身体をジロジロと眺めながら、微妙な顔をしていたのが印象的だ。
人間の男って、本当に不憫な生き物だな。
街中でもかなり注目を浴びた。
やはりハーピーの獣魔など連れている者は、かなり珍しいようだ。
それにこいつは普通のハーピーとは違い、両手がある特殊個体だから余計にだ。
ジロジロ見られる。
こうして人目を気にしながら、なんとか冒険者ギルドへと到着した。
さすがにバンパイヤの二人は、冒険者ギルドの中には入って来ない。
バンパイヤとバレるのを恐れているのだろうが、それを見分けられる様な人間は数少ない。
ギルド内へとぞろぞろと入って行くと、やはり注目を浴びる。
というか、剣を抜こうとする奴までいる。
この時間帯は混んでいるのだが、自然と俺達に道が空いて行く。
まずは獣魔の登録からするか。
一番空いている受付の整理券を取ろうとすると、急にギルドの奥から人が数人出て来た。
全員が剣を抜いている。
反射的に俺も槍を持ち直す。
ダイとハピも構える
そいつらはやはり、俺達に集まって来た。
「どういう事だ」
俺が声を掛けると、責任者っぽい奴が返答する。
「その特殊個体のハーピーだ。何でギルドへ生きた魔物を連れて来たんだ」
なんだ、そういう事か、驚かせやがって。
そこへハピが一歩前に出るや、腰に手を当て上から目線で言った。
「雑魚のくせに口だけは達者ですわね。ライさん、こいつら蹴散らしてもよろしいですわね?」
俺は大慌てで制する。
「待て、ハピ。ここで騒ぎを起こすな!」
「おい、魔物が口をきいたぞ。どういうことだ!」
「こいつ普通じゃないぞ、気を付けろっ」
「このハーピー、特殊個体だ。油断するな!」
ハピが言葉をしゃべったもんだから、ギルド内がザワついてきた。
ハーピーが言葉を話すってことを誰も知らない様だ。
まあ、俺も知らなかったしな。
しかしハピよ、今は黙っててほしい。
話がややこしくなる。
「俺はな、ここへ獣魔の登録をしに来たんだよ。それとも何か、ハーピーを獣魔にしては駄目っていう規定があるのか!」
俺の言葉に、お互いに顔を見合わせる男達。
そして「ちょっと待ってろ」と言い残し、責任者っぽい男がギルドの奥へと消えて行った。
山賊の話になるまで、これは時間が掛かりそうだな。
その場でしばらく俺達は、剣を構える男達と睨み合う。
結局その後、ハーピーの獣魔登録はすんなり通った。
ハピが言葉を話せるのが決定的だった。
言葉で受け答えが出来るという事は、主人のいう事を聞くかの証明が直ぐに出来るからだ。
魔物が自ら俺と獣魔契約をしたと言ったとなると、ギルド側は信じる他はないのだ。
嘘かどうかなど、人間に判別出来る訳がない。
かなり騒がせたが、ちゃんと獣魔の札も受取り、ハピの首輪も買わないといけなくなった。
それと条件として、動いてもはみ出さないように胸をちゃんと隠せとも言われた。
やっぱりポロリしちまったか。
そしてやっと山賊の手続きだ。
七人のレッドキャップの手下と、その親玉のグイドの引き渡し。
そして時間は掛かったが、とうとう山賊討伐の賞金を得た。
金貨六枚と銀貨四枚だ。
銀貨にして六十四枚。
よし、急いで戻って残りを連れて来よう。
その前にハピの胸を隠す布と、獣魔の札を下げる首輪を買わないといけないか。
それとダイから、山賊のショートソードを持ち歩ける様にしてくれと要望があった。
革ベルトで身体に、鞘を着けられる様にするか。
そういうの、俺も欲しいな。
そういえば、何時の間にバンパイヤの二人はいなくなっていたな。
陽が出る前に消えたってことだ。
その日は買い物とハピの街の案内で終えた。
翌朝、山賊の戦利品である馬車が手に入ったので、少し遠出をしてみた。
ダイとハピと俺での戦闘の連携の確認のため、人気の無いところへ来た。
ダイは狼同志だし念話を送ってきたりと、何となくだが連携は取りやすいのだが、ハピとはそうはいかない。
なんせ空を飛ぶ魔物だ。
乱戦になって頭上から、ハピに爪で引っ掻かれるのは勘弁だからな。
一番良いのは実戦を数こなす事だ。
「なあ、ハピ。魔物を見つけて戦闘に持ち込もうと思うんだがな、得意な攻撃とかあるか?」
こちらの勝手な判断で、攻撃方法を決め付けてはいけない。
俺が勝手に得意だと考えている空からの攻撃が、実はハピ自身にしたら苦手かもしれない。
これは一緒に戦う上で、ハッキリとさせておかないといけない。
するとハピ。
「得意な攻撃ですか。そうですわね、トルネードが得意ですわね」
何て?
