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100 王様のレストランを見つけた



遂に100話まできました!


それで通常の倍の文字数です。

いつもよりチョット読むのに時間が掛かります。














 ドーズの街を支配下に入れてから、大分日数が経とうとしていた。

 いつでも魔王に引き渡せる状態なのだが、魔王である魔狼の情報が入ってこない。

 魔狼まろう魔王まおうでちょっとややこしいが、街中で疾走する姿を見たという情報ばかりが入ってくる。


 だがそれは俺の事だし。


 ビクビクとただ待つのは嫌なものである。


 ドーズの街は今では、オーク支配下の街となっている。

 とはいっても、人間と魔物が共存する街であることに、大きな違いはない。

 支配者がすげ変わっただけだ。

 ただ以前と違い、賞金首の人間はいない。

 俺が次々に捕まえて、冒険者ギルドに突き出したからだ。

 金になる賞金首を野放しにするのは、もったいないからな。

 人間は殆どいなくなったが問題ない。

 現在この街で暮らす人間は、数十人ってところだ。

 その人間達は人間社会を追放になった者や、何らかの理由で人里から離れた者達だ。

 中には犯罪者もいるらしいが、賞金が掛かってないなら放っておく。

 あまりこの街以外の人と接触が多い者だと、人間社会にライカンスロープの事が知られる恐れがある。

 だがこういった奴等ならその心配もない。

 最悪、口を封じれば良いだけだ。


 そんな訳で、俺はこのドーズの街とエルドラの街を行ったり来たりしている。

 エルドラの街の方が発展はしているが、ドーズの街の方が物価が安い。

 それに加えてドーズの街の店に入ると、俺は誰よりも優遇されるのが心地が良い。

 エルドラでも貴族扱いなのだが、ドーズの街ではそれ以上に感じる。 




 ドーズの街には、楽器の演奏を聞かせる「バルテク」という飲食店がある。

 その他には無い珍しい飲食店は、いつも混んでいた。

 高級店なのだが、エルドラの街のアグリッパの店に比べたら全然安い。

 だが音楽を聞かせるという店はエルドラにはない。

 恐らく大都市とかに行かないと無いのかもしれない。

 それが小さな魔物の街にあるというのも面白い。


 どんな店なのかちょっと興味があり、獣魔達を連れて店に行ってみた。

 だがタイミングが悪かった。

 夕暮れ時で、一番込み合う時間帯だったらしい。

 行列が出来ていた。

 ここまで並ぶ店なんか初めて見るな。

 三十人位の亜人が並んでいる。


 店の外見は人間の店の造りを真似ている

 恐らく内装もそうだろうと思う。


 俺達がどうしようか悩んでいたら、店の入り口付近でドアマンをしていた用心棒風の者と目が合った。

 種族はダークオークだ。

 すると俺達の方へとそいつは歩いて来た。


「ライ様、御食事っすか」


 突然話し掛けられた。

 俺はこのダークオークは初めて見るのだが、相手は俺の事を知っている。

 それがちょっと驚きといえばそうなのだが、この街では珍しくない。

 時々街中で知らない奴に平伏されたりもする。

 

