10 バンパイヤと戦った
バンパイヤの男の眉間に皺が寄り、遂に言葉を発した。
「ほざけっ!」
なんだ、しゃべれるんじゃねえか。
だけど雑魚丸出しの台詞だ。
そこから先ほどとは一転して、かなり乱雑な剣スジになる。
そうなると避けるのは容易い。
容易いが、俺は攻撃に転じられない。
この男の手数が多すぎるのだ。
気が付けば俺は壁際に追いやられている。
俺の直ぐ隣にダイもいた。
ダイも追いやられたらしい。
ダイと俺の目が合う。
するとダイは、落ちていたショートソードを口に咥えてウインクをする。
狼二匹が剣を口に咥えるとは変な絵面だな。
俺もダイにウインクして返した。
それを合図に俺とダイは一気に反撃に出る。
といっても攻撃するのではない。
バンパイヤの二人の間を走り抜けようというのだ。
狙うは、こいつらの後方にいるリーダーのグイド!
「待て!」
「お頭!」
バンパイヤの二人は焦っていやがる。
この行動は正解だったな。
ダイはしゃべらなくても念話で俺に意思を送れるから、次に何をするか分かる。
了解したという代わりにウインクしただけだ。
だいたい、ずっとグイドは攻撃をしてこない。
どう考えてもおかしいと思うだろ。
それは攻撃出来ない何かがあるとダイは考えた。
それでこの行動だ。
俺が脚の筋肉に意識を集中すると、四つの脚の筋肉がさらに盛り上がり一気に加速する。
長くは続けられないが、この距離なら問題ない。
人間はこれを身体強化魔法とか、肉体強化魔法とか言うらしいが、俺のこれは魔力を消費しないから魔法じゃないと思う。
じゃあ何だと言われると困るがな。
俺が一気に駆け抜けようとするが、バンパイヤの男が何もせずに見過ごしてはくれない。
俺の首に向かって細剣を振り下ろした。
火花が飛び、ギンッという金属音が洞窟に響く。
俺は咥えたショートソードで細剣を受け流したのだ。
この剣が無ければ斬られていたかもしれない。
俺はそのままグイドのいるテーブルまで走り抜けた。
グイドが凄い形相でテーブルに手を着き、椅子から立ち上がろうとしてる。
だがその姿は老いた動きに他ならなかった。
普通の老いた人間よりは早いが、俺達の速度に比べたら止まってるも同然。
それを見て解かった、こいつは弱っているんだと。
とても戦える身体ではないな。
それならば話は簡単だ。
俺はグイドの首にショートソードを当てて振り返る。
ダイはテーブルの上に乗ってバンパイヤの二人を牽制した。
チェックメイトだ。
バンパイヤの二人の動きが止まる。
男の方が口を開く。
「汚いぞ……」
どの口がほざくか。
魔物に向かって正義感のウンチクでも説くつもりか?
俺はショートソードをテーブルにぶっ刺してから口を開く。
狼に変身してもしゃべれるのだが、声質がかわり時々吠え声が混じるが勘弁してほしい。
「ここから去れ、そうすればお前らのご主人様は生かしておいてやる、グルルル」
「そんな嘘を信じろというのか!」
「俺達は安全なところまで行く。そうだな、エルドラの街まで行くことにする。そこでグイドは放してやる。信じるか信じないかは自由だがな、さて、どうする……ガルルル」
バンパイヤの二人が耳打ちしている。
どうするか相談しているようだな。
そして男が口を開く。
「その首の冒険者章、貴様ら賞金稼ぎだろ。街へ行ったらグイド様を番所へ引き渡すつもりだな!」
「グルル……それがどうした。俺達はこいつを生きたまま連行してやるって言ってんだぞ。番所に突き出した後は、お前らが好きなようにすれば良いじゃねえか。別にこの場でこいつの首を切り落としても良いんだぞ。こいつの賞金は死んでても生きてても一緒だからな。信用できないってんなら付いてくれば良いだろっ」
再びバンパイヤの二人のが耳打ちするが、直ぐに男が答える。
「分かった、貴様を信じよう。必ず生きたまま番所に引き渡せよ」
「はいはい、俺達は金がもらえれば問題ないんでね」
ダイが念話で伝えてくる。
『こいつらは信用できない、気を付けろよ』
「了解だ。ダイ、グイドを頼んで良いか」
俺はダイにグイドを任せて人間の姿に戻り、適当な山賊の服を着ていく。
変身すると服は破けちゃうからな。
ついでに予備の服も貰っておく。
この裸の最中が一番虚しく感じるんだよな。
「おい、ここにいる山賊を何人か連れて行くから起こせ。グイドの食事に使えるだろ?」
俺がバンパイヤにそう告げると、山賊五人を目覚めさせ、グイドに付いて行くように命令している。
完全に奴らの配属の下僕となっている。
一旦バンパイヤの下僕になった人間は元には戻らない。
奴ら下僕となった者は、バンパイヤに定期的に血を吸われないと生きていけない。
麻薬患者のようなものだ。
山賊五人とグイドを従えて洞窟の外に出る。
そうだ、馬車があるはずだ。
「グイド、馬車はどこにある」
するとグイドは弱い声で「あっちだ」と指さす。
案内されて着いて行くと、茂みの中に馬車があり近くに馬小屋まであった。
何と井戸まである。
これはかなり長い事ここで生活していたな。
だがここがバレたからには、もうここでの生活は無理だ。
雨風をしのげる洞窟に加えて井戸まであれば、この辺りで依頼を受けた冒険者が休憩する為に殺到しちまう。
馬車に馬を繋ぎ、山賊五人とグイドを乗せる。
遠目でバンパイヤの二人が監視しているな。
気が抜けない。
そして口笛を吹く。
ハピへの合図だ。
ハピが現れたことで再びバンパイヤ二人に緊張が走る。
山賊二人も連れている。
これで合計で山賊七人だ。
銀貨にして十四枚!
はっはー!
こうして俺達はエルドラの街を目指して、夜の街道を進むことになった。
明日の投稿も深夜になりそうです。
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