第2話:3歳、猫にジョブチェンジ
コンスタンツは2歳を超えたあたりから、町に買い出しについて行っていた。足は遅いわ疲れると眠るわ、買い出しに行く年長者たちはそれはもう嫌がったが、コンスタンツも譲れない。泣いたりごねたりねだったり、媚びたり黙って付いて行ったり、あらゆる手を尽くしてしつこくついて行った。
治安の悪い場所を確認しなければいけない。孤児院の状況からみて、警察機能や治安が良いとはとても思えない。2歳児3歳児で勝てるものは少ない。勝てるものと言ったらせいぜい孫に甘い祖父祖母と言ったところだが、スタンに祖父祖母はいない。
また、この世界でも女性は立場が弱くなりがちだ。あらかじめ女っぽい名前は避けておいたほうがいいだろうと、コンスタンツはスタンと呼んでもらう事にした。コンスタンツという名前が長いのもあり、「スタンでいいよ」と言っていれば、皆あっさりとスタンと呼んでくれるようになった。
そして毎日熾烈なおかわり獲得競争に挑み続け、体力づくりを欠かさず孤児院の周辺をよちよち歩きまくった結果、3歳になる頃には、スタンはゼンデンの町にでかけられるようになった。
スタンは毎日毎日町に出ては町の人にニコニコ声をかけまくった。愛嬌と笑顔は無料だ、素晴らしい。
しかし、貧民街に片足突っ込んでいる子供に町はあまり優しくない。臭い、汚い、近寄るなと散々な言われようだった。表通りを歩いていると町に住む子供に石を投げられることもあった。
ただ、冷たい人ばかりではない。食堂のおじさんは優しかった。最初こそ「くせぇ貧民街のガキがうろつくな」とつき飛ばされたりしたが、めげずにおじさんの射程範囲外からしつこく挨拶しているうち「野良猫と変わらん」といって毎日捨ててしまう食材や残飯をくれるようになった。
読者諸君、ゴミやんけ等と言ってくれるな。腐っていない残飯など、スタンには立派なごちそうである。スプーンだってつけてくれる。野良猫より好待遇と言えよう。野菜くずとくず肉やその場では食べられなくても、とにかく小さく切って、煮込めば食べられる。孤児院の皆ももって帰れば喜んでくれた。
食堂のおじさんが共同のゴミ捨て場に行く手間を惜しんでいるだけのような気もするが。誰も損をしないなら一層ありがたい。野良猫に負けないように綺麗に食べて、嬉しいと元気にお礼を言おう。ありがとうも無料だ、素晴らしい。
食べられるようになってくると、元気も出る。何日かご飯をたべて元気が出てきたら、共同ゴミ捨て場でましな服を探した。今着ているのは頭陀袋も同然だ。貧民ですと言って回っている状況を改善しないといけない。ゴミなら無料だ、素晴らしい。
子供服は少なくて、かなり時間がかかったけれど、着られるシャツとパンツを必要なだけ集めた。穴が開いていても、シミがあっても、洗えば頭陀袋よりかなりましに見える。ブカブカのシャツとパンツを着てまた毎日町を歩き回った。
「スタンちゃん、今日もお散歩?」
「スタン、邪魔だよ、どきな!」
「スタン、いい天気だね。」
やがて、町の人に声をかけられるようになった。あいかわらず冷たい大人もいたけれど、優しく声をかけてくれる人もいる。たまたま持っているオヤツをくれる人もいたし、お年寄り人などはいろんな話を聞かせてくれた。
「スタン、これ共同ゴミ捨て場にもっていってこい。」
ある日、食堂のおじさんがゴミをバケツにいれてよこしてきた。これ食べられないやつだわ、とガッカリしていたら
「これやるから」
とリンゴを一個くれた。よたよたとゴミを運んで3往復。スタンは初めて報酬を得た。
そして閃いた。その後、ゴミ捨て場に行って、またシャツとパンツを探して、洗って持って帰った。
翌日、スタンは孤児院でユリアンが一人でいるところに声をかけた。ユリアンはスタンの一歳年上で、スタンと仲がよく、スタンはユリと呼んでいる。
「ユリ、一緒に町に行こう。ゴミ運ぼう。」
「・・・は?」
ユリは何せ体力がない。おかわり獲得競争にも参加しない。「ユリ、おなかすかないの?」と聞いてみるが、
「勝てないのに?もっとおなかすくよ。」
と言うばかりで、部屋の隅で座っているか横になっている。孤児院の子供は基本無気力な子供が多いが、中でも抜群に無気力だ。いつも目が虚ろで呼吸すら薄い。
なぜ、そのユリを誘うのか。
ただ人手を増やしたいというだけではない。ユリは本当は賢いのだ。知性の能力の潜在値が尋常じゃない。脱貧困に知恵を貸してほしい。「知性の能力値」。
そう、人様のステータスを見続ける事3年と数か月、ステータスをみる能力は進化した。
モ●ハンでいうと、スタンはボウガンを使うタイプ。