 獣魔達は露骨に嫌な顔をするが、俺は驚きを隠しつつ出来るだけ普通に答える。


「ああ、食事をしようと思って来たんだが、混んでるようだから他を探すよ」


「何を言ってるんすか。席ならご用意出来るっすよ。店内へ案内しますんでどうぞ」


 この行列の前で簡単に言ってくれるな。

 俺は質問する。


「満席なんじゃないのか?」


「ああ、その辺は何とでもなるっす」


 と言われ、俺達はその用心棒風の男に付いて行った。

 行列の人達に羨望せんぼうの眼差しで見られながら、行列の横をすり抜けて、正面入口から堂々と中へ入って行った。

 何か優越感を感じて悪い気はしないな。


 思った以上に内装は綺麗な造りをしている。

 高級感を出そうとしているっぽい。

 あくまでも『っぽい』だが。

 人間の職人にはやはりかなわない。


 店内へ案内されるのだが、席は一杯で空いているテーブルはひとつもない。

 やっぱり満席じゃねえかと思った矢先だ。


 支配人らしい獣人の男が出て来た。


「ライ様、ようこそおいで下さいました。直ぐにテーブルを空けますので、少しお待ちください」


 そう言って他の店員達に何やら指示をだす。

 すると数人の店員が、楽団の真ん前の一番良さげな場所にあるテーブル、というか客達をテーブルごと移動させやがった。

 そしてその空いたスペースに、平然と新しいテーブルやイスを置き、綺麗なテーブルクロスを掛けた。


「お席の御用意が出来ました」


 いや、待て。

 移動させられた金持ちそうな亜人達はどうなるんだよ。

 そう思ってその移動した先を見ると、壁際に追いやられているのだが、その席でグラスをこちらに掲げて引きつった笑顔を送ってきた。


 獣魔達は大喜びで席に着くが、そうじゃないだろう。


「えっと、大丈夫じゃないと思うんだが」


 俺がボソッとつぶやくと、支配人は笑顔のまま言った。


「ライ様はこの街の有力者ですので、誰もが機嫌を損ねたくないのです。だから黙っていても結果は同じだったと思います。私どもかやらなくても、周囲の誰かが同じことをしたでしょう。ですから気になさらない方が良いですよ」


 妙に説得力のある言い方だった。

 だけど、そもそも俺が有力者というのもおかしい。

 俺の事は出来るだけ秘密にしてある。

 何故俺が有力者となっているかな。

 まあ、魔王と呼ばれるよりは良いか。

 俺がちょっと悩んでいると、支配人は話を続ける。


「あちらの方達も、全て納得の上でございます。その代わり何かあった時には、少々なりともライ様の力添えがあればと言っております」


 それくらいなら良いかと思ってしまった。


「そうか、ならば良い。遠慮なく座らせてもらおう」


 そう言って俺は席に着いた。

 獣魔達も「良く分かってるじゃねえか」とか「暴れるとこでしたわ」とか言いつつ席に着く。

 ダイだけはお子様用の背の高い椅子に、無言でチョコンと座った。


 取りあえず飲み物を注文している間に、楽器を持った演奏者達が俺達の目の前の壇上に立つ。

 どうやら演奏が始まるらしい。

 昆虫系や鳥系の亜人ばかりだ。

 

 演奏が始まると俺の今までの常識がくつがえされる。

 楽器を使う者もいるが、自分の羽で音を出す者や、鳥のさえずりみたいな鳴き声を披露する者もいた。

 

 それは圧巻であった。

 ジャングルの奥深くの大自然を彷彿とさせる様な、壮大な感覚を演奏で味わわさせてくれる。

 初めての体験でもある。

 率直な感想を述べるなら、“素晴らしい”の言葉しか出て来なかった。

 これが“音楽”というものなのか。

 

 ハピが目をキラキラさせながら見ている。

 チョット不安が()ぎったが。


 演奏が一旦終わると、頼んでもない料理が運ばれて来た。

 

「おい待て、この料理は頼んでないぞ。テーブルを間違えてる」


 俺がそう言うとウェイターが「すべて店のおごりです」と告げて、そのまま立ち去ってしまった。

 店のおごり……

 アグリッパの店で食べ慣れた俺達にしたら、大した料理ではないと感じてしまうが、おごりなら関係ない。

 そうなると直ぐに料理に手を付ける。


 ラミ曰く。


「まあまあの味だな。アグリッパの店の方が美味いけどな」


 ハピ曰く。

「そうですわね。悪くない味ですわね。だけどこっちの方が量がありますわよ」


 ダイからの念話。


「味付けが雑だが悪くはないぞ」


 アグリッパの店で出される料理は、皿の上に少しか乗っていないのだが、それに比べてここは一皿の量が多いのだ。

 その点では、この「バラテク」の店に軍配が上がる。


 だが料理はそれで終わりではなかった。

 次々に運ばれてくる料理の数々。

 他のテーブルへ運ばなくて良いのかとさえ思うほど、優先されているように感じる。

 それも全て店のおごりだ。


 大食いの二人がいるんだ。

 遠慮など全くしない。

 出された料理は、奏でられる音楽に合わせて片っ端から平らげた。

 演奏を聞きながらの食事は、なんと食の進むことか!

