第三話 赤井家
山々に囲まれた、天まで届きそうな竹がたくさん生える竹林もある自然豊かな街。
その山の中で一番高い山。その山には、古来から神様が住んでおり、神様がこの木造の家が立ち並ぶ、まあまあ栄えた街と山々を守っていると信じられてきました。
その神様が下界への使いとして二人の白い猫が下界へ降りてきました。その二人が子孫を増やし、やがて白神家と呼ばれるようになります。
白は神守、神に守られている事を表す色です。その二人の猫は、特別な術を使って神の言葉を皆に伝えました。その術は神の術、〈神術〉と呼ばれるようになります。
今も、白神家はこの街で、神の使いとして崇められている存在になっているのですが......
「いい天気だなぁ......」
家の窓から空を見上げて私が言った。
あの後、勇気は帰ろうとしたが、混乱して固まっている私(あの後私は猫耳と自分の髪がきれいな薄ピンク色になっているという2つの衝撃でまともに思考ができなかった)を放っていくのも気が引けたらしく、家に連れて行ってくれた。私と勇気がいたのは街の近くの山らしい。数分歩いたら勇気の家に着いた。
勇気の親が承諾してくれるかが心配だったが、快く承諾してくれた。勇気のお母さんは、女の子が来てくれるなんて、と目を輝かせて言ったので、私は実はどこか住めるところを探していて、もしよければ住んでもいいか聞くと、とてもうれしそうにうなずいてくれた。「私ね、女の子が欲しかったのよ。こんな形で来てくれるなんて、神様はよく見てくださってるのね」
この家に来て数日経った夕方時の頃、勇気のお母さんと勇気と私で3人で話している時に出た言葉だ。私は疑問に思って聞いた。
「神様?」
「ああ、この地にずっと昔から住んでいらっしゃる守り神さまよ。この街ができてから500以上経っているけれど、今まで一回も大きな災害は来なかったのよ。まあ、小さな地震や火災はあったけど。でも、その火災だってほとんど家屋も壊れずに誰も怪我しないですんだのよ」
勇気のお母さんが説明してくれた。
「へぇ......」
私が興味深く聞いていると、勇気がため息をついた。
「神様神様言うけどさ、本当に見たことあるやつなんていねぇだろ?いるかわからないやつ拝む必要はねぇだろ」
「勇気は結構現実的だね......」
私が言う。
「スポーツは実力主義。強くないと上には上がれない。スポーツは現実のものしか映らない。だから、俺は目に見えないものは信じないことにしてるんだ。さくらは違うのか?」
この家に来る前に、私も自己紹介をした。それからは勇気は私のことをお前、ではなくさくらと呼んでくれるようになった。
「……好きなんだ」
「?」
「魔法とか、神様とか。目に見えないから、逆に、どう言うものなのか調べたくなるんだ。気になる。だから、信じる信じないじゃなくて、好きなんだ」
「......ふーん」
勇気は興味なし、といったような顔をする。勇気のお母さんがクスッと笑って、
「勇気、かっこいいこと言ったような顔してるけど、結局神様を祀るお祭りには参加するんだから」
それを言われた勇気は顔を真っ赤にした。ただでさえ赤いパーカー、赤い髪なのに、顔まで赤くすると手足以外赤い。私は可笑しくて笑うのをなんとか飲み込んだ。
「ま、祭りは景品とお菓子目当てなだけだ!神様なんて信じてない!」
「でも勇気、スポーツするときに勝てますようにって神頼みはするんじゃないの?」
私が勇気に言う。ちょっといじってみたくなった。
「そ、それは......」
目をそらす勇気。その様子がまた可笑しかった。
今度は笑いを我慢できなかった。
「ふふっ」
「おい!今笑ったな!?」
「だ、だって可笑しくて......ふふふっ」
「いいじゃない、さくらちゃんは何も悪くないわ」
勇気のお母さんが味方になる。
「はあ!?俺が全部悪いってか!?」
「怒ってるところとか......可笑しくて...あははっ」
「また笑いやがったな!?」
勇気が怒れば怒るほど、私は笑ってしまう。
勇気が諦めたようにため息をつく。
「はぁ......」
「ご、ごめんね......」
笑ってしまったことに後悔。私は俯いて謝る。
「......まぁ」
私は顔を上げる。
「お、俺は、お前が笑ってるのを初めてみ、見たから......ちょっとうれ、しいかな、って、思うから...」
私は目を丸くする。さっきよりは薄いがほのかに顔が赤くなっていた。赤というよりは薄ピンクと言った感じだろうか。
私はくすりと微笑む。ちなみに勇気のお母さんは自分が爪弾きになっていると思ったようで、少し顔をむすっとさせて夕食を作ると言って離れてしまった。
「そっか」
勇気が目をそらす。ココは別の話題を話したほうが良さそうだ。
「そういや、この街のこと全く知らないからさ、色々教えてよ」
「......あ、ああ。明日友達と会いにいくからお前も行くか?」
私は目を輝かせる。
「いいの!?」
「え、別に良いけ...」
「ありがとう!」
勇気の言葉を途中で遮る。それほど嬉しかった。
「じゃ、私部屋で休んでくるから!夕食できたら教えてね!」
「あ、おい待てって...」
勇気の言葉を無視し、私は機嫌よく階段を登り、自分の部屋に行く。
勇気の家、すなわち赤井家は二階建てだ。一回には勇気のお母さんの部屋、リビングとキッチンがある。2階には今はいない勇気のお兄さんの部屋が一番前にあり、その後ろの部屋は勇気。そのまた後ろの部屋が私の部屋だ。ちなみに部屋は元々物置だった場所を借りている。今は家の外に物置があるらしい。
勇気の家は母子家庭のようだ。数日この家にいるが父親が帰ってきている様子はない。しかし、詳しくは知らない。勇気に聞こうかと思ったが、聞いたら嫌な気分になるかなと思い聞いていない。
部屋のドアを開ける。部屋の中には私が持ってきていたリュックと勇気のお母さんに用意してもらった布団がある。
リュックの中には替えの服が何着かあるのと、人間界でよく気に入って読んでいた本3冊、そして髪を整える櫛とブラシ、ヘアゴムを5本。あとかわいい三毛猫のクッション。それだけしか入れていない。
なぜそんなに準備が良いのかといえば、家出したからに他ならないが、そのことは今の天に登るような気持ちに比べれば些末なことだ。
それよりも明日の勇気の友達というのがとても気になった。
やっぱり男子だろうか、それとも意外に女子だろうか。
うきうきしながら部屋の中に置きっぱにしている布団にダイブし、クッションを抱いて横になり行儀悪く足をバタバタさせる。
同性でも異性でもどっちでもいい。ただ気が合う人なら良いな、と思う。
この世界にはまだまだよくわからないことが多い。
でも、わからないから諦めるのではなく、わからないから手探りで探すのだ。
そういう事を考えて数分ほど経ったときに勇気の声がした。夕食ができたようだ。
私は階段を降りていった。
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