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第六話 広場の行事

暗い夜の中、満天の星が輝いています。白髪の少女が、結わいている髪を解き、いつもならセーラー服のようなシャツに、下に薄紫色のスカートを着ていますが、今はただ白い袖なしのワンピースを着ています。

書庫の横に設置されているウッドデッキに立って、彼女の純白の瞳は、星の明かりしかない中で輝いて見えました。その日は新月。月は見えず、いつもより暗い夜です。

「......いつまでそうしてる気だ」

黒髪の少年が声をかけます。

「...駄目?」

少女が薄く笑って答えます。

「今日くらい、外を眺めたっていいでしょう?」

「...まあな。俺は新月の夜しか外に出られないし」

黒髪の少年は黒賀(くろが)()の末裔です。白神家は神の使いですが、黒賀家は悪魔の使いで、昔この世界を支配しようとした家で、それを防いだのが白神家です。以来この二つの家は仲が悪く、黒賀家は〈魔術〉を使うようになりました。しかし、〈魔術〉を使うようになると、月や太陽の明かりがあると眩しくて体が弱くなったり、病気になったり、最悪の場合死んでしまったりしたのです。

〈神術〉も、使うと体が弱い子供が生まれたり、と大変でしたが、黒賀家ほどではありませんでした。術を使うのをやめることはありませんでした。なので、この黒賀家の一族は新月の時以外は外に出てはいけないと決めたのです。星の明かりならばまだ大丈夫なのですが、太陽や月ほど大きく明るければ黒賀家は耐えられなくなってしまいます。この黒髪の少年は過去に一度朝日が昇っている時に外に出てしまったことがありました。それから一ヶ月ほど寝たきりが続いた時があり、それ以来昼間に外にどうしても出なければならない時は黒い布を頭にかけて出かけています。この書庫の窓は全て閉じており、薄暗いところでいつも本の整理、術の修行をしています。

「ああ、ここにいたんだ。寝室にいなかったからどこにいったのかと思ったよ」

水色の髪の色の少年がにこりと笑って書庫からやってきました。

白髪の少女の少し上がった口角がいつもの真顔に戻ります。視線が夜空から水色の髪の少年に(そそ)がれます。

瑞人(みずと)...」

和人と呼ばれた少年はにこりと笑ったままそのまま白髪の少女の横に並びます。

「箏音、その服綺麗だね。そんなの持ってた?」

「母さんの形見。亡くなる前にくれたの」

「ふうん...」

聞いた癖に別段興味もなさげに言います。瑞人はそこで思い出したかのように言いました。

「そういや、最近依頼もないのに術を使ったみたいだけど、それが最近この街にやってきた女子と一緒にいた勇気君なんだって?黒賀君から聞いたよ。勇気君はただの脳筋じゃないか。脳筋に使う術は無いんじゃなかったのかい?結局箏音ちゃんはその横にいるひ弱そうな女子を守りたかったんじゃない?」

「別にいいじゃない。なぜ彼女を見ていてはいけないの?」

「逆になんであんな気が弱そうな少女が気になるんだよ。お前とは全然違うだろ。まさか友達になりたいとか言うんじゃないだろうな」

黒賀の言葉に、頑として箏音が答えます。

「だからよ。友達になりたいとかは思ってない。彼女は私と全然違う。違うから気になる。ただそれだけ」

黒賀が何も言えず黙り込みます。

瑞人が子供っぽく言います。

「じゃあ僕が連れてきてあげようか?話したらまた何か変わるかもしれないじゃないか。ちょうど明日は広場で行事がある。そこへ来るはずさ」

「そうね。明日連れて来てもらえると嬉しい」

箏音はまた微笑んで夜空に目を向けました。

「彼女に、会うのが楽しみね」






今日は勇気と広場の方向で出かける日だ。せっかくなのでみどりも誘うことにした。街を歩きながら駄弁(だべ)っていると、広場に着いた。

「広いねー」

「広場ではいつもいろんなイベントが行われてるんだ。今日はいろーんな食べ物が振る舞われてるんだぜ!」

「はいはい、もうそれ何度もさくらちゃんに言ったじゃない」

子供っぽい言い方をするのは勇気。それに軽く突っ込むのはみどりである。私はその二人の様子を面白そうに見る。そしていい匂いがして広場の方に目を向けると美味しそうな食べ物が売っている屋台がいくつもある。