聞いたことない攻撃方法だが。
「えっとハピ、そのトルネードってのはどうやるんだ」
「説明するよりも見せた方が早いですわ」
そう言ってハピは急に、翼を広げて空に飛び上がった。
何をするのかと見ていると、驚いた事に魔法を放ちやがった。
トルネードってのは、魔法で作られた竜巻だった。
呆気に取られてポカーンとしていると、ハピは俺達の隣に降り立ち、一緒にそのトルネードを眺めながら言った。
「範囲魔法ですわ。だから接近戦じゃ使えないですわね」
そうか、それで今まで使わなかったのか。
「ハピ、他に魔法は何が使えるんだ」
「強風ですわね」
そう言ってその場で翼をバタバタと羽ばたかせる。
目の前の敵に浴びせる風魔法らしいが、威力は微妙だな。
「それだけか?」
「そうですわ。ハーピー族は魔法が使える固体が多いのですわ。でも私の魔法じゃ弱々で馬鹿にされていたのですわ」
トルネードかあ、使い方によるな。
まさかダイも何か、得意な攻撃があるかもしれないな。
そう思ってダイを見た。
サッと目をそらされた。
無いのか……
ならば俺のも説明しておくか。
「それなら、俺も教えておくな。俺は変身して身体強化が出来るのと、ハウリングっていう声で敵を硬直させるワザがある。だがこれは味方にも影響するから使い所が難しいな。それと種族特性で傷が治るのが早い、そんなもんか」
するとダイが念話で伝えてきた。
『俺の念話と知能も伝えてくれ』
「ちょっと待てよ、ダイ。もしかして念話はハピには通じないのか?」
『そうみたいだな。実は俺にも仕組みが分からない。ひゃはっ、ひゃはっ、ひゃはっ』
笑い事じゃないだろ。
しょうがない、ハピに説明しておくか。
ハピに説明すると言葉は通じてるらしいのは知っていたが、やはり念話は知らなかったようだ。
それと知能が高いダイアウルフのことは知っていたらしい。
この辺じゃ有名なんだと。
「ダイ、お前はこの辺じゃ有名らしいぞ。知能の高い狼がいるってな」
『そうだろ、そうだろ、俺は伝説のダイアウルフだからな。ひゃっひゃっひゃっひゃ』
相変わらず笑い声の伝え方が変だがな。
これでお互いの能力がある程度理解したかな。
「よおし、ここからは実戦の経験を積むぞ。まずはターゲットを見つけるか」
「了解ですわ」
「ガウゥ」
ダイが臭いで辺りを探し、ハピが上空から探す。
俺達って偵察能力は凄いかも。
だから標的の発見は早い。
ハピが何かを見つけたらしく、地上に降りて来た。
ダイも何か嗅ぎつけたのか戻って来た。
話を聞くと、どちらも同じ標的だった。
次回は夕方頃に投稿の予定です。
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