主人との出会い
屋敷へと続く階段を登っていると妖忌さんが
「結局貴殿の名前は何なのだ?いや、何か事情があるなら言わなくていいのだが・・・」
と聞かれたので僕は
「僕は猫魔と言います」
と答えた。「猫魔」とは、僕が持っている刀の銘だ。闘いの中で頭の中に浮かんできたのだが、今の僕は猫の耳とか尻尾とかがついているのでぴったりだと思った。そして僕は妖忌さんに自分に起きたことを話した。
「なるほど・・・記憶喪失か・・・」
「はい、なので自分が誰かも今まで何をしていたのかも全く思い出せないんですよね・・・あ、あと」
そしてもののついでと妖忌さんとの闘いの中で自分に起きたことを話してみた。すると
「もしかしたら貴殿は、能力を持っているかもしれないな。それに行くあてがないのであれば、我が主人に頼んでここに住めるようにしよう。」
と言ってくれた。そうこうしているうちに、屋敷にたどり着いた。(途中から数えていなかったが1000段はあったと思う)
そのまま客室に案内されると妖忌さんに
「ここで待っておれ」
と言われた。特にすることもなくお茶を啜っていると
また妖忌さんが来て
「こっちに来なさい」
と奥の部屋へと案内された。部屋に入る直前に、
「我が主人に失礼の無いようにな。」
と言われて緊張した。
そして、部屋に入ると、一人の女性がいた。ありえないほど白い肌、柔らかそうなピンク色の髪、見たことのないほどの美しい顔には、仄かな笑みが浮かんでいる。僕が座ると早速話しかけてきた。
「あなたが猫魔さんね。私はここ白玉楼の主人、西行寺幽々子よ。妖忌から話は聞いているわ。色々大変だったと思うけどゆっくりして行ってちょうだい。私にも何か手伝えることがあればなんでも言ってね」
と言うと、にっこりと笑いかけてきた。普通の男ならノックアウトされるだろうが、僕は
「ありがとうございます、西行寺さん」
と簡潔に答えた。
「あら、釣れないわね。それと私は幽々子でいいわ。」
「分かりました、幽々子さん」
そうして挨拶を交わし、この世界について教えてもらうことになった。
「まず、この屋敷は白玉楼と言うの」
「ふむふむ」
「そしてこの屋敷は、冥界にあるのよ」
「ふむふ・・・む?」
あれ?今何か不吉な単語が・・・
「あの・・・幽々子さん?冥界ってあの死者が行くっていうあの冥界?」
「そう、その冥界であっているわよ」
「ということは、僕ってもう死んでしまっているってことですかね?」
衝撃的な事実にびっくりして愕然としていたが幽々子さんの次の言葉で思い過ごしだと分かった。
「冥界と言っても死者しかいないってわけでもないわよ。実際生きたままここに来ている人?もいるし」
それと、もうすでに僕は人間じゃなくて猫人間になってるから今更かと思うことにした。
あと、幽々子さんは人間ではなく、亡霊らしい。どういうことかと気になったのだが、妖忌さんに聞くことを止められてしまった。まあ、他人の過去を問いただす趣味はないので、いつか教えてもらえたらいいなと思っておくことにした。
さらに、妖忌さんも生まれながらにして半人半霊らしい。妖忌さんの近くを常にフヨフヨと浮いているのが妖忌さんの半霊だそうだ。
そんな感じで話しているとすっかり夜になってしまった。さすがに眠くなってきたので幽々子さんに言うと
「それならご飯どうする?」
「いえもうそろそろ限界なので大丈夫です」
「そう・・・それじゃあ妖忌、猫魔さんを部屋に案内してあげて」
「かしこまりましたそれでは猫魔殿こちらへ」
そして部屋へと案内された。部屋の広さは十畳程でかなり広く、タンスや刀掛けがある。部屋の隅に置いてある布団を敷くとそこに横になった。突然見知らぬ場所に来たと思ったら、記憶がないしいきなり妖忌さんと闘うことになるしと今日一日だけで色々なことがあった。
「でも、これから楽しくなりそうだ」
疲れた僕は、気づいたら寝てしまっていた。