表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/204

105 ヒマリと仲直りした







 吊り橋の件があってから、ヒマリとしょっちゅう目が合うようになった。

 ……いや、少し違う。

 ヒマリが俺を一方的ににチラ見している。

 それでいて目が合うとスッとらす。

 何かたくらんでいるのかもしれない。

 きっと芸術の仕返しだろうな。

 警戒はしておこう。


 だが警戒するもんだから、余計に目が合うようになってしまった。


 しばらく歩いたところで、食事を兼ねて休憩を取ることになった。

 食事の材料は、ハルトがマジックバッグから提供してくれた。

 野菜から各種魔物肉から調味料にパン、そして鍋にテーブルとイスまで入っていた。


 しかし料理が出来る者が、俺しかいないみたいだ。

 オークの中には料理が出来る者がいるのだが、人間の料理に慣れてしまった俺にとっては、オーク料理は好みではない。

 そこで勇者パーティーとミリーの分、そして自分達の分は、俺が調理することになった。

 オーク達はいつも自分達で用意するから、材料だけ渡してやった。


 ちなみにヒマリとリンは、料理が全く出来ないそうだ。

 だから勇者達の食事はいつもマジックバッグだよりらしい。

 それはそれで便利だが、今回みたいに買い忘れるとおしまいだ。


 ミリーに関しては生肉でもいけるから、味付け不要みたいな事を言っていた。 

 しかし今日は皆に合わせて、調理された物を食ってもらうが。


 俺が料理を始めると、ヒマリが近付いて来た。


「ライ、なにか手伝おうか……」


「なんだ調理出来るのか?」


「えっと、お皿の用意とかなら……」


「はい、手出し無用」


「なっ……」


 ヒマリは何も言わずに、少し離れたところで膝を抱えて座り込み、膝に顔を埋めたまま動かなくなった。


 おお、素直で良いぞ。


 だが、何故かその隣でリンがヒマリを慰めている。


 何故だ。

 やはり人間は、まだまだ分からない事が多過ぎる。


 俺が作った料理はワイバーンの肉入りスープだけなのだが、これがなぜか勇者達に大好評だった。

 といっても俺が作ったスープと、勇者から提供されたパンだけの質素な食事だ。

 それだけ、余計にスープの味が際立ったらしい。


「ライの料理の腕前は凄いな。これなら店で出せるレベルだよ」


 とハルトが言えば、俺の代わりにハピが答える。


「当たり前ですわ。ライさんは世界一ですわよ」


 それは褒め過ぎだよ。


「ガチで美味しいよね、ビックリなんだけど」


 そうリンが言うとラミが答える。


「ライさんはな、世界の頂点に立つ存在だから当然だよ」


 ちよっと待てい!

 遠回しに魔王って言ってないか?


 そこでヒマリが目をキラキラさせながら言ってきた。


「凄い、ライさんって何でも出来るんだ」


 するとミリーが口を挟んだ。


「そーいえばさ、ライって人間の王様から、英雄の称号を貰ったって本当?」


 このタイミングでそれ出すか。


 それを知らなかったのか、ハルトにリンにヒマリの視線が一気に俺に集まった。

 そして直ぐにヒマリが声を上げる。


「何それ、イケメン過ぎっ」


 ハルトが羨ましげにつぶやく。


「僕はそれが欲しかったんだよなあ」


 そしてリン。


「それって、ダンジョン討伐したからだよね?」


「あ、ああ、そうだ。英雄の称号の授与とかで、王都まで呼び出されて大変だったな」


 するとガックリした様子でハルトが言ってきた。


「僕よりライ、君の方が勇者っぽいよな。羨ましい」

 

 やめろ!

 人間から英雄と呼ばれ、魔物からは魔王と呼ばれ、さらに勇者とか勘弁してくれ!

 全部を敵に回す気はないぞ。


「やめてくれよ、俺はそういうのに興味ないからな。英雄の勲章とか付けてたのも最初だけだしな。直ぐに外したよ」


「その英雄の勲章、見せて貰えるか?」


「ああ、全然構わない」


 俺はバックパックの底に押し込んていた、“英雄の勲章”を取り出して見せた。


 勇者達から感嘆の声が聞こえる。

 しかしミリーは、軽蔑する様な目で俺を見る。


 そうだよな、魔物の俺が人間の勲章を貰うのはおかしいか。


 そんな目で俺を見ないでくれ。

 同族からのその視線は辛い。


 人間から絶賛されて、勇者から羨ましがられ、なんだかそれが恥ずかしく思えてさえきた。


「ハルト、よかったらこれを貰ってくれないか」


 思わず出た俺の言葉に驚くハルト。


「いや、さすがにそれは貰えないよ」


「だけどな、俺が持っていても意味がない」


「そんなことない。ライが持つのが相応ふさわしいと僕は思う」


 そこで俺は思い出した。

 そしてバックパックの中に手を突っ込んで探す。


「あった、これだ」


 そう言って英雄の小剣をハルトの目の前に出した。


「魔法の小剣か。これが何だ?」


 英雄になった時に褒賞として受け取った小剣。


「英雄の称号が入った魔法の小剣だ。確か雷撃魔法が付与されている。代わりにこれを受け取れ」

 

 慌てるハルト。


「代わりにって言うけどな、そう簡単に受け取れる品物じゃないぞ」


 するとヒマリがズイっと顔を出す。


「だったら、私が貰いたいんだけど?」


 は?


 一瞬悩んだのだが、ヒマリも勇者パーティーの一人だ。

 全く問題ない……よな?

 

「ねえ〜、良いでしょ。ハルトも私も変わらないよ〜」


「そうだな……よし、この小剣をヒマリに託す」


「やったー!」


 ヒマリは英雄の小剣を胸に抱き締める様に持って飛び跳ねる。

 何故かリンも一緒になって喜んでいる様だ。


 ミリーを見るとそっぽを向いている。

 

 俺としてはこれでどうだって感じなのだが、ミリーはもう俺を見ていない。


 それからというもの、ヒマリが俺にベッタリとなる。

 常に俺の側にいる。

 懐かれてしまったようだ。

 あの派手な化粧もしっかりするようになり、俺の描いた芸術が懐かしい。

 これでヒマリとの確執は解消したといっても良いだろう。


 いや、それ以上か。


 



 そして魔物に遭遇しながらも、勇者や獣魔がそれを蹴散らし、荒れ大陸を無事に進んで行った。


 そしてある時、ミリーが前方を指差して言った。


「あそこの岩山にいると思う」


 遂に魔狼の住処に来たのだ。









「いいね」ご協力ありがとうございます。

引き続きよろしくお願い致します。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