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だから僕は君に片思いをする  作者: 江戸 清水
201X年
32/34

あの男の素性

 帆乃花が職場に来ていないと連絡があった。帆乃花の両親は警察に通報し、僕は刑事の森崎さんと連絡を取る。くそ……やっぱりあんな事件があったから朝も送るべきだった。夜は迎えに行っていたのに。


 森崎さんによると、倉持の両親が、息子からすぐに金がいると言われたという。本人が東京から来て両親に会いに来るはずだと。きっと帆乃花の失踪と関係がある。

 森崎さんの調べで、倉持は反社会的勢力に身をおいていることが分かった。

 きっと表向きの仕事は違った為に帆乃花や帆乃花の家族は知らなかった。


 僕は倉持の実家には来ないよう森崎さんに言われたが、近くで待機する事にした。


 落ち着かず車で息を潜めること数時間、帆乃花のスマホは繋がらない。帆乃花を連れ去った人間は倉持から金を受け取るのが目的なのか?なぜ倉持はその犯人から逃げていたのか?どうでもいいが帆乃花を巻き込むのは許せない。


 夕方、倉持が実家へ入った。


 しばらくして出てきた倉持に森崎さんが接触する。


 二人は周りを警戒しながら立ち話をし、倉持は森崎さんに付いてくるなと言ったように車に乗り込んだ。


 森崎さんから電話が来る。

『佐々木さん、近くに居ますか?私は倉持のいる組織に把握されている。少し距離を取って応援も少なくします。佐々木さん、あなたは一般人です。下手な真似はやめてください』


『……はい』


 下手な真似はしたくない。だけど何もしないなんて選択肢もない。今、帆乃花はどうなっているか……考えるだけで気が狂う。


 倉持……帆乃花はもう僕のものだ。お前に振り回されてたまるか。


 ◇


 倉持を尾行する形で山奥にまで車を走らせた。

 広く数本の街燈だけが照らす暗い駐車場に車が止まる。倉持が出ていくのを見ながらそのまま待機する。黒いスーツに背の高い男、帆乃花をずっと苦しめた男…… 森崎さんは見当たらない。他の捜査員が居るのだろうか。


 倉持が鞄を駐車場で置く。電話片手に誰かと話し、何度も自分の脚を叩いて、怒りなのか焦りなのか尋常じゃない動きを見せる。すると、黒いバンが開き中から二人の男と……帆乃花が出てきた。帆乃花……。帆乃花がおぼつかない足取りで引っ張られながら歩く。

「……ぐ クソったれ」

 大丈夫だ……倉持が金を渡せば……。


 その時男の一人が手に何かを取り出した。あれは……銃……か?


 警察は……?素人の僕からは彼らがどこに潜んでいるのか分からない。ただ、虚ろげに視線を泳がしていた帆乃花がピタリとこちらを見た。


 気付いたのだろうか、僕がいることを。


 帆乃花……僕はこの数日ずっと君と奄美大島に行って美しいであろう海、君が好きだというその海を見て、君と生きると誓うことばかり想像しているんだ。

 帆乃花……。


 その時、倉持が銃を取り出し振り返りこちらに向けた。

 僕は車から降りる。

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