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だから僕は君に片思いをする  作者: 江戸 清水
201X年
33/34

叫び声と銃声と視界の片隅

「お前か 俺を殺そうと……手回したな」


 卓也は異様な目でひろに銃を向けてそう言った。

 ひろは手を上げながら私から離れるように車からゆっくりと離れる。私は足がすくんで……動けずにいた。


 私を連れ去った人達は、卓也を消さないと全部バレると言っていた。なんの話か私には全く分からない。けれどお金より卓也を殺すことが目的のようだ。

 ごめんなさい……卓也。私は今、そこに頼りなく立つ最愛の人さえ無事でいてくれれば……そう願うばかり……。


「どーせ消されんならお前も道連れだー!!!」


 ―――卓也の叫び声と共に銃声が何重にも鳴り響いた。

 ひろは……。


 その直後、車が凄い勢いで走り去る。それをサイレンを鳴らす警察の車が追い、救急車の音がする。


 視界の隅に入り込む刑事さんに囲まれた卓也の足は寝転んだまま動かない。



「……帆乃花……帆乃花」


 ゆっくりとしゃがみ込んだ私の前に近づく茶色い先が尖った革靴……。


「……ひろ」


 ひろは私をぎゅっと抱きしめる。


「帆乃花……ごめん。またぎりぎりで、またひとりで怖い目に合わせた……」


「……馬鹿」


「ん?」


「どうしてあんな危ないことするの?!わ わたしはひろが居なくなったらどうしようかって……絶対に嫌なの!もうひろを失いたくない……」


「ごめん……僕も一緒だったんだ」


「え?」


「僕も君を失いたくなかった……絶対に」

 見上げた顔は清々しく、涙と震えで小さくなった私を穏やかに見下ろしていた。昔から変わらない冷静な瞳が伸びてきたさらりとした前髪から覗く。


 私たちは運ばれる卓也をただ茫然と見送った。




 ◇




 卓也は搬送され数日が経っても意識不明重体だという。

 卓也が引き金を引く時、先に警察の射撃が卓也の腕を打ったらしい。しかし、背後から犯人が卓也を撃った。

 警察はひろの安全を優先した形となった。

 逃走した犯人達は運転を誤り山道から転落した。


 卓也は違法薬物売買の大元から仕事を請け負い、組織から逃げ、足を洗いたがったらしい。

 大元の人物やルートが割れるのだけは避けたい組織は卓也を消そうと躍起になった。

 森崎さんは、遅かれ早かれ卓也は抗争に巻き込まれていたと、私やひろのせいではないと慰めてくれる。

 ひろは、自分が行かなければこんな事にならなかったかと気にした。しかし、森崎さんはひろが居たから、私に銃が向かずに済んだと言った。

 卓也があの時、ひろが手を回したように言い放った事でひろは自分がかつて危ない組織に関係があったか森崎さんに聞いたが、森崎さんも一度は調べたそうだがそんな事実は無いという。


 私には卓也を救うことなど出来なかった。もう救いようの無いひとだった。昔から極悪非道だと、ひろを罵っていた本人が非道な道を歩んでいた。

 人生いつ、どうなるかなんて分からない。改めて命の儚さに怯える。もちろん意識が戻り助かるかもしれない。

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