109 魔人と戦った
翌朝になると、意識不明だったリンが目を覚ました。
「う〜ん、良く寝た〜」
死にかけた奴のセリフじゃないな。
そうなるとリンは、自らの魔法で傷を癒せる。
自分が治れば次は他者を癒せる。
落ち着いたところで、リンが俺に向かって変な事を言ってきた。
「ライ、助けてくれたんだってね。ありがとね。なんか私さ、ライの夢見たよ〜。ライが狼に変身して暴れてた。笑えるよね」
リンがそんな事を言ってきたのだ。
「そ、それは悪い夢を見たな。まあ夢で良かったな……」
俺がそう返すと。
「でも変にリアルな夢だったのよね。それにね、狼だったライがさ、今度は人間の姿に戻ってだよ、ハルトの魔剣で魔狼を両断しちゃったの。もうガチで引いたわ〜」
見られてんじゃん!
「リ、リンは瀕死の状態だったからな。願望と現実がゴッチャになって夢に現れたんだろう……」
苦しい言い訳だが、意外と上手いこと言ってる気がする。
どっちにしろ、これで通すしかない。
そこへヒマリが話に入ってくる。
「え〜、ライ、恰好良いじゃん。変身して悪者やっつけちゃうとか、それって正義のヒーローだよね」
それを受けてリンが答える。
「ああ、そう、そう。変身ヒーローみたいだったよ。そういえば、そんなのあったよね。何だっけ、ほら、アメコミのヤツでさあ、変身すると緑色の怪物になるあれ」
するとヒマリ。
「シュレッ◯だよ……ん? 違うかな」
「ちが〜う。そんなじゃないよ」
何の話か全く分からないな。
とにかく二人は盛り上がっている。
「あっ、思い出した。超人ハルト!」
ハルト?
「似てるけどぉ、なんか違〜う。でもさ、ハルトが超人って、なんか笑える。確か……超人ハルカ? ハルキ?、何だっけ?」
そんな話をしている間に身支度を整える。
それで早々に沼地を出発し、“地獄の裂け目”の吊り橋まで来た。
しかしである。
吊り橋の向こうには、人型魔物がいた。
そいつの周りにはオークの遺体が四体。
そして今まさに最後の一人である、五人目のオークの首を圧し折っているところだった。
それは馬車の留守番をしていたオーク達だ。
なんてことしやがる。
まあ敵が一匹なら叩き潰してやるだけだ。
俺達はさらに進む。
すると、まだかなり距離があるにも関わらず、人型魔物もこちらに気が付いたようだ。
そこでダイからの念話がきた。
『あれはヤバい、逃げた方が良いぞ』
「どういうことだ?」
『あいつは魔人種の一人で、俺は過去に戦った事がある。ニ回挑んで二回とも負けた。恐ろしく強い』
さすが魔物の地、荒れ大陸だ。
そんな恐ろしい奴がいる。
「しかし何でそんな奴がここにいるんだ」
『知るか』
そうだよな、知るわけ無いか。
まさか魔狼が殺されてその犯人を……なんてことは無い、よな?
だが逃げるといっても、吊り橋が押さえられていたらそれも出来ない。
だけど、まだ戦闘になると決まった訳じゃない。
殺されたオークには悪いが、そんな強い相手との戦闘は避けたい。
穏便に吊り橋を渡れれば、それに越したことはない。
「皆、吊り橋の向こうに魔人族がいる。かなり強いから気を付けろ。まだ戦闘になるとは限らないからな。ハルト、相手が魔物だからといって、こっちからは手を出さないように頼む」
「ああ、分かった。俺達は病み上がりだからな」
そのまま俺達は進んで行く。
吊り橋の前まで来ると、反対岸の魔人から声が掛かる。
「止まれ!」
一見、人間にそっくりなのだが、角が生えていて緑色の肌をしている。
寿命が長いのが特徴だ。
それが魔人族。
こいつらが厄介なのは、魔法に長けていること。
後ろから小声の会話が聞こえてくる。
「あれって、リアル超人ハルトじゃん。映画のとそっくりなんだけど。あ、でも角が邪魔〜」
「勇者の僕と魔人を一緒にするなよ。それに超人ハ◯クだろ、それ」
なんて呑気な奴らだ。
こいつら今そこにある危機を理解してない。
俺は魔人に声を掛けた。
吊り橋の両側での会話だ。
「俺達に何か用でもあるのか」
いきなりの攻撃はなかった。
それなら話し合いも可能と判断。
「魔狼を倒したのは貴様らみたいだな。貴様らから魔狼の匂いがする……貴様ら食ったな?」
食ったのがバレたか。
直ぐに吹き出したが駄目だったか。
あ、でもオーク達は完食したか。
一応聞いておく。
「それがどうしたんだ。お前に関係ないだろ」
「それが関係している。魔狼は我のペットだからな。それに貴様達、只者じゃないな?」
嫌な展開だな。
「俺達を殺そうというのか?」
「その通り。我、魔王軍に挑まん!」
魔王軍じゃねーし!
それに勇者もいるんだけど!
ダイを見ると首を左右に振られた。
避けられないってことか。
魔人がこちらに歩いて来る。
真っ先に護衛オーク五人が俺の前に出る。
「お前らでは無理だ。下がれ、手を出すな」
するとオーク達は渋々下がって行く。
ハピが認識阻害のマントを羽織り、空中へと舞い上がる。
ラミも武器を構えて俺の横に並ぶ。
「なんだかよお、ワクワクしてきたぜ」
ラミはやる気満々なようだ。
ハルト達も俺の横に並んだ。
そして俺に話し掛けてきた。
「なあ、ライ。僕達、魔王軍にされちゃったけど、このパーティーメンバーってそれくらい強いと思うよ。実は最強じゃないのか。負ける気がしないよ」
パーティーメンバーか。
魔物と勇者のパーティーだ。
確かに最強だな。
もしかして本物の魔王にでも、このメンバーだったら勝てるのではないか。
まずは目の前にいる魔人からぶっ潰すか。
先制攻撃とばかりにヒマリが、魔法で巨大な氷の刃を放った。
魔人は避けない。
直撃かと思いきや、命中する寸前で氷の刃は砕け散った。
魔法障壁か?
しかし詠唱などの、魔法を発動した様子はなかった。
魔人が吊り橋に手を掛けた。
そこへマジックミサイルが連続して放たれた。
空からのハピの攻撃だ。
しかし全く効いていない様子だ。
「それなら、こいつを喰らえ!」
ラミが毒球を放った。
だがそれも、障壁のようなものに弾かれてしまう。
「なんだ、その程度か。我の勘違いだったか」
そう魔人は言って、とうとう吊り橋を渡り始めてしまった。
そこでハルトが前に出る。
「その余裕もそこまでだ――――エクストラ・ダメージ!」
上段の構えから剣を一気に振り下ろす。
すると一際デカい斬撃が、光り輝きながら魔人へと飛んでいった。
ハルトの渾身の一撃だ。
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