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間隙の恋  作者: 吉祥天天
第一章
7/30

7 倉吉 哲という男(1)


 残務を処理し終える頃には二課に残る人は少なくなっていた。

 パソコンを落として帰り支度をしていると、漸く検討会が終わったのか、疲れた顔の課長と主任が二課に入って来た。

 よせば良いのに、一瞬課長と主任が目配せするのを見てしまった。

 その後、主任が「今日のは良かったよ」と話し掛けてきたのだった。

 ありがとうございます、とだけ返す。

 何だか悪い予感がするのは気のせいか?



「いやあ、思いがけず深掘りされて、とんだコーヒーブレイクになったねー、まあ、上手くやってたよ。部長も褒めてた。うんうん」


「はあ、どうも・・・」



 主任は態と軽く話そうとしている。

 何だろう、言いにくいことがあるのかな。

 益々嫌な予感しかしないんだけど。



「後の検討会でもあの話題出たんだよね。確かにまだ本腰を入れている段階では無かったんだけど、萩野さんの報告を聞いて流れが少し変わって来てねーーーー」


「・・・・」


「倉吉君にチーム組ませて進めてみるかって案も出たりね。部長もね、面白いものになるんじゃないかって。まだ案だけど」


「・・・・」



 何だろう、寒気がしてきた。

 鳥肌が立っている気がする。



「・・・それで、例えば萩野さんもそのチームに入ってプロジェクトに参加する、てなこと、どう? やってみる気はあるかな?」


「嫌です! 無理です!!」


 即答で叫んだ。

 無理無理無理無理、絶対に嫌だ!


 呆けたように「そう・・・」と呟く主任を残して、失礼しますと慌てて二課を出た。



 廊下は誰も居なかった。

 エレベーターの方から数人の女性の声が聞こえていたから、彼女らもこれから更衣室に降りるのかもしれない。

 今、顔が強張って酷い顔をしているであろう私は、彼女達に会うのを避けるため、非常扉を抜けて階段に出た。



 降りて行きながら、デジャブなようなものを感じていた。

 金曜にここから屋上庭園に出たことから始まったこの三日間ーーーー。

 私は急に疲れを覚えて階段の途中で座り込んでしまった。

 ゲートのガラス扉越しに夕闇に沈んでいこうとする庭園の植栽が見える。



「ハアーーーー・・・」



 溜まっていた何かを吐き出すと、自然と涙が溢れてきた。



『よく、頑張りましたね』



 だって、すごく怖かった。

 初めてで、ひとりで、一秒毎に至らない自分を自覚して情けなかった。

 恥ずかしかった。

 それでも、松澤さんと一緒に取り組んだ成果だけが私の武器で拠り所で、あれのお陰で頑張れた。

 そう、必死に頑張ったのだ。



 それなのにーーーー。



『倉吉君にチームを組ませてーーーー』


『萩野さんもチームに入ってプロジェクトをーーーー』



 何で? 何でーーー。

 本当だったら嬉しい、誇らしい筈なのに。

 何で今ソコなの!?



 花形と言われる企画部にいて、二課の私が一課の私服組の女性を羨ましく思わない筈は無い。

 いわゆる縁の下の力持ち的な今の仕事を嫌いでは無いけれど、名だたるプロジェクトに携わって、次々とそれらを形にしていく彼ら彼女達の仕事振りに羨ましいと同時に悔しいという気持ちもあった。

 だから、自分の提案が認めてもらえて、直接それらを形にしていけるチャンスなんて、信じられない、嬉しいよ。

 本来ならーーーー。



 私は階段に腰掛けたまま膝の上に突っ伏した。



 折角携わった案件だもの、見届けたい思いも凄くある。

 松澤さんが一件一件丁寧に扱っていたのを見てきたから。

 それに自分が携われるかもしれない機会をみすみす逃したくなんかない。

 だから、でもーーーー!



 ウィーン、とゲートの扉が開いて誰かが急ぎ足で入ってきた。

 こんな所で座っていて驚かれるだろうか。

 でも酷い顔だし、見ないふりして通り過ぎて欲しい。

 私は息を殺して固まった。

 男性のものらしい靴音は早足で前を横切りながら私に気付いたのか一度止まり、再び歩き出してまた止まった。

 それから。



「萩野さん・・・」



 今一番聞きたく無い声と足音が戻って来た。

 私は無視するようにますます膝にかじりついた。

 どのみち今顔を上げれば恐ろしい事になっている自覚はある。



「・・・・」


「・・・・」



はぁー、と溜息を吐いたかと思ったら、



「報告会では悪かった。・・・・すまない」



 意外な言葉に思わず顔を上げたら、直ぐ目の前に姿勢良く低頭する倉吉の姿があった。

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