105 ヒマリと仲直りした
吊り橋の件があってから、ヒマリとしょっちゅう目が合うようになった。
……いや、少し違う。
ヒマリが俺を一方的ににチラ見している。
それでいて目が合うとスッと逸らす。
何か企んでいるのかもしれない。
きっと芸術の仕返しだろうな。
警戒はしておこう。
だが警戒するもんだから、余計に目が合うようになってしまった。
しばらく歩いたところで、食事を兼ねて休憩を取ることになった。
食事の材料は、ハルトがマジックバッグから提供してくれた。
野菜から各種魔物肉から調味料にパン、そして鍋にテーブルとイスまで入っていた。
しかし料理が出来る者が、俺しかいないみたいだ。
オークの中には料理が出来る者がいるのだが、人間の料理に慣れてしまった俺にとっては、オーク料理は好みではない。
そこで勇者パーティーとミリーの分、そして自分達の分は、俺が調理することになった。
オーク達はいつも自分達で用意するから、材料だけ渡してやった。
ちなみにヒマリとリンは、料理が全く出来ないそうだ。
だから勇者達の食事はいつもマジックバッグだよりらしい。
それはそれで便利だが、今回みたいに買い忘れるとおしまいだ。
ミリーに関しては生肉でもいけるから、味付け不要みたいな事を言っていた。
しかし今日は皆に合わせて、調理された物を食ってもらうが。
俺が料理を始めると、ヒマリが近付いて来た。
「ライ、なにか手伝おうか……」
「なんだ調理出来るのか?」
「えっと、お皿の用意とかなら……」
「はい、手出し無用」
「なっ……」
ヒマリは何も言わずに、少し離れたところで膝を抱えて座り込み、膝に顔を埋めたまま動かなくなった。
おお、素直で良いぞ。
だが、何故かその隣でリンがヒマリを慰めている。
何故だ。
やはり人間は、まだまだ分からない事が多過ぎる。
俺が作った料理はワイバーンの肉入りスープだけなのだが、これがなぜか勇者達に大好評だった。
といっても俺が作ったスープと、勇者から提供されたパンだけの質素な食事だ。
それだけ、余計にスープの味が際立ったらしい。
「ライの料理の腕前は凄いな。これなら店で出せるレベルだよ」
とハルトが言えば、俺の代わりにハピが答える。
「当たり前ですわ。ライさんは世界一ですわよ」
それは褒め過ぎだよ。
「ガチで美味しいよね、ビックリなんだけど」
そうリンが言うとラミが答える。
「ライさんはな、世界の頂点に立つ存在だから当然だよ」
ちよっと待てい!
遠回しに魔王って言ってないか?
そこでヒマリが目をキラキラさせながら言ってきた。
「凄い、ライさんって何でも出来るんだ」
するとミリーが口を挟んだ。
「そーいえばさ、ライって人間の王様から、英雄の称号を貰ったって本当?」
このタイミングでそれ出すか。
それを知らなかったのか、ハルトにリンにヒマリの視線が一気に俺に集まった。
そして直ぐにヒマリが声を上げる。
「何それ、イケメン過ぎっ」
ハルトが羨ましげにつぶやく。
「僕はそれが欲しかったんだよなあ」
そしてリン。
「それって、ダンジョン討伐したからだよね?」
「あ、ああ、そうだ。英雄の称号の授与とかで、王都まで呼び出されて大変だったな」
するとガックリした様子でハルトが言ってきた。
「僕よりライ、君の方が勇者っぽいよな。羨ましい」
やめろ!
人間から英雄と呼ばれ、魔物からは魔王と呼ばれ、さらに勇者とか勘弁してくれ!
全部を敵に回す気はないぞ。
「やめてくれよ、俺はそういうのに興味ないからな。英雄の勲章とか付けてたのも最初だけだしな。直ぐに外したよ」
「その英雄の勲章、見せて貰えるか?」
「ああ、全然構わない」
俺はバックパックの底に押し込んていた、“英雄の勲章”を取り出して見せた。
勇者達から感嘆の声が聞こえる。
しかしミリーは、軽蔑する様な目で俺を見る。
そうだよな、魔物の俺が人間の勲章を貰うのはおかしいか。
そんな目で俺を見ないでくれ。
同族からのその視線は辛い。
人間から絶賛されて、勇者から羨ましがられ、なんだかそれが恥ずかしく思えてさえきた。
「ハルト、よかったらこれを貰ってくれないか」
思わず出た俺の言葉に驚くハルト。
「いや、さすがにそれは貰えないよ」
「だけどな、俺が持っていても意味がない」
「そんなことない。ライが持つのが相応しいと僕は思う」
そこで俺は思い出した。
そしてバックパックの中に手を突っ込んで探す。
「あった、これだ」
そう言って英雄の小剣をハルトの目の前に出した。
「魔法の小剣か。これが何だ?」
英雄になった時に褒賞として受け取った小剣。
「英雄の称号が入った魔法の小剣だ。確か雷撃魔法が付与されている。代わりにこれを受け取れ」
慌てるハルト。
「代わりにって言うけどな、そう簡単に受け取れる品物じゃないぞ」
するとヒマリがズイっと顔を出す。
「だったら、私が貰いたいんだけど?」
は?
一瞬悩んだのだが、ヒマリも勇者パーティーの一人だ。
全く問題ない……よな?
「ねえ〜、良いでしょ。ハルトも私も変わらないよ〜」
「そうだな……よし、この小剣をヒマリに託す」
「やったー!」
ヒマリは英雄の小剣を胸に抱き締める様に持って飛び跳ねる。
何故かリンも一緒になって喜んでいる様だ。
ミリーを見るとそっぽを向いている。
俺としてはこれでどうだって感じなのだが、ミリーはもう俺を見ていない。
それからというもの、ヒマリが俺にベッタリとなる。
常に俺の側にいる。
懐かれてしまったようだ。
あの派手な化粧もしっかりするようになり、俺の描いた芸術が懐かしい。
これでヒマリとの確執は解消したといっても良いだろう。
いや、それ以上か。
そして魔物に遭遇しながらも、勇者や獣魔がそれを蹴散らし、荒れ大陸を無事に進んで行った。
そしてある時、ミリーが前方を指差して言った。
「あそこの岩山にいると思う」
遂に魔狼の住処に来たのだ。
「いいね」ご協力ありがとうございます。
引き続きよろしくお願い致します。