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間隙の恋  作者: 吉祥天天
第一章
3/30

3 私の特技


〝キミがココに来たトキ、ボクはユウヒを見てイタ〟



 あれはやはり、呪文とかおまじないの類の何かだったのだろうか。

 そしてそれは私が〝見てしまった〟からなのだろうか‥‥‥。



 私には一つ特技と言って良いものがある。

 それは、目が良いことだ。

 特に動体視力に優れているというか、普通の人が見ない、あるいは見えないで済ましているものが見えることがある。



 だからといって超能力や霊感、チートとかそんな夢のような話ではなくて、例えばアスリートの人が動体視力や反射神経を高めるために訓練としてやっている運動とか習慣を、私は小さい時から日常的に遊びとしてやっている内に自然に身についていった、という風なものだと思っている。



 優れた動体視力があったとしても私の生活に何かあるかと言えばあまり無い。

 これに優れた運動神経も併せ持っていたら、あるいは何かの選手として活躍出来ていたかもしれないが、生憎スポーツは苦手だし、その能力を活かした何かを見出してもいない。

 手品などはその殆どのトリックが見えてしまうので楽しめないし、それを指摘して悦に入る趣味も無い。

 むしろ見えることは良くないことなのではないかと高校生の時に思い知ってからは、あえて見ないようにしてきたくらいだ。

 しかしそれでもたまたま見えてしまうこともある。

 ーーーーあの日の夕暮れ時のように。



 あの後帰宅してから週末は用心のため外出は控えた。

 だからずっと家に居て嫌という程思い出した。

 あのピカピカっから始まって、夕陽を反射していたーーーー後から考えると銀色の、よく防災セットなんかに入っている保温用シートみたいな素材のヒーロー戦隊服みたいなものーーーーからのスーツ姿の倉吉さんとか、私に気付いて驚いて、その後こちらの反応を伺いながら話しかける様子、バカにしたような笑い方、冷たい目ーーーー。



 隣の一課とはパーティションで区切られているし、一課の人は外回りが多く社内に居ないのが普通なので、私は倉吉さんとはこれまで殆ど接触が無く、アレが初めての会話だったが、社内の噂や部内の評判で把握している倉吉さん像とは全く違う印象だった。

 多分、誰かに言っても信じてもらえない自信がある。

 あれが実は素なのだろうか。

 つまりは取り繕うことが出来ない程動揺していたとか?



 考えれば考える程有り得ない、非現実的で、それこそ夢みたいなことだ。

 誰かに相談するにもまずは自分の見たことを信じてもらわなければならないから、それは早々に諦めた。

 ならばどうするかーーーー。



〝キミがココに来たトキ、ボクはユウヒを見てイタ〟



 答えは教えてもらっている。

 見なかったことにするのだ。



 自分が目にしたものを全て無かったことにして、そして誰もが自然に納得出来る事象を上書きするのだ。



『私が此処に来た時、倉吉さんは夕陽を見ていた』



 あそこでああ言わなきゃ離してもらえないーーーー高校生の時、そう私は学んだから。



 倉吉さんは私の返答をどの程度信用しただろうか?

 一応あの場は解放してもらえたけど、「また、月曜にね、萩野さん」と念を押されたし、信用してないのかな、してないだろうな。

 でもどうすれば?



 あれが本当に呪文だったとしてーーーー全く効いてないよ。

 それにそんな呪文とか唱えてしまうなんて魔法使いですか?

 倉吉さんがマジ怖い。

 もうやだ!

 これはもう効いているフリするしか無いじゃないか。



 あれが実は呪文じゃなかったとしてーーーーならなんであんなコト言ったの?

 脅し、脅迫ですか倉吉さん!

 そうだと言わなきゃどうにかされるんですか!?

 ああ、ホント、怖いよ、怖すぎるよ倉吉さん!!



 ということで、呪文か脅迫かどちらかわからないけど、どちらにせよ、私は屋上庭園で夕陽を見ていた倉吉さんに会って、挨拶して帰った。

 ただそれだけ。

 それを貫き通す。

 そして、倉吉さんには近付かない、顔見ない、声聞かない。

 よし、頑張る。



 私は入り口から会社の入っているビルを見上げ、決意をもって中へと踏み出した。

 百貨店のロゴが掲げられている低い方の棟の屋上には庭園の緑が見えていた。

 その隙間からすっと人影が見え隠れしたのだが、その時の私は気付いていなかった。





✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎

《監視者》へのメール



from:K



週末の件、暗示の副作用は無い模様。引き続き観察する。


〈end〉





✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎

R e::《監視者》へのメール



from:《監視者》



了解。責務を果たせ。



繰り返しになるが、二度目は無いぞ!



この無能!



〈end〉

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