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106 魔狼と勇者が戦った








 ミリーが指差した岩山だが、かなりの大きさがある。

 岩肌ばかりしか見えない中で、所々に小さな草木が生えているのも見える。

 

 徐々に近付いて行くと、岩山には幾つも窪みがあるのが見えてきた。

 問題は、その窪み全てに何かがいるのが見える事。


 ハピが目を細めながら言った。


「狼が何匹もいますわね」


 何となくそんな気はした。


 ダイが念話を送ってきた。


『魔狼の群れがいるぞ』


 これで魔狼は確定だが群れなのか?


 俺は疑問をミリーに投げかける。


「ミリー、もしかして魔狼は一匹じゃないのか」


「うん、十匹いるよ。でもボスは一匹だけどね」


 マジかよ。


「大きさはどれくらいだ」


「馬より大きいよ。ボスはさらにでっかいね」


 そんな魔狼が十匹かよ。

 

 敵対されたらマズいな。

 ここはある程度距離を置いた方が良いな。

 この魔狼の群れ中に、魔王がいる可能性があるからな。


 俺達が近付くと、岩山の狼達が立ち上がる。

 

 ここまで来ると、狼の種類が魔狼だとはっきり解る。


 ならばこの辺にしておくか。


「ハルト、俺達はここで見ている。悪いが危なくなったら逃げさせてもらう」


 するとハルト。


「ああ、仕方ない、そういう約束だったからな。まあ、直ぐに終わらせる」


 ハルトが剣を抜き、岩山へと歩き出す。

 続いて神官戦士のリンが、何かの呪文を唱えつつ、メイスを片手に歩き出す。


 そしてヒマリはというと、こちらを振り向き俺を見つめている。

 その瞳は何かを訴えている。

 何だか淋しそうにも見える。

 その意味は分る、分かるのだが……


 それに応える訳にはいかない。


 彼らは人間の勇者パーティーで、俺は魔物パーティーだ。

 魔王かもしれない魔狼に、戦いを挑む訳にはいかない。


 ミリーも斑目(まだら)狼達と一緒に、この場に留まっている。


 しばらく俺を見つめていたヒマリだったが、ふっと前を向き直り下を向く。


 その時、キラリと光る何かが空中を舞った。


 一瞬の間を置いて走り出すヒマリ。

 そしてハルト達に追い付くや、詠唱を始めた。


 すると魔狼達が、勇者パーティーに向かって走り出した。

 だが他の魔狼よりも大きな個体だけが一匹、岩山の頂上付近に残っている。

 

 恐らくあれがボスだ。


 九匹の魔狼が勇者達に急速に接近する。

 そして勇者達を取り囲んだところで、魔狼達の動きが止まる。


 何か会話している様にも見えるが、ただ単にお互いの出方を見ているのかもしれない。


 そして突如ハルトが剣を振るった事で、魔狼との戦闘が始まった。


 ハルトの剣は何も無い空を斬るが、そこから斬撃が飛ぶ。


 しかしその斬撃を難なく避ける魔狼。


 それ以外の魔狼が一斉にハルトに襲い掛かる。


 だが何かの防御魔法なのか、魔狼の牙は一瞬の光を発して跳ね返されていく。

 結界魔法ってやつか。

 歩きながら詠唱していたリンが掛けた魔法なんだろう。


 リンが頭上まで上げたメイスを一気に振り降ろす。


 標的となった魔狼がそれを避ける。


 土煙が舞い地面が砕け飛ぶ。


 メイスに魔法を掛けたのか、あるいは魔法が呪符されたメイスなんだろう、物凄い威力だ。

 

 ヒマリはというと、手に持ったワンドを魔狼へと向ける。


 するとワンドから尖った氷が幾つも発射された。


 魔狼は左に右にと動く。


 氷の刃を避けている。


 避けながら前へ出る。


 そして隙を狙って鋭い牙をヒマリへと突き立てる。


 だがそれも結界に阻まれて、まばゆい光を発して跳ね返った。


 魔狼の攻撃も効かないが、勇者達の攻撃も当たらない。

 その後もお互いに攻撃を加えるが、全くといっても良いくらい効果なし。


 これは決着がつかないのでは、などと思っていたら、岩山にいたボスが動き出した。


 岩山の頂上付近にいたボスが、そこから大きく上空へ跳躍した。

 信じられないが、ボスは岩山の上空で静止した。


 それが魔法なのかスキルなのか分からないが、初めて見る光景だった。


 それより問題は、その後にボスが何をしたかだった。


 何か口を動かしている。


 まさか詠唱か!


