107 死闘を繰り広げた
魔狼のボスが、岩山の前に降り立った。
正面から俺が対峙する。
そのボスの口が動く。
何かしゃべりかけてきたのだ。
「貴様はライカンスロープなのに、何故人間の味方をする」
俺は数歩前に進む。
「人間の味方だと、勘違いするなよ。ヴォルル……その人間は俺の支配下にある。それに手を出したのはお前だろ、タダじゃすまないぞ」
さらに距離を縮める。
「勝手な事を!」
もう目の前だ。
「詫びるなら出来るだけ楽に死なせてやるがどうする?」
間合いを詰める。
「話し合いにもならないか」
「そうだな。魔狼ごときがデカイ面するだけでも腹が立つからな。狼としての躾を教えてやる。ヴォルル」
「言ってくれる!」
怒りを露わにした魔狼ボスが飛び掛かって来た。
狙い通りだ。
空中のあの距離から火の玉を食らったら堪らない。
接近戦に持ち込めれば、あの火の玉は撃てないだろうからな。
それに接近戦闘なら魔狼程度に負ける気がしない!
「ガルルルルッ」
「ヴァウッ」
お互いに吠え立てながら、激しい攻防が続く。
横目で勇者達を見てみると、三人とも回収されてポーション治療されていた。
かなりの重傷だが、彼らが持っていたポーションは高級品。
助かりそうだ。
これで何も気にせず戦える。
しかし同じ狼系同士の戦いだ。
攻撃方法も同じで分かりやすく、お互いに決定打が入らない。
それに思った以上にこいつは強い。
さすが勇者パーティーを潰しただけのことはある。
一撃、良いのが入ったのだが、分厚い毛皮に俺の爪が阻まれた。
防御は奴の方が上のようだ。
ボス魔狼は時々詠唱を始めるが、ことごとく阻止してやった。
一旦距離が空いた所で、ボス魔狼が肩で息をしながら言ってきた。
「半獣半人の、中途半端なくせに、なかなか、良い動きをするな……」
とうやらボス魔狼は、息が上がってきたみたいだな。
持久力は俺の方が上か。
「そうやって休む作戦って訳だ。だがな、ヴォルルル、させねえよ?」
俺は一足飛びでボス魔狼に襲い掛かった。
その時、奴の表情が緩んだ。
くそ、罠か!
奴は襲い掛かる俺に向かって口を開いた。
詠唱か?
いや違う、何かくる!
俺の目の前に火の玉が出現した。
避けきれない!
顔を背けるのが精一杯だった。
火の玉は俺の胸に命中、爆発。
「ヴォルッ!」
俺は吹っ飛ばされた。
詠唱がなかったってことはスキルか。
しかし、これはキツイな……
なんとか立ち上がってみたが、胸元は焼けただれ血が滴っている。
そうなると一気に俺が不利になった。
ボス魔狼がニヤけながら言ってきた。
「さっきまでの威勢はどこいったんだ?」
腹の立つ野郎だ。
そう言った後、ボス魔狼は空中に浮き始めた。
俺の動きの止まった所で、あの巨大な火の玉を撃ち込むつもりなんだろう。
思った通りだった。
ボス魔狼の頭上で、火の玉が浮かび始めた。
火の玉は徐々に成長していく。
空に逃げられたら、俺は成すすべが無い。
ハウリング――――
奴が油断している今、これを放てば勝てるかもしれない。
だが重傷の勇者達は、俺のハウリングに耐えられないだろう。
駄目だ、ハウリングは出来ない。
俺はここで待つだけなのか。
しかし、俺は見えてしまった。
自然と笑いが込み上げてくる。
「ヴァハハハ……」
するとボス魔狼。
「何が可笑しい、恐怖で気が狂ったか」
「いやな、勝ち誇っている貴様が情けない顔になるのを想像したらな、ヴァルル、何だか笑いが込み上げてきちまったんだよ」
「なに負け惜しみを言っている!」
「負け惜しみだと? そう思うのなら貴様の後ろを見てみろよ」
恐る恐る後ろを見るボス魔狼。
だがそこには何も無い。
「脅かすな、何も無いではないか!」
そう言った途端だった。
突如何も無かった空間に、魔物が現れた。
「空はハーピー族の領域ですわ」
認識阻害のマントだ。
ハピめ、俺に見えるように、マントを捲ってピースしやがった。
おかげでボス魔狼の背後に回ったのが、分かったんだがな。
「いつの間に……」
ボス魔狼は悔しそうだ。
さすがに空中に浮くことは出来ても、空で格闘戦をする事は出来ないようだ。
そこでハピがおもむろにタンバリンを取り出した。
「おやおや、無抵抗なんですの。それでは一曲奏でますわよ」
翼を羽ばたかせながら、歌い出すハピ。
「何なんだ。このハーピーは何がしたいんだ!」
いきなり目の前で歌いだせば、そういう反応になるよな。
さらにハピは身体をクネクネと動かし出す。
“舞”も加わったようだ。
「パラリラ〜パリラ〜♪」
踊りと歌が加熱してきたタイミングで、遂にタンバリンの音が加わった。
そこで改めてその威力に感心する。
ボス魔狼にも効いているのだ。
「ぐわあっ、恐ろしい、やめてくれ!」
ボス魔狼は恐怖に苦しみながら、地上へと徐々に降りてくる。
反対に俺は、腹の底から笑いが込み上げてくる。
大空にタンバリンの音と、ハピの凄まじい歌声が鳴り響く。
それと共に火の玉は、徐々に小さくなっていく。
こうなったらもう余裕だが、油断はいけない。
さっきみたいに罠に嵌められる。
俺は人間の姿に戻り、ラミが持って来てくれた剣を手に持った。
剣とはハルトが使っていた剣だ。
勇者が使う剣なら、このボス魔狼にもかなり有効だろうと考えてだ。
そして地上近くまで降り立ったボス魔狼に向かって、走り込みながら勇者ハルトの剣を上段から振り下ろした。
「うららああっ!」
しかしボス魔狼もまた余力があったのか、ギリギリで避けようとした。
俺はスッカリ避けられたと思ったのだが、剣が空を斬ったと同時に光り輝く斬撃が放たれた。
その斬撃はもの凄い威力だった。
一撃でボス魔狼の胴体を両断したのだ。
二つに切り離された胴体が、血吹雪を上げて地面に打ち付けられる。
まずい、まだ聞きたいことがあったんだ。
「魔狼、死ぬ前に答えろ」
「グググ……」
さすが魔狼。
まだ生きてる!
「貴様は魔王なのか」
魔王って言うなよ、頼む!
でないと魔王殺しになっちまう!
「魔王は、貴様……だ……」
は?
死んだ?
待てよ、そんな死にセリフ、勘弁しろよ!
不意に後ろに気配を感じて振り返る。
後ろに立っていたのはミリーだった。
まさか聞いていないよな?
「ライって、魔王だったの……」
「ちがーう!」
とうしてこうなった〜っ!
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