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間隙の恋  作者: 吉祥天天
第一章
18/30

18 白翁さん(1)


 私もスマホや手帳を取り出し、午前中に訪問した相手とその内容と感想などを、一応店内であることを考慮して、ボソボソと掻い摘んで報告する。

 概ね倉吉の予想の範囲内の内容だったのか、二、三の質問を挟む程度で納得出来たようで、詳細は纏めて来週の打ち合わせ時にメンバーに配布するということで報告を終える。

 一応、今朝からの動きにひと段落つける事が出来た私は、ひとまず安堵した。

 気が緩んだのだろう、「それで倉吉さんは? 予定は済んだのですか?」なんて口から溢れていた。

 


 倉吉はチラと店のカウンターの方へ目を遣ると、椅子に座り直すようにゆっくり上体を此方に屈めて、



「後で話す」



 小声で囁いた。



「・・・・」


「ーーーお待たせしました、天津飯です!」



 どうぞ、と丼の載った盆が二人の前に置かれていく。

 目の前に現れた天津飯は、ふんわり卵を覆う艶々の餡が輝いていて、手書きのお品書きの何倍も美味しそうだ。

 さあ、いただくぞー、とレンゲを握ったその時、「すみませんーーー」と、戻ろうとした店員さんを倉吉が呼び止めていた。



 すぐに振り返った店員さんは、私の母くらいの年恰好の女性だったが、話しかけられて驚いたのだろう、「は、はい。何か?」と慌て気味に返事する。

 倉吉は私が見た事も無いようなとびきり高感度の高い笑顔で尋ねた。



「駅の近くに『白良髭明神』の分社があると聞いたのですが、何処かご存知ですか?」



(は? 何ーーー明神? いきなり何?)



 そんな私と同様に「しららひげ・・・?」と小首を傾げて眉間に皺寄せる店員さんの背後から、「『白翁さん』だろう」と声が掛かった。

 カウンターの男の人が代わりに答えてくれたらしい。

 彼女はパチンと手を叩いて、



「あー、『白翁さん』のことね!」


「『はくおうさん』ですか?」


「ええ、そう。この辺の人は皆小さい頃から『白翁さん』て呼び慣れているからーーー」



 しらら何とかなんて、そんな大層な名前忘れちゃったよねー、とカウンターの男の人と笑い合い、場所を教えてくれる。



「この前の道を線路に沿って西に行けば、散髪屋さんの隣にあるわよ。普通の家みたいだから見過ごしそうだけど、中に入ったら白いお爺さんのお面が掛かっているからすぐわかるわよ〜」


「そうですか、有難うございます」



 倉吉の再びの笑顔に、店員さんは「いいえー」と恥ずかしそうに戻って行った。



・・・・・安セレモニー』〜♪、♫



 扉が開いてLEDビジョンのCM音楽が店内に入って来た。



「いらっしゃーい」



 新しい客に「お一人様? こちらへどうぞー」と店員さんが案内している。



ーーー当地の午後のお天気は、晴れ時々・・・・



 やがて扉が閉まり、また店内は静かになった。

 店員さんが注文を取る声を聞きながら、私達は黙々と天津飯を食べていた。

 天津飯は美味しかった。

 丼も大きくて、私には少し苦しい量だが、餡がサラッとしていて喉越しが良い。

 オムライスは逃したけど、これはこれで満足だ。



 結局倉吉はあの後何も無かったように食事を始めたが、メール処理のためかスマホに目線を集中しているので、私としては気を遣わなくて良いから楽だった。

 しかし倉吉が読んで処理していく間も次々と着信音が鳴っている。

 時々「それは俺に訊くな」とか呟いていて、この人は同時進行で一体幾つのテーマに関与しているんだろうと思った。

 私なんか、このたった一つの件だけで一杯一杯だと言うのに。

 それにーーー。



「ありがとうございましたー」



 客が出ていくのだろう、再び扉が開く。



♫貴方と私のアミューズメント・ワールド、『キス♡パラダイス』へ行こう! ♪♪♪〜、・・・・



「・・・・」


「もういいのか?」


「え?」



 どうやらレンゲを持ったまま止まっていたらしい。

 ダメダメ、気にしない気にしない。

 ふと目を遣ると、向かいの倉吉の丼はいつの間にか空で、とうに完食していた。



「! すみませんっ」


「いや、構わない」



 仕事の出来る人は食事も速いとか何とか、何かの見出しで見たような気がするが、倉吉はそれを体現しているようだ。

 私は慌てて食事を再開した。



「ーーーー美味かったし」


「?」


「いや、気にしないでゆっくりして良い」


「???」



 おかしいな、何だか倉吉の口から随分と人間らしいセリフが聞こえた気がする。

 怪訝な表情を浮かべていたのだろう、そんな私に「急がなくて良いが手は動かせ」と檄が飛んできた。



 そこへ、「お茶どうぞ」と先程の女性が湯呑みを持ってきて、テーブルに置いていく。

 二人で軽く頭を下げると、倉吉の空いた丼を取り上げて引き取った彼女は、少し躊躇いながら「あのー、ちょっとお尋ねしても良いですか?」と話し掛けてきた。



「はい、何か?」



 スマイル倉吉がまた現れた。

 此処は彼の独壇場だなーーー店員さんの相手は全面的に倉吉に任せて、私は遅れを取り戻すべく丼に集中することにした。

 耳だけは大きく大きくしながら。



「あのー、お二人は新しい温泉施設の工事の関係の方・・・ですか? あの、小学校の跡に出来る」


「ああ、まあ。廃校になる小学校の跡地の事ですよね?」



 ええー? 関係って、まだ何も無いのにーーー。

 これって、態と曖昧にボカして・・・何か情報を得ようとしてるとか?

 この時の倉吉は愛想良く微笑みながらも、目は獲物を捉えた狩猟犬みたいに研ぎ澄まされていた。

 そんな事には気付いていないであろう店員さんはそのまま続ける。



「そうそう。あの小学校のねー、銀杏の樹がどうなるかご存知?」



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