第五話 菫(すみれ)色の猫
ある日のこと。
私は勇気のお母さん(一度お母さんと呼んだら喜んでくれたので以後お母さんとする)に頼まれ、近所の村崎さんのところへお使いへ行くことになった。
丁度みどりの所に行く所だったのでちょうどいいとおもったのだ。
お母さんは本来なら勇気にやらせたかったようだが、その前に勇気はこの街一番大きい街広場へサッカー仲間と行ってしまった。
多分勇気はお母さんが頼んでくる事を想定していて、早めに広場へ行ったのかもしれない。そういうところは頭が回るようだ。
勇気の家を出るとすぐ大通りがある。加奈沢通りといい、住宅が沢山並んでいる。右に真っ直ぐ行けば住宅街を抜けて街の中心部の大広場にたどり着くと勇気が言っていた。
勇気の家、赤井家のすぐ右隣にその家はあった。
(そういや、この荷物、何が入ってるんだろう?)
開けないでと言われたので気になりながらも開けないでおく。
荷物を気になりながらコンコンと戸を叩く。
「はーい」
淡い紫色の髪をした女の子が現れた。
下ろしているが、一部だけ横に結わいている。
唇は赤く濃く、白粉をはたいており、化粧をしていることがわかる顔だった。もちろん猫耳は付いていて、片耳が折れていた。
「誰?」
私は事情を説明した。彼女も自己紹介をしてくれた。菫と言い、勇気とは幼馴染で、おしゃれとお化粧をすることが大好きなのだと言った。
「お化粧をすると大人になった気がするの。良かったら試してみない?」
「え、私はいいよ…」
「そんなこと言わずに!」
菫はにこりと笑って私の荷物を持った手を引っ張る。
「え、あ、ちょっと!」
荷物を菫ちゃんの家のリビングの机の上に置かせてもらい、二階の彼女の部屋に行った。
「本当に、入って大丈夫?」
「母さんは出かけてるし大丈夫よ。ほらそこに座って」
促されるままに彼女の部屋の椅子に座って、お化粧をしてもらうことになった。
(大丈夫だろうか……)
戸惑ってはいたが、こういうのも悪くないとは思った。
私は小さく一瞬口角を上げた。
数分後。
「はい、出来上がり」
菫の部屋の机に鏡が置かれており、その鏡を覗き込む。そこにはやっぱりまだ見慣れない桃色の髪の猫耳が生えた自分がいる。だが、顔は変わってないので安心していた。その顔が白粉をはたいて綺麗な白い顔になっていた。もともと色白な方だが、白粉でもっと白く綺麗な肌になっていた。口紅は少し薄めなものにしてもらった。それでも目立ったが、普通よりはニ割増可愛くなったかもしれない。
「す、すごい......」
「さくらちゃんはもともと可愛いから」
「いやいや、全然可愛くないよ」
「可愛いって」
「そんなにいうほどじゃないと思うんだけど...」
二人で顔を見合わせて笑った。
そんなこんなで菫ちゃんとも仲良くなった。その後別れて化粧顔のままみどりのところへ行って、化粧している顔を見てみどりがびっくりしていた。
すぐ、
「ははーん、菫ちゃんね?」
とバレたが。
「なんで分かったの?」
「だって化粧品持ってるのは菫ちゃんだけだもの。仲良いしね」
「へぇー...」
私とみどりが喋っているときに勉が入ってきて、勉も驚いていた。
「......これは、すごいな。化粧ってただ顔を派手にさせるだけのものかと思っていたが、そうでもないんだな」
家に帰って勇気も目をまん丸にさせて驚いていた。
明日は広場で行事があるらしく、勇気はそこへ行くのだと言った。
私もついていくことにさせてもらったのだった。
場所は変わり、あの書庫にて。
「入るよ」
ガチャリとドアを開けて入ってくる水色の髪の少年。
そこには黒髪の少年がいます。
「......!お前...」
「僕に来ないでほしい?」
「お前が来ても、意味がないだろ」
黒髪の少年の言葉に、水色の髪の少年は、笑って言います。
「ははっ、ひどいなぁ」
「...今、箏音は術を使ってる。気をそらさないであげてくれ」
「...分かったよ、僕は君たちと違って何も使えないからね」
「...お前は十分役に立ってるよ」
「一体どこがだい?〈魔術〉も、〈神術〉も使えない僕が?だから炉威君も僕が来ても意味がないって言ったんじゃないのかい?」
「術は関係ない。お前は、人を手助けできる。俺たちと違って俗世に関われるじゃないか」
ちょっとふくれっ面で黙っている水色の髪の少年に向かって、炉威という黒髪の少年は続けます。
「それは一番お前が分かってんだろ、瑞人」
瑞人と呼ばれた少年は、驚きをたたえた目で黒髪の少年を見つめました。
感想と評価していただけると幸いです。