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直違の紋に誓って  作者: 篠川翠
第一章 二本松の種子
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憎き雨(1)

 五日、東軍は白河を奪還するために笹川を出発して須賀川に進んだ。

 西軍の猛攻の危機にさらされていたのは、二本松藩だけではない。白河城からわずかな距離にある棚倉藩も、危険が目前まで迫っていた。既に棚倉藩からは急使が来ていて、二本松藩に援軍を求めている。この要請に答える形で、七日には、三個小隊を棚倉へ分遣した。

 十一日には、会津の総裁、辰野源左衛門が兵十個小隊を率いて、さらに翌十二日には仙台兵総裁増田歴治、軍事方泉田志摩が十個小隊を引き連れ、相次いで須賀川に到着した。

 そして十八日、東軍の諸侯は相談して次の白河攻略の部署を定めた。


 大平方面 会津藩 上田八郎右衛門、小池帯刀

 上小屋方面 会津藩 西郷頼母、高橋権太夫、木本内蔵之丞、野田進、神田兵庫、坂本三郎

 矢吹方面  仙台藩 増田歴治

       二本松藩 丹羽丹波

       会津藩 辰野源左衛門、諏訪豊四郎、諏訪左内、國府長次郎、黒河内友次郎、小櫃弥市

 金山方面  会津藩 小森一貫斎、木村兵庫、宮川六郎、及び相馬、棚倉隊     


 この頃、西軍の板垣退助は野州今市を守っていたが、西軍が苦戦していると聞き、肥前の兵に、自分に代わり今市を守らせ、自ら土佐の兵を率いて白河城に入場している。


 ***


 一方、続々と須賀川付近の前線に壮年の者たちが送られ、城下には老人と女子供の姿が目立つようになった。敬学館の教授陣も白河方面へ出動しているため、剛介たちも、とても学問どころではない。このところ、午前は朝早くから青田ガ原や仏ガ原に出かけて模擬戦を行う。既に戦闘を想定して、塹壕掘りなども取り入れられていた。

 谷を隔てた小高い丘を敵陣に見立てて、塹壕の中から様子を伺う。

「丈太郎、頭が高い!それでは敵に狙われるぞ」

 厳しい銃太郎の声が聞こえてきて、慌てて木村丈太郎が頭を引っ込めるのが見えた。

「よし、敵の砲弾が切れた。銃を撃て」

 塹壕の前面に築かれた土塁まで駈け、土壁の影に身を潜めて、丘の上にある松の小木を敵兵に見立てて、タアン、タアンと周りから銃声が聞こえる。

 剛介も狙いを定めて、引き金を引いた。

 松の小枝が弾け飛ぶのが見えた。よし、当たった。

「斬り込むぞ」

 銃太郎の号令を聞き、少年たちがわーっと駆け出した。すでに背丈程に伸びた茅の鋭い葉が、頬をピッとかすめて薄っすら血が滲んだ。

 土手を滑り降り、バシャバシャと小川を越えると、足元が濡れた。

 そこで誰かが躓いた。遊佐辰弥だった。小川の流れに足を取られたのだろう。

「立て!」

 銃太郎の怒声が響く。辰弥は言われるままに、すぐに立ち上がり目標の丘を目指して、再び、ダッと駆け出した。

 崖をよじ登ると、爪が剥がれそうになる。その痛みに歯を食いしばり、昨日の内に予め並べておいた藁人形を、切った。

「違う、突くんだ」

 後方から、また銃太郎の叱責が聞こえた。

「お前たちの腕では、まだ切り下げるのは無理だ。突け。そうすれば、確実に敵を倒せる」

 剛介は藁人形に、ブスブスと練習用の太刀を突き立てた。

 休む間もない。弁当を食べて急いで城下へ戻ると、今度は白河の前線に入る部隊へ送るための弾作りが待っている。今日も火薬で手を真っ黒にしながら、道場の思い思いの場所に座り、少年たちは鉛玉と火薬を紙でくるりと巻き、出来た弾を次々に箱に詰めていった。

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