「美味しそう......」

ゴクリと唾を飲み込む。あらかじめお母さんからもらったお小遣いが入った手提げポーチがあるのを確認する。勇気はサッカー仲間がいたようで、一緒に行ってしまった。

(なか)ば呆れながらもみどりと行くことにした。

「何食べる?」

私が聞く。

「うーん、そうだなぁ、唐揚げとかのお肉系もいいし、お寿司とかの魚系もいいし.....」

「いいねぇー」

現在はお昼の12時。どの屋台も沢山の人でごった返している。

「あぁー、西からきたパンやピザもいいなぁ、どうしようかなぁ」

「西の中々食べれない珍しい料理か、いつもあるような食事もいいし......」

私とみどりが決めかねていると、

「あれっ、そこにいるのって......みどりとさくらじゃない!?」

振り返ると、鶏肉(とりにく)の串刺しを片手に2本ずつ持った(すみれ)がいた。

『菫!』

みどりと私で同時に言った。

「なんだぁ、さくらとみどりってもう知り合いだったんだぁ」

と言う菫と合流し、菫が持っていたお肉の串刺しを一本ずつ貰った。3人で一緒に広場にあるベンチに腰かけて食べ始める。

「んんー!おいひいー!!」

みどりがはしゃいで言うので、自分も食べてみる。かりかりに焼いてある鶏肉の外皮に歯を立てる。パリッ、と外の皮が音を立てる。中はじゅわっとして、みどりの言う通り美味しい。脂っこいものはそこまで好きではないが、この串刺しはとても美味しい。

「美味しいけど、これだけじゃ足りないよね」

私がそう言う時

「じゃ、これ食べ終わってから色々お店見てまわらない?」

菫が言う。

私には反対する理由がなかった。





串刺しを食べ終わってから、パン、お寿司、ピザなど色んな屋台を見て回った。ピザは量的に無理だったが、お寿司は何皿か買い、パンはシナモントーストとクロワッサン。調味料のシナモン単品も買った。菫はベーグルを買っていた。あと食後のお菓子も買った。今日の行事のためか、いつもあるのかわからないが、テーブルと椅子が沢山ある場所のところに色んな人が座っている。その中で空いているテーブルを探しそこに座った。座ったテーブルの横にはちなみにその横のテーブルには勇気がいた。こっちに気づいているようだが、サッカー仲間がいるのでそっちと話していた。ちらちらとこっちを見ているのが分かる。私たちもパンを食べる。シナモントーストは香ばしい匂いがして、思わずもう手を出してしまいそうだ。食べるとやっぱり美味しい。クロワッサンには軽く砂糖がまぶしてあり、柔らかいパンにちょっと甘さが効いていてこれまた美味しい。お寿司も最高だ。3人でご飯を思いっきり楽しんだあと、デザートの時間だ。私は焼き菓子の箱を買った。6つくらい入った箱を開けると、甘い匂いが漂う。丸い焼き菓子の砂糖でできた色付きのソースがかかった上に砂糖がまぶしてあるという甘さの2乗である。私は口に入れる。

「甘〜い」

私がそう言う。

「いいなぁ、私にも頂戴」

と色気っぽく手を差し出す菫。私はちょっと吹き出しそうになる直前で我慢し、一個渡す。みどりにも一個ずつあげた。

「甘っ!」

「ほんとだ、すごく甘くて美味しい」

他にも一つ飴を買った。包装紙を取り除き、口の中に放り込む。砂糖の甘みに、体を前の世界でもこんなに飴は甘かっただろうかと考える。そのくらい最高なデザートだった。

残った二つの焼き菓子は家で食べるように残しておく。勇気はサッカー仲間と別れて私たちの方へやってきた。




空が青から徐々に紫色に、そしてもう赤色に変わっている。

勇気は家に帰ってお母さんと食べる用に

「楽しかったぁ。ありがと、勇気」みどりと菫と別れ、勇気と家に帰るときにいった。

「そうだな。また行こうぜ」

「今度は勉君と行ってね」

勇気がえっという顔になる

「つ、勉か......それはちょっと、む、難しいか」

「君と勉君の仲なら簡単じゃないか。ねぇ?勇気君」

『!?』

私と勇気が驚いて振り返ると、にっこりと笑っている水色の髪の男の子がいた。もうあたり前のことだが猫耳は生えている。

「か、瑞人!?」

困惑している勇気。私はわけがわからないまま水色の髪の少年を見る。

「勇気君、久々だね」

和人という少年を勇気が睨んでいる。

「お前、どうして......」

「前の続きをしたいねぇ。でも、悪いけど、今日は勇気君に用があってきたんじゃないんだ」

瑞人は私を指差す。前も同じように勉に指さされた気がする。

「さくらちゃん.....だっけ。君を呼びにきたんだ」

「…え?」

自分の名前を知ってることも疑問だし、私を呼びにきたとはどういう意味なのか。

「詳しい説明は後。とりあえずついてきて。勇気君もね」

訳がわからない。とりあえずむすっとした勇気と共に瑞人についていくことにした。










次回、ついに白髪の少女箏音と主人公さくらが対面。

裏でしか登場してこなかった箏音、表でずっと出てきたさくら。

一体どうなるのか....!




ちなみにそろそろ第一章が終わります。

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