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だから僕は君に片思いをする  作者: 江戸 清水
201X年
20/34

悲しませずに傍にいるということ

 帆乃花(ほのか)と離れている時は一日に何度もLINEのやり取りをし、毎日のように会う。

 今日も夜ご飯を作りに来てくれるという。これじゃ僕が居なくなれば悲しませてしまうのではないかと、焦る反面自惚れたりもする。

 なんなら、全て言ってしまおうか。言ってしまえばこの恐怖を……大事な人を失う怖さを分け合えるだろうか……。死ぬのはやっぱり……怖い。

 いや……お互いに大事な人を失うとして、僕は無になれば何も感じない。けれど君は、その悲しみと生きていく。

 だから、やっぱり僕は言えないんだろう。


 ◇


「おじゃまします。相変わらず部屋きれいですね。何もないだけかな」

「長くは住まないしね」

「今日のメニューは、ひろのリクエスト。あーちゃんカレー」

「おっ!」

 高校時代、あーちゃんの家で帆乃花が手伝って作ったカレー。母さんが受け継いでない味を帆乃花が受け継いだ。


「玉ねぎを飴色まで炒めて、人参じゃがいもも小さく、すじ肉の煮込みはお肉屋さんで買ったし。あとは、りんごすりおろして、この作り方さ子供用だよね。あーちゃんは小さなひろに作ってたのかな?」


「どうだったかな。あーちゃんが辛いの苦手だったし僕もあーちゃんのカレーが好きだった。まろやかでコクがあって」


「まろやかでコク。パッケージにありそうなフレーズだねっ。まろやかなコク あーちゃんカレー」

「あははは」


 キッチンからそんな話をする帆乃花を見る。こうやって君と何でもない毎日を過ごして、何でもない会話して、カレー食べて……生きていければいいのに。


 ◇


 カレーとゆで卵、ブロッコリーが並ぶテーブルで帆乃花は運命について語りだす。


「だから、ひろの運命って何だと思う?」


「運命?難しすぎるよ。カレーだよ。インドの話に変えない?インド人は毎日カレー食べる。それだけ聞くとえ?飽きないの?って思うでしょ。でも日本人の味噌汁とそれは同じであって具や、スパイスに……」

「つまんない」

「あ?え?」

 帆乃花は、運命から逃げたくないらしい。


「僕の運命か……。それは幸せでも不幸でも、あ、これが運命なんだって受け入れるには……全て揃って自分の行く末が見えた時に初めて運命を感じるのかな。んー。僕が親や周りにダメ人間と思われたのも運命、帆乃花に出会ったのも運命、それから……帆乃花と結ばれなかったのも運命」


「……結ばれなかった」


 僕は帆乃花を傷つけた。今、僕の言葉に視線を落としスプーンまでカタっとテーブルに置く音が響く。


「……ごめん 帆乃花」

「私に、片思いするからとか言ってひろにとって私は……もう今更遅いってことだよね……だったらはっきり言ってほしい。もちろん……卓也の事で心配してくれたのは感謝してる。でもね、やっぱりひろにまた会えたら、私……私は」


「言わないで。言ったでしょ、好きとか嫌いとか言わないでってね。僕に片思いさせて欲しいんだ……僕は、帆乃花と居れないから」


 涙を拭いながら鼻水をすすり、帆乃花は訴えるように目を凝らす。

「どうして居れないの?居たくないの?」


「……もう誰かと付き合ったり結婚したりする人生は選ばない。決めたんだ。これは絶対だから……それが嫌なら、アメリカ行く行かないとか、奄美大島行くとか待たずに…………僕は消える」


「…………」


 君をただ抱きしめたい……全部忘れてぎゅっとしたい。こんな恋愛感情拗らせた男みたいな発言した僕をみて帆乃花は泣くのをやめた。


 きっとここを飛び出して帰ってしまうかもしれない。静かな空気が寂しさと不安を大きくする。

 僕には君を悲しませずに傍にいる事なんて出来るはずが無かったんだ……。


「……じゃ、その決心……揺るがすまで諦めないから」

「……帆乃花」

「ひろは、大事な人だから。私が選んだ結婚も離婚も責められていい。今更受け入れないって言われてもいい。でも……大事なの……」


 僕は何も言えなくなった。



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