表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
直違の紋に誓って  作者: 篠川翠
第一章 二本松の種子
1/95

新春(1)

主要登場人物

〈木村道場関係者〉

武谷剛介……主人公。二本松藩士、武谷半左衛門の次男。十四歳。

水野進……二本松藩士、水野甚内の息子。十四歳。

成田虎治……二本松藩士、成田頼壽の長男。十四歳。

岡山篤次郎……山奉行、岡山持の次男。十三歳。

後藤釥太……剛介らと共に会津へ向かう。十三歳

木村銃太郎……木村道場の師範。二十二歳。


〈家族〉

武谷半左衛門……剛介の父親。勘定奉行。敬学館の書道師範も務める。

紫久……剛介の母親。

達……剛介の兄。二十三歳。戊辰の役では、高根隊として白河方面に出張。


〈二本松藩関係者〉

丹羽長国……二本松藩主。

丹羽丹波……二本松藩家老座上。一連の戦争で、二本松藩の軍事総裁を務める。

丹羽和左衛門……軍事奉行。世嗣五郎君の傅役も務める。

内藤四郎兵衛……大城代。

丹羽一学……家老。白石会議に参加する。

丹羽新十郎……御側御用人。会津との折衝役を担った。

二階堂衛守……大壇口の戦いで木村隊の副隊長を務める。

大谷鳴海……番頭。鬼鳴海の名で、勇猛さが評価されている。

大谷与兵衛……番頭。

安部井又之丞……勘定奉行。

安部井磐根……安部井家の長男。戊辰戦争時は、一学や新十郎の補助役。

久保豊三郎……飛び入りで、大壇口の戦いに参加。十二歳。


〈会津藩関係者〉

丸山四郎右衛門……会津藩の名族。息子の秋月悌次郎は、重役を務める。

石川……丸山家の与力。猪苗代出身。

遠藤清尚……会津藩士。戊辰の役の後、剛介を婿養子として迎え入れる。次男は白虎隊として戦死。

遠藤敬司……清尚の長男。戦後は、大蔵省付属の経理学校で活躍。

伊都……遠藤家の娘。


〈西南戦争関係者〉

関……剛介の同僚。旧仙台藩士。別働第三旅団に所属。

菅原……剛介の同僚。旧庄内藩士。別働第三旅団に所属。

野津大佐……第二旅団参謀。戊辰戦争の際に、大壇口で負傷。旧薩摩藩士。

窪田重太……半隊長。元は白虎隊士中一番隊に所属。

宇都隼人……薩摩人。出水の出身。


 武谷剛介(たけやごうすけ)が初めて戦場に赴いたのは、慶応四年、十四の年だった。

 二本松藩の武士の子弟は、十一になると手習所に通い、そこで三年の修練を積んでから藩校の敬学館(けいがくかん)で四書五経を始めとする儒学など、各種の学問について本格的に学ぶのが習わしである。

 剛介の父の半左衛門(はんざえもん)は、敬学館の書道師範であった。日頃は「武谷先生」として門弟から慕われているが、決して文弱の徒ではない。

 知行は七十石と石高は低かったものの、その祖をたどると、あの柴田勝家に仕えていたという。家には勝家手ずから与えたという正宗の銘刀も伝えられており、剣術でも陰流の奥義を極め、兵法にも明るい。弓馬もこなし、親しみやすい人柄は誰からも愛された。現在は、勘定奉行の役割を任されている。

 一方、剛介はまだ身長が五尺にも満たない小兵である。やっと母の背に追いついたところであり、少々幼さがあるのは、致し方のないところであった。


「剛介。我が藩でも、そなたらは砲術を学ぶことに相成った」

 帰宅後、半左衛門がまず伝えたのが、その一報だった。

「砲術……でございますか?」

 日頃父に逆らうことはない剛介だが、わが耳を疑った。砲術とは、つまり剛介の好きな剣術ではなく、鉄砲を習うことを意味した。

「今更、火縄銃という時代でもありますまいに」

 脇から、兄の(いたる)が口を挟んだ。武谷家は、仮にも士分の家柄である。その子弟が鉄砲など雑兵の扱う道具を習うのか、と鼻白んでいるのは、明らかだった。

「いや、そうではないらしい」

 半左衛門は、首を横に振った。

「剛介らが学ぶのは、新式の銃だということだ」

「ほう、そうするとあのミニエーとかいう、先込めの銃でございますな」

 達が頷いた。

「だろうな」

 半左衛門も我が意を得たり、という体で達を見た。

「それだけではない。砲の撃ち方も伝授してくださるとのことだ」

「ほほう」

 なるほど、剛介たちは兄が習わなかった最新の知識を学べるということらしい。どちらかというと、武術よりも学問を好む兄が半左衛門の言葉に反応するのも当然だった。

「ですが、父上。剛介の身の丈はまだ五尺にも足りておりませぬ。そのようななりで、あの大きいミニエー銃が扱えますかね?」

 達は、ちらっとからかうような視線を剛介に向けた。

「兄上!」

 剛介は顔を真っ赤にした。

「きっと、扱えるようになってみせます!」

「まあまあ」

 母の紫久(しく)が、剛介をなだめるように笑った。もっとも、達の心配も最もなことで、ミニエー銃は銃身が大きい。小型のものでも四寸余りの長さがあり、しかも先込めなので屹立して、銃口から弾を込めなければならない。小柄な剛介に果たしてそのような真似ができるであろうか。達は思わずその場面を想像したのだろう。

「さあ、お汁が冷めますよ」

 紫久が食事を促した。竃からは、冬菜の干したものと、これまた干した大根の入った味噌汁の香りが漂ってきていた。

「そうだな。まずは夕餉に致すか」

 半左衛門が、紫久に命じて家族の膳を整えさせた。膳に乗ったほかほかの粟入りの飯と、芋の子を煮たものを目にした途端、剛介の腹がグウと鳴り、剛介は再び顔を赤らめた。


「そういえば」

 食事後の茶を啜りながら、剛介は父に訊ねた。

「砲術を学ぶことになったというと……」

 誰を師に選べばいいのか、剛介はそれが気になった。

「ああ。木村様のご子息が新しく門弟を募り、教えて下さるらしい」

「木村様が……」

 剛介は首をすくめた。木村貫治(かんじ)は稽古が非常に厳しく、怖いと、日頃剛介が通う日夏(ひなつ)道場の仲間の間でも、囁かれていた。

「ご子息の銃太郎様の評判は、聞いたことがあるだろう」

「はい」

 弘化三年生まれの兄より一つ年上の銃太郎は、藩の砲術大会において見事な成績を収めたことで名高かった。その評判は、いつぞや兄が興奮して話していたから、剛介もよく覚えている。

「先頃まで江戸の江川塾に学ばれ、そこでも大層優秀な成績を残されていたそうな。このたび御広間番を仰せつかり、四人扶持も拝領したと言うから、御家老の方々も期待されておるのだろう」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