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だから僕は君に片思いをする  作者: 江戸 清水
201X年
14/34

退院後向かった先に

『ひろの知り合いの方ですか?ひろは生きていますか?』


 息を呑んで待つ。

 もしかしたらひろの弟とか妹とか、または私の知らないひろの友達かもしれない。

 返ってくる答えでわかる。分かってしまう。

 ひろが生きているか生きていないか。本人を本当に知る人からなのか。

 今までどのSNSでもひろのフルネームで検索しても出てこなかった。



 そして、返事が来た。


帆乃花(ほのか)さんですよね?ひろが渡せなかった物を渡したいのですが』


 言葉を失った。ひろ本人じゃない……ひろを知る、私を知る誰かなのだろうか。本当にひろがこの世界に居ないと思うと今更ながら涙が止まらない……。


 それでも高校の後ひろが過ごした日々を知りたい。


『今は入院していて、退院後実家に帰ります。場所が私達の地元に近ければお会いしたいのですが。』


『分かりました。退院されたら連絡ください。お大事に』



 ◇



 退院の日


 私は迎えが来る前に病室を出た。

 置き手紙と緑の紙を置いて。



 ―――――卓也さんへ

 私はあなたを忘れたいのに、そうもいきませんでした。私は健忘症じゃない。

 後悔しかありません。


 この五枚目となる紙に名前を書いてください。



 ◇


 そのまま新幹線に乗って実家へ戻る。

 途中、高校時代ひろとよく会った、ひろのおばあちゃんが住む駅に降りた。

 一度実家へ帰った頃あーちゃん宅とひろの実家は調べて訪れた。あーちゃん宅のポストには違う人の名前が貼られ、ひろの実家は定かではなかったが空き家のようになっていた。


 駅直結の喫茶店へ入りTwitterを開く。


『今実家付近へ戻っています。いつでもご都合の良い日時場所を教えて下さい』


 新幹線で入れておいたメッセージに、返信があった。


『今、モール側の高良塚駅の改札に居ます。もしお体が大丈夫ならお会いしますか?』


 私は今その駅の喫茶店に居る……その人物はすぐそこに居る。


『駅の改札に行きます』


 飲みかけの紅茶を放り出して店を出た。

 階段を上ってスマホ片手に改札近くに行く。


『着きました。赤いカーディガン』とうちかけのまま、そんな説明がいらないことに気づいた。


 改札口の隅っこで壁にもたれる男性、さらさらの一度も染めたことないと言ってた黒い髪を掻きながらスマホをを見ている。


 ひろだった。


 どんな顔をすればいいのか、なんて声をかければ良いのか。

 出す言葉を決めかねているのに足は勝手に進んでいた。

 それでもやっぱり、置いてきた恋と大事な人がすぐそこに居るのが信じられなくて……この足をこれ以上前へ運んで良いのかもう頭の中はグチャグチャだった。

 生きていたそれだけで、喜びと後悔に私の顔はぐちゃぐちゃに崩れ落ちた。


 こちらを向いたひろは……笑った。

 手を上げてひろが私に向かってくる。


「帆乃花」

「……ひろ」



 ひろの世界を分かったみたいな顔には益々その分かりきったような悟り顔に磨きがかかっていた。

 つまり冷静であっさりした顔に、私は戸惑うばかりだった。


「幽霊じゃないよ」

 物腰の柔らかいその声も話し方も懐かしくて……次から次に溢れる涙を抑えきれなくなった。


「あーあ 泣かしちゃった。泣かないで。帆乃花さん」


 帆乃花さん……あのTwitterのかしこまった他人行儀なメッセージをひろが打ったんだと、改めて驚く。それだけ私達は大人に、充分大人になってしまった。


「どうして、ひろが亡くなった事になったの?やっぱりあの人が……。SNSで探しても見つからなかった……なのにどうして……」

 私からはどうして、どうして、気付けば質問攻めにしていた。


「ちょっと落ち着こうよ。とりあえず、逃げよう」

「え?」

「消えたいんでしょ?」

「…………」


 出会ったあの夜のようにひろは悪戯な口調を連ねる。


 ひろは私のツイートを見ていた……私だと知って見ていたんだ。ということは私の結婚も知っている。


「逃げるの僕の得意分野だから。逃げるの?逃げないの?……帆乃花」


 二度と叶うことがないと思っていた再会に涙を流したのは私だけ。ひろの表情は穏やかに笑うも、どこか仮面を貼り付けたようだった。




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