101 それは知り合いだった
ある日の事だった。
俺達が依頼を終えて、エルドラの街の冒険者ギルドに戻って来た時だ。
何気無く依頼掲示板を眺めていると、新しく張り出された討伐依頼に目がとまった。
白金等級以上推奨と、かなりの高難易度だ。
ワンランク下の金等級の俺達でも、一応は受けられる依頼でもある。
ただ、その討伐対象を見て驚いた。
“魔狼”の討伐依頼だったからだ。
噂だけじゃなく、本当に“魔王”はいたって事だ。
冒険者ギルドは複数人の目撃証言など、ハッキリとした証拠が無い場合は依頼など出さないからな。
いや待て、まだ魔狼が魔王と決まった訳ではない。
これは単なる魔狼討伐依頼なのかもしれない。
さて、これはどうしたものか。
考えていると、俺の目の前でその依頼票をベリッと剥がす者がいた。
その剥がした依頼票を受付へ持って行こうとする。
しかしそいつ、いや、そいつらに見覚えがある。
「ハルト、勇者ハルト!」
ちょっと懐かしい気もする。
勇者ハルト、そして一緒にいるのは多分だが、魔法使いのヒマリと神官のリンだ。
雰囲気がかなり変わっていて、直ぐに分からなかった。
三人が俺の声に気が付き振り返る。
確かに勇者一行なのだが、かなりやつれている。
ハルトに関してはゲッソリといった感じ。
三人とも服装はボロボロだし、ヒマリとリンはあの濃かった化粧が剥がれ落ちて、ハルトと一緒じゃなかったら誰か分からないレベル。
そんなハルトが声を上げた。
「おおおおおお、ライじゃないか。久しぶりだね」
良かった、覚えていてくれた。
「誰?」とか言われたら落ち込んでいたな。
「ハルト~、こいつ誰だっけ?」
「う~ん、どっかであったっけ?」
ヒマリとリンは俺の事を覚えてないようだ……
くそっ。
「俺、俺だよ、俺!」
オレがそう言うと、ヒマリとリンが眉間にシワを寄せる。
「オレオレ詐欺じゃん」
「ハルト、気を付けた方が良いと思うよ」
オレオレ詐欺って何だよ!
「俺だよ、ライだよ。ラミアとハーピーと狼の獣魔を連れてた冒険者だよ」
そこまで言ってやっと二人は思い出したみたいだ。
「ああ、ああ、ライね、うんうん、覚えてるって、やだな~」
「あれよね、あの、ダンジョンに潜った時の老けた少年!」
老けた少年って……何か心にダメージを負ったんだけど。
そうだ、依頼票のことだった。
「えっと、その依頼票なんだが、もしかして受けるのか?」
魔狼の討伐依頼だ。
勇者が受けるとなればこれはもう“勇者VS魔王”の対決じゃねえか。
もうワクワクが止まらねえ!
「ああ、これね。そうだよ。僕達は今、白金等級だからね。それとね、実はこの周辺で魔王の噂があったらしいんだよ。その辺の情報も欲しいからさ、ついでに依頼もこなしながら探索しようと思ったんだよ」
勇者なのにまだ白金等級なんだ。
俺はてっきり冒険者最高級のオリハルコン級かと思ってた。
しかし魔王の噂ねえ……
果たしてどっちのだろうか。
偽物の方?
本物の方?
マズいな。
俺が魔王と呼ばれている事は、絶対に隠し通さないといけない。
これは絶対だ!
魔物の上に魔王呼ばわりされているとなると、勇者であるハルト達に間違いなく殺される。
しかし魔狼と勇者の対決となれば、必ずどっちかが倒される。
もし魔狼が単なる魔物であったならば、恐らくハルト達が勝って一件落着。
反対にもし勇者が魔狼に倒されたら、魔狼は魔王確定だ。
そうしたら俺は自分の正体を魔狼に明かせば問題ないしな。
ハルトには悪いがこの作戦でいく。
それにこの戦いは是非見てみたい。
魔王対勇者の戦いなんて、今後見ることが出来ない一大イベントだ。
「ハルト、その魔狼討伐の依頼なんだが、俺は少し情報を持っている」
「え、本当か。その情報を教えてくれ!」
「それは構わないが、条件がひとつある」
「なんだ、何でも言ってくれ」
「俺をその討伐依頼に同行させてくれ」
「なんだ、全然構わないよ。ライほどの腕前の同行者なら助かるくらいだよ」
「いや、俺は手を出さないつもりだ。さすがに魔狼相手に金等級程度の俺では無理だからな。安全なところでこっそり見ているだけだ。ただ、道案内が出来る。魔狼を見たという場所を俺は知っている」
ハルトは少し残念そうな様子だったが、俺の提案は快く受けてくれた。
俺は獣魔達に説明し、しっかりと準備した上で勇者一行と共に街を出発した。
俺の元には、オークの偵察部隊からの情報が入ってくるからな。
魔狼を見たという場所の情報も入っている。
だからといって魔狼に会えるとは限らないがな。
現にオーク偵察部隊がその周辺を探ったが、魔狼を見たという報告は一切ない。
だがダイが本気で探せば、見つかるんじゃないかという期待がある。
そして準備をして街を出た。
相変わらず勇者一行は歩き移動だったから、俺達の馬車に乗せての移動となった。
「ライ、そういえばさ、後ろから付いてくるオークってライの護衛なんだよな?」
そんなことをハルトが聞いてきた。
そうか、その辺は教えてなかったが、ある程度は街の噂で知っているようだ。
「ああ、俺の護衛っていうか、獣魔みたいなもんだな」
説明するのが面倒だ。
「信頼出来るんだよな?」
「ああ、そこは保証する」
ハルトを含め女性二人も少し困惑気味だ。
「なら良いよ、チョット疲れたから馬車は助かるよ」
そう言って三人はくつろぎ始めた。
そこで俺は聞きたかった事を聞いてみた。
「しかしどうしたんだその格好は。三人ともボロボロじゃないか。まるで高ランク魔物と戦って来たみたいだな」
するとヒマリとリンが、良くぞ聞いてくれましたとばかりに話し出す。
「そう、そうなのよね~。魔王が現れたって情報を探ってたらさあ、凄いの出てきちゃってねえ〜」
「ヤバかったね、ガチでヤバかったよね~。マジ死んだと思ったも〜ん」
何がヤバかったかサッパリ分からん。
だがハルトがしっかり説明してくれた。
「翼竜と戦ったんだよ」
翼竜?
それって
「まさか、ドラゴンと戦ったのか!」
ハルトは笑いながら返答した。
「ハハハ、違うよ。こっちだとワイバーンって言うのかな。黒いワイバーンだったよ」
待てよ、黒いワイバーンってあれか。
「もしかしてだけど、ハルト。それって言葉を話すワイバーンじゃなかったか」
「そう、そう、良く知ってるな。いや〜、あれを倒すのは苦労したよ」
え?
倒しちゃったの?
その黒いワイバーンさ、俺の知り合いなんだけど。
タンバリン貰ったんだけど。
お宝を定期的に貰える約束だったんだけど。
ハルトは笑顔でマジックバッグから何かを取り出して見せる。
それは間違いなくワイバーンの族長“ブラックバーン”の生首だった。
「いいね」のご協力ありがとうございます。
引き続きよろしくお願いします。