 思った通りだった。

 魔法が使えるのだ。


 ボスの頭上に、握り拳ほどの火の玉が浮かんだ。


 その火の玉が徐々に大きくなっていく。


 人間の頭ほどになり、さらに巨人の頭の大きさを超えて、まだ巨大化していく。


 それを見てダイが念話を送ってきた。


『あれを食らったら、さすがにリンが作った結界でも破られるぞ』


 だがそれを黙って見ている勇者達ではない。


 ハルトがボスに向かって光り輝く斬撃を放ち、ヒマリは巨大な氷を飛ばし、リンは防御系の魔法だろうか自分達に掛けた。


 しかし空中にいる魔狼が標的には遠すぎた。

 

 ハルトの斬撃は届かず、ヒマリの氷の塊も届かない。

 途中で消えてしまったのだ。


 ハルトが悔しがる中、巨大に成長した火の玉が放たれた。


 その火の玉を斬撃で迎え撃つハルト。


「ハルト、無理だ!」


 思わず言葉が出た。


 だが誰が見てもハルトの行為が無謀に感じるほど、あまりにも巨大な火の玉なのだ。

 案の定、ハルトの斬撃は火の玉に飲み込まれる。


 そして何事もなかったかの様に、火の玉は結界に着弾した。


 その直前、勇者パーティーを取り囲んでいた魔狼達は、その場から退避する。


 そして火の玉に被われて勇者達は見えなくなる。


 次に爆発が起きた。


 その爆発で煙と土埃で視界が(さえぎ)られる。

 

「全然見えませんわ」

「見えねえぞ、どうなってんだよ」


 ハピとラミがぼやく。


 しばらくして視界が晴れてくると、悲惨な姿の勇者達が見えてきた。

 

 ハルトは傷付きながらも、まだ立ち上がろうと、剣を地面に付いて歯を食いしばっている。


 リンはボロボロの姿でうつ伏せに倒れている。


 そしてヒマリ。


 地面に横たわったまま、手放したワンドに手を伸ばそうとしている。


 やめろ、もう勝負は着いている。


 再び魔狼達が、勇者達の周りに集まって来た。


 もう勇者達は放って置いてやれ。


 魔狼の一匹がヒマリに近付く。


 よせ、触るんじゃない。


 俺は先程のヒマリが俺を見つめていた時のことを思い出す。


 前を向き直った時に光ったもの。


 何度もその光景が、頭の中で繰り返される。


 ヒマリが前を向き直った時に、空中を舞った光り輝くもの。




 ――――あれは涙だ




 それが分かった瞬間、俺の身体は行動に出ていた。



「ヴォルルル」



 身体が熱くなる。


 気が付けば四脚で疾走していた。


 無意識の内に狼へと変身していく。


 怒りが込み上げてくる。


 何かに噛み付いた。


 硬い!


 強引に噛み千切る。


 魔狼の首が舞った。


 背中を何かに噛み付かれた。


 痛みは感じない。


 怒りが先にくる。


 身体を捻って爪を振るう。


 地面に肉の塊が転がる。


 さらに回転しながら、右に左にと爪を振るった。


 左右に肉の塊がゴロリと転がる。



 まだだ、まだ!



「ヴォオオ〜ッ!」




 本能のまま暴れてやった。






 しばらく暴れると、そのおかげか怒りが収まり、段々と現状が見えてきた。


 俺の周りには、血に染まった魔狼が何匹も転がっていた。


 そうだヒマリは!

 ハルト、リン!


 見れば、かろうじて息はある。


 どうやら獣魔達も駆け付けてくれたようだが、魔狼は残っていない。

 全滅させたらしい。


 否、まだ一匹いたな。


 岩山の上空で静止したままの魔狼ボスが。


「勇者達の治療は任せる。俺はあいつと決着をつける。ヴォルルル!」

 

 そう言い残して俺は岩山へと向かった。









引き続き「いいね」をよろしくお願い致します。







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― 新着の感想 ―
[良い点] この回、凄くいい。ヒマリさんが倒れて怒る主人公。凄く好きです。
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