 特に何とかダック料理というのが絶品だった。

 ただダック部隊を思い出して、少し気が引けたが。


 しばらくすると、ウェイターがワインのボトルを持って来た。


「こちらのボトルですが、あちらのお客様からでございます」


 どういうことだ?


 ウェイターの指し示す方向を見れば、悪い事してそうな金持ち風のリザードマンの男が、派手な感じの若いリザードマンの女と食事をしていた。

 その男と目が合うと、グラスを持った手を軽く挙げて頭を下げてきた。


 当然のことながら見たこともない奴だ。

 だがくれるというなら貰っておく。

 軽く手を上げて挨拶を返した。

 でも酒はあまり好きではない。

 ワインなら食事中に飲むが、それより俺はスープの方が好みだ。

 獣魔達はほとんど飲まないから、ボトルごと貰っても困るんだがな。


 そして演奏が終わる頃には何故か、テーブルの上にはワインのボトルが多数置かれた状態となった。


 久しぶりに腹いっぱい食った気がする。


 一息ついていると、支配人が出て来て何か言い始めた。

 まずはご来店ありがとう的な話があり、そこまでは良いのだがその後が問題だった。


「本日、実はスペシャルゲストが来店しております」


 スペシャルゲスト?

 誰が来ているんだろうか。

 店内をキョロキョロしていると……


「スペシャルゲストはこの方、ドーズの街の救世主、ライ様です!」


 そう言って俺を手の平で指し示す。


 え、えええ!?

 何を言ってやがるんだ、こいつは!

 だいたい救世主ってなんだよ!

 だが、そんな俺の気持ちも知らずに、支配人はさらに追い打ちを掛ける。


「それではドーズの英雄とも言われている、ライ様に一言頂きたいと思います!」


 無茶ぶりだろ!


 だがラミやハピはノリノリだ。


「ライさん、ここはガツンと言ってやりな」

「そうですわ、ズバリ言ってやるのですわ」


 二人とは反対にダイは、眠そうにあくびをしている。

 

 仕方ない。

 格好良いとこを見せてやるか。


 俺はその場で立ち上がる。


 静まり返る店内。


「皆の者、良く聞け――――」


 客達が固唾かたずを飲んで俺を注視する。

 だがこの場に及んで、まだ何を言うか決まってなかったりする。


 客達をゆっくりと見回しながら考える。

 どの客達も高そうな料理を頼んでいる。


 良し、これだ!


 俺は言葉を続ける。


「――――今日は“俺”のオゴリだ!」


 一瞬、何を言われたか分かってない様な、キョトンとした表情をする客達。


 反対に驚愕の表情をする支配人。


 そして少しの間を置いて、店内は大歓声に包まれた。

 頭を抱える支配人。


 ガツンと言ってやったぜ!


 俺達は“ライ様”コールの鳴り響く中、そのまま出口へと向かった。


 帰る時に一応値段を聞いたのだが、やはりタダだった。

 今日は店のおごりだから、俺の支払いも全て店のおごりだろって考えだ。


 その前にオークの指揮官に、俺が来店したら金を取るなと言われていたらしい。

 

 それからというもの、何度店に行っても特等席に案内され、俺達の分だけだが食事代はタダとなった。 

 

 

 そこでふと思ったんだが。


 魔王扱いされてねえか?











ここまで読んで頂きありがとうございます。

引き続き「いいね」共によろしくお願い致します。



まだ続きます!



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